本文へスキップ
東井悠友林
   

弔意
当法人の顧問・高久史麿先生が、2022年3月24日に ご逝去されました。享年91歳でした。
先生は、当法人の設立時(2012年9月)から今日までの10年間、日本医学会会長等の激務に就きながらも、終始一貫、顧問として当法人の活動の推進に ご尽力下され、多くの会員に慈愛と示唆に満ちたお言葉を掛け続けてくれました。
ここに、高久史麿先生に対し、永遠の感謝を申し上げ ると共に、衷心からご冥福をお祈り致す次第です。
(東井記)


〜人間は協力を好むようにできている〜
    顧問 高久史麿
   
元日本医学会会長
     ・(公財)地域医療振興協会会長

   

 人間は社会生活を営む動物である。社会生活を営む上で、一定の秩序が必要で、そのために各社会に適合した「しきたり」が有史以前からあり、さらに近代社会になってその一部が法律という形で明示されるようになった。
 複雑な現代社会のなかで、一定の規律を維持するためには、法律の制定が不可避であるが、人間社会の成立の基盤となることの一つに、協力ということがあると考えられる。協力という行為は人間にだけにみられるとは限らない。蟻の巣作り、ライオンの獲物捕り、動物の子育てなど、動物の世界でも幅広くみられ、おそらく多くの動物は個体・種族の維持のために、ある程度協力しあうことが、その本能の一部となっているのであろう。
 それでは、人間の社会の協力は動物と同じように、本能によって行われているのであろうか。それとも協力は人間の知恵として生みだされたものであろうか。常識的に考えると、その両者が関与していると考えられる。
 前置きが長くなったが、人間も協力という行為を本能的に選ぶということが、最近、機能的MRIという脳の各部分の働きを調べる、新しい研究方法で明らかにされている。
 この仕事は、アメリカのエモリ―大学の研究者たちが行った17人の女性を対象にした「囚人のジレンマ」というゲームで行った研究で、対象とする女性たちは「相手と協力する」、「相手を裏切る」のどちらかの行為を選択する。その結果、損得にかかわらず、大部分の対象者は「相手と協力する」ことを選んだという。また協力することを選んだときの脳の働きを、上述の機能的MRIで調べたところ、空腹時に食事を与えられたとき、お金を与えられたとき、嗜好品を提供されたときと同じ脳の場所で、その活動が盛んになったとのことである。
 この結果は、他人と協力するという決断が、自分の好む物を与えられたときと同じ喜びを、精神的にもたらすように、人間は作られていることを示している。すなわち、協力という作業の推進に、人間でも本能的な要因が働いていることになる。しかし、ますます複雑化する現代社会で、人間がお互いに協力しあうためには、理性に基づいた協力の必要度が、今後ますます高まるであろう。
 当法人は「共助」を活動の基本理念としているが、一人でも多くの人に喜んでいただけたら、幸いである。