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東井悠友林

     〜 物の寿命 〜

      佐久総合病院名誉院長
          夏 川 周 介
 
   
 勤務先の病院への道中にある旧の町役場が取り壊され、すっかり更地となって次の施設(特別養護老人ホーム)の建築を待っている。平成の大合併により支所に格下げとはなったものの、かつては田舎の町役場としてはモダンな設計が目を引いていた。しかし、小生が佐久の地に居を構えた後に建設され、僅か40年余りの寿命でその役割を終えることとなった。
 時を同じくして、100m余り離れた勤務先の病院でも新病棟の建築が進められている。昭和43年に建設された7階建て500床の空母のような建物が来年には取り壊される運命にある。築3年時に入職して以来、現在まで苦楽をともにした施設から立ち退きを余儀なくされるとは思ってもいなかたことであり、やりきれなく釈然としない想いが募るばかりである。耐久性と耐震性に優れた鉄筋コンクリート製の建物がたかだか40〜50年で寿命を終えるとは、いったい、現代日本の建築文化とは如何なるものか。
 話は変わってわが家のチンのことである。チンといっても犬の狆のことではない。ましてや我が逸物のことではさらさらない。全国共通の愛称として親しまれている電子レンジのことである。結婚後しばらくして、大枚はたいて買った物だが、40数年間一度の故障もなく、今日までその役割を果たしている。途中で一度、最新鋭の機器に買い換えお蔵入りとしたが、スチーム機能を備えた新しい機器は音がうるさく、時間もかかり、即返品となって、再び登場となった。理不尽な扱いを受けたにも関わらず、その後も黙々と働くその姿はけなげで、時に妻よりも愛おしく感じられる。今では浮気をする気は毛頭なく、最期を見届けるまで大事に扱うことを誓っている。かつて世界を制覇した和製家電のレジェンドを守る意味においても。
 いったいわが家のチンの寿命はいかほどかと考えたとき、慄然とした。ひょっとしたら古希を過ぎた自分より長生きするのではないかと。
 「朕おもうに、チンには負けたくない」。