初秋の読書(1)

先週のエッセイの中で「8月中は新聞やテレビのニュースは敬遠し、外出しても車中や
喫茶店では雑誌や本を読まず、勿論スマホなどは使用せず、人々の表情などを眺めて
物思いにふけていた」と記しました。
常に当たり前になっていた情報渦の生活から一時離脱し、テレビもラジオも新聞も週
刊誌も書籍もDVDも一切見ずに過したのです。
そして8月最後の週末に長野県佐久市から帰京してからは、立て続けに6冊の書物を読
みました。
そう、9月になったからです。
今回はその6冊のそれぞれの書物から、印象に残った文章の抜粋とプラス1について述
べます。
何かを感じてくれたら幸いです。

まず「歩いて行く二人」(岸恵子・吉永小百合著、世界文化社)。
岸・吉永さんの3回にわたる対談と、美しくエレガンスなお二人の、豊富なスナップ写
真で構成。
対談はお二人の趣味や想い出の映画から、世界情勢、原発問題など多岐にわたって興
味が尽きません。
話はスポーツに。
その中の断章。
「岸:今、日本の若い人はとても憂鬱そうな感じで、何をしていいかわからないで戸
惑っているように見えるのね。その中で、スポーツ選手だけはいい顔をしてますね。
吉永:本当にそうですね。ラグビーの選手なんて、素晴らしいですよ。
岸:勝負!というときの顔なんか、いい顔だなあと思うし、やっぱりあああいうのは
若者に力をつけるなあと思って。
吉永:そうですね。
岸:小百合ちゃん、水泳のコマーシャルやってたでしょう。
吉永:はい、バタフライの。
岸:あれ大好きだったの!やめちゃったときは、ガッカリしたわ」

確かにスポーツをしている人の顔は、老若男女を問わずに素敵。
私は、テニスの全米オープンで準優勝した錦織選手もいいが、何と言ってもプロ野球
・日本ハムファイターズの大谷選手(20歳)が、スポーツ選手の中で一番好き。
投手と打者の二刀流という、プロの世界ではとてつもなく困難なプレイを堅持。
現時点では投手として10勝、バッターとしても10本の本塁打をあげているのですから、
実に立派。最速162キロの球速を出した時は、鳥肌が立つほど感動しました。
丸ぽちゃ顔の童顔だが、凛々しい良い顔をしています。

次の本は、前述した岸恵子さんの「わりなき恋」(岸恵子著、幻冬舎文庫)からの断
章。
日本エッセイスト・クラブ賞など数々の受賞作がある、今では名女優というより名作
家。
この方の二刀流も賞賛に値します。
場面は、わりなき恋の相手男性との出会いになる、パリ行きの飛行機内。フアースト
クラスの隣同士での会話。
「「プラハにいらしたことがおありなのですか」
「ええ、3回ぐらい。初めて行ったのはすごい大昔です。チェコに革命が起きた1968
年の5月」
「え?あのプラハの春と呼ばれている革命ですか?」
「ええ、「人間の顔をした社会主義」をスローガンに掲げてソ連型共産主義からの脱
出を図った、ドプチェクの革命です」
「伊奈笙子(しょうこ・主人公)さんは、あの時プラハにいらしたんですか!」
「ええ、もっとも何がソ連型で、何が人間の顔をした社会主義なんだか、さぅぱりわ
からないほど若くて無知な旅行者でしたけれど」
「驚いたなあ。僕は大学生でしたけれど、あの革命には胸を熱くしました。青春時代
にひどく興奮した世界史の1ページでしたね。社会主義に新しい未来が拓けると思っ
て、ドプチェクに、ドキドキしながら拍手を送りましたよ」
ビジネスマンにしか見えない隣人の意外な言葉に興味を持った。
「悲しい結果になっちゃいましたけれどね」
思わず言葉を継いだ。
「ドブチェクがソ連軍に逮捕された時は、ほんとうにショックでした」

