調心(ちょうしん)

先週のエッセイは「5つのS」という題名で、個人的な日常の健康法について述べまし
た。
「健康づくりということを、極めて御都合主義的で皮相的にしか捉えていない、自己
慰安的な内容だ」と、嘲笑した方もおられるかもしれませんが、私にとっては、長年
の経験からどれもが大事であると確信しているのです(食事の項目がありませんが、
昔から好き嫌いなく何でも食べるので、あえてSを設定せず)。
「何か問題があって悩んでいる時は、原点(自己のそれなりの原則)に戻って考えて
みること。初心に立ち返ってみること」
日頃から私はそう念じているので、「最近はどうも気力が湧いてこないな」「やけに
肩がこるな」「息切れするな」などという状態が長引いた時は、5つのSプラス2(注
・内容がわからない方は先週のエッセイをご覧ください)のうち、何かの励行を怠っ
ているのでは、と振り返ってみるのです。
「ここ数カ月、運動(Sport)不足が続いている。よし、今日から毎日1万歩のウォーキ
ングを再開しよう」「酒(Sake)が過ぎる日が多い。深酒は万毒の元になる。今日から
2週間禁酒し、極力お酢(su)を飲むことにしよう」とか。
しかし、5つのSプラス2は、私の好きなポジティヴな項目ばかり。
実は、その同列に加えるには馴染まない、もうひとつのSがあるのです。
これが最も大切。
そのことを今回述べてみたいと思います。

もう一つのS。
それはSpiritあるいはSoul、「精神、心」。
これだけでは何のことかわからないので、調心(ちょうしん)といえば良いでしょう
か。
「明るい心、逞しい精神、前向きな心」などと幾らでも関係した言葉が出てきますが、
それは単に形容詞をつけて精神、心の状態を表しただけですから、健康法ではありま
せん。
調心とは、心を整えること。
穏やかな、静かな心を保つこと。
禅の世界では「調身・調息・調心」という三位一体の言葉がありますが、姿勢を整え
る、呼吸を整える、そして心を整えるということになります。
先週述べたSの一つが深呼吸。
たった5分でも椅子に姿勢良く座り、目を閉じてゆっくりと深呼吸を繰り返すこと。
すると不思議なほど焦りや怒りや不満や不安が消失し、心が安らかになるのです。
私は調心ということは、現在のおびただしい健康法の中で、特に注目を浴びている
「自律神経を整えてガンなどの病気を予防する」という健康法と、同じ意味合いで捉
えています。
「自律神経を調節する=交感神経(緊張)と副交感神経(弛緩)のバランスを適切に
保つ」こと。
自律神経の不調=心の不調と、色々な病気の発症との因果関係が様々な研究で報告さ
れています。
いつも交感神経ばかり優位で、緊張や興奮状態が過度に続けば、精神が弱り、肉体も
おかしくなってしまうということ。
一般に、無理をした生き方や悩みなどのストレス→交感神経緊張→血流障害と顆粒球
(白血球・細菌を貪食する)の増多→組織破壊の病気へと連鎖する、と言われていま
す。
また、だからといって副交感神経が優位の状態ばかりだと、無気力になり、アレルギ
ー疾患など種々の病気の発症につながるようです。
だから、常に穏やかで広い心を持ちながら、いざという時に心を燃え立たせるという
バランスが、とても大切なことがわかります。
まさに普段からの調心です。

でも、調心を保つのは、一般の凡人では容易ではありません。
禅宗の行者も、日々「調心」のために厳しい修行を重ねているくらいですから。
私は若い頃、今は亡き母から、次のようなことを諭されていました。
「朝仁は、いつも胃腸をこわしているが、胃痛なんて神経からくるのよ。
先案じをしないで、もうどうなっても構わない、といった気になれば、治るわよ」と。
これも、平たく言えば調心のススメでしょう。
北海道出身の、肝っ玉の大きな母でした。
まさに「病は気から」。心が整っていれば病気は寄ってこないのでしょう。
次の言葉は、私が尊敬する先達の言葉。
「心に喜びと明るさと広いゆとりを生みだすことが、人間最大の責任と信じます。
その結果が肉体に反映される。
これが健康の基本だと信じています」。
この方は90過ぎまで国会議員、事業家、文筆家などとして元気に活躍されていました。

私は、これらの名立たる方々に共通している点の一つとして、
「心が広く、感情を露骨に表わさない、いつも悠々としている」ことが挙げられる、
と思っています。
私もせめて、そうした方々の調心の人格に1センチでも近づくため、今日も酒(Sake)
を少々飲み、(適度な飲酒はリラックスして緊張がほぐれ、副交感神経優位の状態に。
深酒は交感神経優位=興奮状態になり、不眠など心身を痛めることに。)、風呂場か
カラオケ店で気分よく歌を歌って(Singing)いるのですが。

Spirit(スピリット)とは、精神という意味のほかに「酒精」という意味もあります。
だから、心と酒はどこかで通底しているのだろう、、、。
そんなボンクラなことを考えている、梅雨明け間近の今日この頃なのです。
それでは良い週末を。