つい先日まで、猛暑日だ、スーパー台風の襲来だ、熱中症注意報だと騒いでいたのが
嘘のように、いつのまにか朝夕の冷え込みに暖房が恋しくなるほどの季節となりまし
た。
今は中秋。
我が事務所から帰宅し、2階の自室の窓を開けると、南西の隣家の庭の低木の先に、
民家の瓦屋根が西日を受けて輝いています。
その上空の雲は茜色に染まり、さらにその上空には巻雲が幾筋か流れています。
空の様子を眺めていると、秋が来たというより、冬の寒気の先触れを感じます。
窓を閉じ、机に向い、パソコンを開いてメールの確認をし、読みかけの書籍を読み始
める頃には、陽も落ちて室内の空気も心なしか寒く感じられてきます。
そして本を閉じ、椅子を倒して身を横たえ、しばし瞑想にふける夕食前のひととき。
ここ数日、そんな時に思い浮かぶのは、明治生まれの歌人・若山牧水の次の和歌。
「白玉の 歯にしみとほる 秋の夜の 酒は静かに 飲むベかりけり」
私は舌なめずりし、「今夜はやはり燗酒にするか・・」と思い切り、それからいそい
そと酒の準備のために階下に降りていくのです。
1日に1升の酒を呑んでいたといわれる牧水の歌には、酒を詠んだものが多いことで有
名。
独り酒、心友との酒、朝酒、昼酒、夕暮れ時の酒、深夜の酒というように、一日の流
れのその時々で飲む酒を、詠い残しているのです。
それほどこよなく酒を愛していたことに、深く感銘してしまいます。
例えば昼酒を詠った次の歌が、私は好きです。
「ものいわぬ 我にすすむる うす色の 昼のひや酒 妻もかたらず」
ここでいう酒は、勿論日本酒。
これがビールやウイスキーでは、興趣がそがれます。
私も前述のように、数日前から晩酌は日本酒の燗酒に。
先週までは、ビールをコップ1杯ほど飲んだ後、赤ワインを小ぶりのグラス2杯か、常
温(冷やではない)の日本酒を大ぶりの猪口で2杯ほど飲んでいました。
以前からみると、本当にけなげなほど少量になりました。
5年前、10年前、15年前と比べ、5年刻みで日本酒に換算して1合づつ酒量が減ってき
たと言えます。
今では燗酒だと1合ほど(外ではこれよりやや多め)。
15年前までは4合が平均だったと思います。
しかし、飲んでいる時の酔いは、今も20年前もさほど変わりません。
独りで飲んでいる時は、杯を重ねるごとに頭脳は透徹になり、えも言われぬ陶酔感が
身体中を駈けまわります。また、友人知人と酒を酌み交わしている時は、心は弾み、
会話は一瀉千里。愉快な
ひとときとなります。
まさに、「酒は幸福を生む薬」。
しかし、そこには一つの問題(リスク)が内在しているのです。
酒を愛する賢兄諸兄はすでに御賢察のとおり、それは「二日酔い」。
特に日本酒は、長年の飲酒経験から二日酔になる確率が極めて高い酒の一つと言える
でしょう。
それだけ美味いから、つい飲み過ぎてしまうことと、特に、小さな杯を用いた酒の飲
み方は、一人で飲む場合でも仲間と飲む場合でも「場持ち」しやすいので、ついつい
長丁場になってしまうから、と勝手に推察しています。
この二日酔いを避けるため、TPO(時・場所(状況)・目的)で酒の種類を選択し、
その飲酒量を年齢に即して漸減してきているのです。
その結果が、5年ごとに日本酒換算で1合ほどの減量に。
今では、前述したとおりビールをコップ1杯程度に日本酒1合(ワインを小ぶりのグラ
スで2杯)程度の晩酌が、二日酔いにならない適量。
とすると、あと5年ほどたつと、マイナス1合で「ほぼ飲酒量ゼロ」の状態になること
が予測されます。
それではつまらないし、寂しい限り。
牧水の歌にも、こうあります。
「人の世に たのしみ多し然れども 酒なしにして なにのたのしみ」と。
そんなことを考えている頃に、一つの福音がありました。
過日の新聞のコラムからです。
「アサヒグループとカゴメの共同研究で、お酒を飲む時にトマトジュース(3缶分)
を一緒に飲むと、トマトジュースを飲んでいない時より、血中アルコール濃度が約3
割低下(体内にとどまるアルコール量が3割減少)することが確認された。体内から
アルコールが消えるのに
必要な時間も、トマトジュースを飲んでいないときより、50分ほど早まった。両社は
「トマトと一緒に酒を飲むと、酔いの回りが緩やかになり、飲酒した後の酔いざめも
早まる可能性が示された」と指摘している」
また、我が法人・東井悠友林の顧問である高久史麿氏(日本医学会会長)は、氏の著
書「新・健康のススメ」の中で、「トマトの中にはリコペンと名付けられている抗酸
化物質が多く含まれており、私はそのリコペンが他の抗酸化物質と同じ様に、心筋梗
塞やガンに対して予防的に働くのではないかと、漠然と考えていた」という前書きに
続き、それを裏付ける世界の研究結果を紹介されていました。トマトの摂取がさまざ
まなガンの発現や血栓形成に対して予防的に働くことを、既に述べられていたのです。
トマトは飲兵衛にやさしいだけではなく、酒を飲まない人にもやさしい野菜であるこ
とに感心。
これからの秋の夜長。
酒は静かに、トマトなどをつまみにしながら飲むことにしましょう。
酒量が3割増しにならないように。
それでは良い週末を。