(話は、プラハ革命の最中に笙子が出会ったプラハの医科大学の学生のことに。
彼は切羽詰まった様子で、闇ドル買いに必死になっていた。ドプチェクが命がけで改
革を進めているのに、なぜ亡命を考えているのか不思議で、笙子は蒼ざめた表情の学
生にその訳を訊いてみた。すると、彼は真剣な顔で叩きつけるように、こう言った)
「ソ連が黙って見ていると思いますか」

現在のウクライナ紛争は、まさに武力と謀略でウクライナを侵略する「黙っていない
ソ連」の表徴そのもの。
プラハの春を、戦車と拷問で徹底的に破壊したソ連。その覇権主義が脈々と流れてい
る現在のロシア。
戦争を知らない甘ちゃんの政治家や官僚たちが外交を担う、現在の日本。
余程の胆力をそなえ、鋭いしたたかな戦略を持って対ロ外交に臨まないと、いつかあ
っという間に北方の国土を侵略されてしまう、とも限りません。

次に再読したのは、「97歳の幸福論」(笹本恒子著、講談社)
この本をお書きになった当時の笹本さんは、98歳。
先の岸恵子さんは当年82歳!
実に若々しく、今だ美貌は衰えず、まさに凛(りん)として見えます。
本当に素晴らしいことです。
その岸さんからの連想で、今年100歳になられた笹本さんの書籍を、今一度読みたくな
ったのです。
この本には「ひとりで楽しく暮らす5つの秘訣」が、数十の具体的な事例で解説されて
います。
そして以前に読んだ時に頭に残っていたのが、次の断章。
「初めは信用しなかったの。そんな安くてホントに大丈夫?って。だって、昔は眼鏡
を一つ作ると、10万円ぐらいかかったでしょ?ブランドものだとフレームだけで6万
円ぐらいしますものね。
ところが「zoff」へ行くと、近視用に乱視まで入って、スモークのレンズで作っても、
ひとつ1万2000〜~3000円。フレームも豊富に揃っているので、すっかり御用達になっ
てしまいました。
「徹子の部屋」に出演したときにかけていた、赤いフレームの眼鏡もそう。黒い服に
は赤、紫の服にはブルー系と、コーディネートしたいから、コレクションがどんどん
増えていくの。眼鏡も安くて楽しいに越したことなし!」

柔軟で健康的でおしゃれで若々しい生活ぶりを読むと(室内の装飾や家庭用品やフア
ッションや食事メニューなどの写真もふんだんに掲載)、これは高齢者の健やかで幸
せな生き方の見本になるのではないか、と感心します。
「炭水化物をとらないで痩せる」「ふくらはぎをもみなさい」「ボケないドリル」等
々、高齢社会を見越したテレビの健康番組が氾濫していますが、全くお粗末極まりな
い、瑣末的でエビデンスが疑われるものばかり。
そうした「受け狙いの健康情報」に右往左往せず、こうした笹本さんのような「生き
方」を参考にした方が余程ためになる、と私は思っています。
勿論、私も忘れそうになるとこの本を取り出し、パラパラとめくっては、例えば「徒
歩30分圏内は私の常識」(注・身だしなみを整え、姿勢良く歩くこと。バスに乗車し
ても絶対座らない)とかで、「最近、姿勢が悪い。
もっと颯爽と歩こう」とかの氣づきにしているのです。
それと「zoff」。
ネットで調べると、近場ではアトレ目黒内に店があるので、早速出かけ、洒落たフレ
ームで老眼鏡をオーダー。
値段を聞いてびっくり。消費税混みで5400円。今まで作っていた老舗の眼鏡店では12
万5000円でした。
出来上がりを掛けてまたまたビックリ。ピントがばっちりで、幾つも作ってきた今ま
での眼鏡と比較し、全く遜色がないのです。
ちなみに笹本さんは、「日本初の報道写真家」。
私は来週は篠笛の個人レッスンで半蔵門へ。
丁度、半蔵門駅から徒歩1分のビルで「笹本恒子作品展」が開催中。
ついでに観賞してくる予定です。

今年の秋は、円熟味を増した女性陣の書物に触発されて始まりました。
次回は男性陣の書物からです。

それでは良い週末を。