お水取りの日に

昨日(12日)は、思いのほか暖かな1日でした。
午後2時頃。
大江戸線の「麻布十番」駅を降り、目指すは「東京法務局港出張所」。
事務所移転に伴う、会社の「履歴事項全部証明書」を発行して貰うため。
ホームから地上出口までの間を、エスカレーターと階段を使いながら歩き続けるので
すが、これが長くてうんざり。

「大江戸線は都内でも最悪の地下鉄だな。どこの駅も不安になるほど深いところにあ
る。年配の人や乳幼児を連れた人には大変だ。毎日通勤で利用しているサラリーマン
なども辛いことだろう。都営三田線も含め、総じて都営地下鉄は「長(通路が長い)
・深(ホームが地下深部に)狭(車内が狭く感じられる)・暗(ホームも車内も薄暗
い)」と言える。
しかし営団地下鉄「副都心線」なども、在来線などの既存構築物をさけて敷設したの
で、モグラの通路の様な深い迷路になっているし、都民・利用者へのサービスの悪さ
は都営に限ったことではないな。
そもそも東急が超大型再開発を進めている渋谷駅など、最大の悪例。
何本もの路線が入り乱れ、さらに幾つかの巨大ビル建造を進めているので、長くこの
地域を熟知してきた俺でも、路に迷って疲労困憊するほどだ。
関係者は「今しばらくのご辛抱を。皆様のより良い利便の確保のためです」とでも云
い繕うだろう。
本音は資本の論理=金儲けしか考えていない。
それでも都民・国民は電車やバスを使わざるを得ない。この春から運賃が上がろうが、
「痛勤電車」でもみくちゃにされようが、暗くて狭い迷路を延延と歩かされようが。
昔は、運賃や電気・ガス・水道料金などの公共料金を値上げするだけで、国会や都議
会では与野党の激しい論議となり、消費者団体や労働組合が主催する集会やデモなど
に、多くの住民が参加して反対の声を上げたものだが。
今は黙して語らず、決められたことは守りましょうの、無気力な管理社会になってし
まったな。

これほど「人に冷たい」再開発をさらに凌駕しそうなのが、2020年開催の東京オリン
ピックだ。
東京都はカネに糸目をつけずに、壮大な無駄になりそうな大規模施設の建設を計画し
ているが、都内ではこれから7年間も駅の混雑や交通渋滞や騒音・大気汚染が続くと思
うと、これも気分が滅入る。
東京都も国も目先の利益誘導に狂って、罪作りなことをしてくれたもんだ。
これらにかかる膨大な資金とエネルギーを、なぜ東北の被災地復興に注ぎ込まないの
か。
少なくとも10年間ぐらいは、この1点に日本中が力を合わせて取り組むべきではないの
か?
たった3年の期間で、「あとは当事者でやれ。消費税と復興税などで、カネは作る」
か?」。

そんなことを考えながら、ようやく地上に脱出。
瞬間、ワッとした暖気に包まれ、思わずクシャミを連発。
余りの陽気に、額に浮かんだ汗を拭い、コートを脱ぎました。
道すがら、満開の桜に遭遇。
近づいて眺めると「河津桜」。
八重桜と染井吉野との中間ぐらいのピンク色。
よく見ると、メジロのつがいが、せわしなく花蜜を求めて動き回っています。
ようやく春がやってきたようだ。そう考えるだけでわけもなく嬉しくなり、東京法務
局港出張所の窓口で、750円の収入印紙を2枚買い求めて1,500円支払った時も、「春め
いてきましたね」などとおばちゃんに笑顔を。
前回は、事務所の変更登記申請で3万円の収入印紙代を支払った際、「事務所の住所を
1行変更するだけで3万円徴収とはねえ。ちょっと取り過ぎじゃない?」と苦言を呈し
た時とは大違い。

帰りに、駅近くのコンビニで週刊誌「女性自身」を購入。
レジの若い娘に「女性自身を買ったのは生まれて初めて。この対談を読みた
かったから」と表紙の写真を指差すと、「ああ、そうなんだ!」と単に驚いたのか、
やや同感したのかわからない返答が。
表紙には吉永小百合と瀬戸内寂聴が並んで映っています。
お二人の対談が特別記事として載っているのです。

