11日の朝日新聞朝刊を流し読みしていて、フッと目がとまりました。
第一社会面の左上の3段記事。
「知事「五輪会場見直す」都議会で表明 費用や環境、配慮」との見出しがありまし
た。
内容は、舛添・東京都知事が10日の都議会本会議で、2020年東京オリンピックの会場
計画を見直すことを表明。
具体的には、「全体で39会場のうち、都が新設・改修する12会場について、建設資材
や人件費の高騰、大会後の利用見通しを再検討し、整備費の圧縮を図るというもの。
12会場については、当初1538億円の建設費を見込んでいたが、資材高騰などで3800億
円に膨張するとの試算。(注・毎日新聞、日刊ゲンダイ参照)。
久々に「真っ当」な政治的・行政的判断に触れた思いがしました。
私は以前から舛添氏の人柄には興味が無く、政治的手腕や指導者としての資質がいか
ばかりのものなのかも存じないのですが、所管する間口が広く、業務が膨大な厚生労
働大臣の役職を経験してから、随分と変貌した様な気がしています。「自信をつけた
な」と。
今回の「計画見直し」は、私は大賛成です。
そもそも2020年オリンピックの開催地として、東京都が立候補したことには大反対で
した。
思いつくままに理由をあげると。
@国と都の財政負担に拍車をかける。膨大な会場等の整備費と運営費、それに大会後
の建物の維持費という巨額な負の遺産を若者たちに残すことになる。
A 我が国は1000兆円もの借金を抱えている。
あえて巨額な税金を投下するとしたら、それは東北の被災地復旧・復興並びに福島第一
原発事故対策に充てるべき。
これらを完璧に成就してこそ、日本は未来に向っていける。被災地復興と原発事故対策
は5年、10年計画で日本中が一丸となって当たるべき、戦後最大の課題。
高度経済成長の時代ならまだしも、あれもこれもの総花的な政策は、取るべきではない。
B東京は「30年以内に70%の確率で、首都圏直下型の巨大地震が起こる」と予測されて
から久しい。
今、都が最優先で取り組むべき課題は、ソフトとハード両面からの「首都圏の緊急防災
対策」。
都内の人口・建物過密地域(さらに湾岸を含む地盤軟弱地域)に、何年もかけて土地を
掘り起こし、埋め立て、道路を拡張し、旧施設や自然を破壊し、さらに無理やり新たな
交通網を創設し、そして巨大なコンクリート施設を幾つも建てて行くという行為は、狂
気の沙汰。リスクが余りにも大きい。
しかし、2020年の東京でのオリンピック開催が決定。
またも政治家やエコノミスト、それにマスコミは「開催による経済効果は○兆円。GDP
を○%押し上げる」
「今から仕込むオリンピック関連株」「外国人観光客招致の、おもてなし策」云々と、
カネ、カネ、カネ、、、、。
情けなくなります。
そんなおり、前述の新聞記事に、ほんのチョッピリ拍手をしたい気分になったのです。
でも、景観をそこなうとヤリ玉にあがっている「新国立競技場」の見直しは、「国立
だから国がやるべき」
と、今回の計画見直しには含まれていない模様。
あの巨大でグロテスクな建物を本当に計画通りに建ててしまうのでしょうか。
どうせ見直すなら、「あらゆる国の人々と自然環境に優しい、瀟洒(しょうしゃ)な
2020年東京オリンピック」というコンセプトで、既存建物の再活用や日本建築技術の
粋を集め、無駄を排除したシンプルな計画にして貰いたいものです。
そう。まさに金満とは無縁の、華奢も巨大さも無かった、日本人一人ひとりの誠実さ
が込められたような端正な各競技場の建物や、「日本人の律儀なおもてなし」を実行
した「1964年東京オリンピック」のように。
その記録映画「1964年東京オリンピック」(総監督・市川昆)。
単なる記録映画にとどまらない、美しく感動的な映画でした。
アスリートの競技直前の緊張した表情や吐息。人間の限界に挑戦して、投げる、走る、
跳ぶ、泳ぐ、上げる、倒す選手たちの躍動美。
その競技を支える多くの大会関係者、それにワイシャツやブラウス、学生服という質
素な姿をした日本人の観客。
ロードレースでは、紙と木で出来たウサギ小屋のような街並みや、丸坊主やおかっぱ
頭の少年少女の輝く眼差しが映されています。
そして、私が最も感動した場面。
それは開会式での各国の入場行進。
私が永遠の行進曲と思っている、「東京オリンピックマーチ」(古関裕而・作曲)の
大演奏にのって、各国選手団が入場してきます。
初参加でたった2人のコンゴ、470名の大選手団・ソ連。
どの国の選手団も、規模の大小に関わらず、厳粛で勇壮な会場の雰囲気に包まれなが
ら、誇りに満ちて威風堂々と行進して行きます。
そして、いよいよ最後は開催国・日本選手団の入場です。
オリンピックマーチが、鳥肌が立つような感動を喚起させます。
実況アナウンサーの声も、心なしか震えています。
「いよいよ最後、日本選手団の入場であります。
栄光を求めて、厳しい試練に耐えぬき、東京大会が正式に決まり、それから5年。
日本人一人ひとりの全ての努力は、この日のために払われた感じがします。
いま、堂々と胸を張って行進する、日本の若者、、、、」
私は心底「日本は素晴らしい!」と痛感した一瞬でした。
今までの我が人生で、唯一の体験と言ってもいいでしょう。
結語です。
2020年の東京オリンピック。
莫大なカネをかけて「大国」ぶるのはやめましょう。
日本の美点は「おもてなし」「おもいやり」。
建物は簡素でも、心が行きとどいた受け入れと、適切な大会運営を誇るべき。
日本人みんなが「もっと大切なものがある」という事に思いを馳せ、
いまこそ「平和と人類愛の祭典・東京オリンピック」へと、心を結集して行くこと。
1964年の東京オリンピックから今年で50年。
日本のプリンシプルを再確認する、最後のチャンスだと思います。
それでは良い週末を。