瀬戸内「あなたは日本一の女優さんで、それだけでも素晴らしいことですけど、前か
ら原爆の詩を朗読したり、いまは原発被災者の詩を読んでいることは、ほんとに素晴
らしいことです。
しかも、それを30年近く続けているのでしょう?」
吉永「私も、こうやって細々と朗読を続けていますが、ときどき自信がなくなること
もあるんです。
(今では)3年前の悲劇を、大きく受け止めていない人も多いですし、もう忘れかかって
いる人も大勢いて、それは、一番悲しいことですよね」
瀬戸内「人間というのは忘れる能力があるから生きて行かれるんですよ。
でも人間はおバカちゃんですから、決して忘れてはいけないことまで忘れてしまうん
です。
今の日本で起こっている色々な問題はすべて、忘れてはいけないことを忘れてしまっ
たために起こっているのです」

瀬戸内「憲法改正の動きとか、特定秘密保護法の制定とか、今の日本の雰囲気は太平
洋戦争直前にそっくりです」
吉永「先日、テレビのニュースを見たのですが、「集団的自衛権が成立した時、あな
たは戦争に行きますか?」と若い人たちに質問していたんです。
すると躊躇なく「僕は戦争に行きますよ」と答える人もいて」
瀬戸内「・・・まあ」
吉永「そう答えた人の頭の中にある戦争は、ゲームやコミックスで知っている戦争で
はないかと思うのです。
戦争の本当の残酷さ、悲惨さ、怖さを親から教わっていないし、学校でも教わってい
ない。
本当の戦争の知識が得る機会が無いから、「戦争に行きますよ」と、簡単に答える若
い人たちもいるわけで、それがとても残念なのです」

とても興味深い、多くの話が掲載されていました。
お二人の女性に共通して感じたのは、「自分の信念のもとに日々行動し、発言してい
る」ということ。
こうした女性は、いや男性もそうですが、人間としてとても魅力的です。
そういえば、先日の朝日新聞に、次のような米国在住の日本人(ジャーナリスト)の
論説が載っていました。
「日本の教育に決定的に欠けているのは、社会、政治問題について「自分の意見を持
つことの重要さ」を教えていないということです」
確かに、教えているのは「横並び」ばかり。
人と異なる発想や行為は「異分子」として排除(村八分)される、地域や会社や学校。
昔からの携帯電話を使っている人は「ガラ(パゴス)ケー(携帯)!」と馬鹿にされ、
みんなと同じじゃないと仲間外れにされるからと、スマホ一色の若者社会。
中にはいい年をした年配者まで、電車内でスマホと格闘している姿を見るにつけ、苦
笑してしまいます。
日本中、どこもここも画一的に。
これは、国家が最も権力を独裁的に行使しやすい状況。

だから、今日(13日)発売の週刊誌も、相変わらず。
広告の大見出しは、週刊新潮は「中国・与太者の原理」、週刊文春「慰安婦デタラメ
報告書、独占公開」。
きっと本日の夕刊フジ(産経新聞系)も同様でしょう。
これが毎日、毎週繰り返されているのが、今の日本社会。
ヒステリー状態の社会では、マスコミは国家権力により巧みに利用され、不都合なも
のは排除されます。
国際的に冷静かつ堂々と反論を行うことは、私も大賛成。
しかし、昨今のマスコミを見ていると、「幹部以下全員が、戦争を知らない子供たち」。
勿論、安倍政権の閣僚も、誰一人として先の戦争で徴兵され、闘った者はいません。
それが怖いところ。アマチャン。
平和憲法を国際的にアピールしながら、したたかでしなやかな外交戦略をとる姿勢が、
私には全くうかがえないからです。
マスコミも「売れる」から、ことさらに反韓・嫌中のオンパレードを繰り返している
のでしょう。
それは、色々な分野で格差が拡大し、現在にも将来にも希望がもてない、鬱屈した国
民が増加している証左ではないでしょうか。
大局に立たず、国民の一部に受けるからと自己主張をするのは、敵の思うつぼ。
日本国内は喝采をしても、国際的には孤立を深めていくこと必至でしょう。
こうした政治やマスコミの流れは、極めて危険だと思っています。

ともあれ、山口瞳の名エッセイ「男性自身」は、全巻を数回読むほどお気に入りでし
たが、今週の「女性自身」の特集記事には鮮やかな印象を受けました。
女性誌といっても、あなどれません(他の記事は、やはりゴシップが多かったですが)。

昨日の12日は、東大寺・二月堂のお水取り。
この日を境に、春が駆け足でやってくる。
そんな思いで胸が高鳴ったのは、いつの3月が最後だったでしょうか。
年を重ねるということには、どの世代でも希望が不可欠。
その希望が生まれるのは、健全な社会があってこそ。
2014年の春は、さてどうでしょうか。

それでは良い週末を。