私は、殆どテレビは観ません。
観るとしたら、ニュース・スポーツ(野球・ラグビー)・ドキュメンタリー番組のみ。
さらに絞り込めば、NHKの午後7時からの「ニュース7」か、午後9時からの「ニュース
ウオッチ9」のどちらか。
さらにどちらかを選べと言われれば「ニュースウオッチ9」。
この夜の報道番組は、各キャスターが素晴らしい。
メインーキャスターの大越健介氏は、東大の野球部エースとして、6大学野球リーグで
通算50試合に出場。(失礼ながら弱小の東大チームで、何と8勝27敗と大健闘)氏は、
単にニュース原稿を読むだけではなく、例えば腰が引ける政治問題でも、自分の意見
をさり気なく表現することができる、中堅気鋭のキャスター。
もう一人のメインキャスターは、井上あさひアナウンサー。
低音のしっかりした発声が、心地良くこちらに伝わってくる、美人アナウンサー。
常に大越氏のサブとしての落ち着きと抑制が働いており、安心感があります。
現在の日本の女子アナの中で、私の最も好感が持てる人。
そして、やや短めの髪と笑顔がチャーミングな、広瀬智美・スポーツキャスター。
さらに、これもテレビの気象予報士としては、日本で一番だと私は思っている、よど
みなく的確な喋りをする井田寛子・気象キャスター。
この4人のキャスターは、NHKを含め民放各社が番組のバラエテイー化と、人の幼稚化
(素人化)を加速するなかで、一種独特の大人の品格を保持している、といえるでし
ょう。
その私の好きな番組の、好ましいキャスター4人のうち、何と3人(大越、井上、広瀬)
が今月27日(明日)をもって降板するとのこと。
これには愕然としました。
今のマスコミの中で、特にNHKという公共放送のアナウンサーとして、大越氏のような
キャラを発揮できる人が皆無だからです。
勿論、キャスターもNHKの職員なのですから、人事異動はサラリーマンの宿命。
しかし、この春の異動(降板)に対し、大越氏は「なぜこのタイミングなのか。もう
少しやらせて貰えないか」と食い下がったとのこと。
それでも希望が通らなかったのは、官邸筋の意向がNHK幹部に働いていたとしか、私に
は考えられません。
官邸(政権)にとって目障りに映る大越氏のようなキャスター。
彼が降板することは、大袈裟かもしれませんが日本がまた一歩、全体主義の道に進ん
だ証左のように映ります。
私には、そうした危惧を拭いきれないのです。
さらに付言すれば、「従軍慰安婦問題」で誤報を続け、政権与党や読売・産経新聞な
ど他のマスコミから激しい弾劾を浴びせられて謝罪した朝日新聞社、関連の「報道ス
テーション」のテレビ朝日は、今や昔日の面影はなし。
他の民放各社も似たり寄ったり。
官邸や政権与党の筋から、政権に都合の悪い報道は「偏向報道」として指弾されるの
を、異常に怖れているからでしょう。
有識者も、お笑い芸人も誰も彼も、テレビのコメンテーターはみな「中庸」を決め込
み、本音を封印しているような日本のテレビ・マスコミ。
だから、アベノミクスや原発再稼働や沖縄の辺野古・米軍基地建設や集団的自衛権の
範囲拡大やTPPの推進などに、疑問や反対を唱える評論家・学者などの有識者は、どん
どん番組を降板させられ、代って、政権に耳触りのよい御用学者やタレントばかりを
登用しているようです。
例えば、反原発を唱え、現政権のエネルギー政策などを鋭く批判している、元経済産
業省の官僚だった古賀茂明氏は、最近とんとテレビに出てきません(私は事務所で、
昼のあるワイドショーのレギュラー・コメンテーターだった氏に、注目していた)。
一説にはニュース番組で「I am not Abe」と言っただけで、睨まれたとか。
彼の様な、ガンに罹患した体調ながら、国家権力の堕落を勇気を持って指摘し続ける
「憂国の士」も、有形無形の国家権力の影響を受けて、パージされているのでしょう。
昨日(25日)の「ニュースウオッチ9」では、大越氏が沖縄から現地報告を。
その一つは「ひめゆりの塔」近くに建つ、ひめゆり平和祈念資料館から。
1945年3月23日に、沖縄陸軍病院に勤労奉仕(看護・死体埋葬)として召集された、沖
縄県立第一高等学校等の教師・学徒240名。
同年4月に米軍が沖縄本島に上陸・侵攻。
激しい火炎や砲弾を浴びせながら侵攻する米軍の爆撃の中、同年6月18日、日本軍は突
然、彼女ら「ひめゆり部隊」に解散命令を。
軍の庇護も無く四散して逃げ惑う乙女ら。
結果、136人のおとめご(少女子)らが無残に散って行ったのです。
その霊を慰め、この様な悲劇を二度と繰り返さないよう、悲惨な記録を後世に伝える
目的で運営されている、ひめゆり平和祈念資料館。
その館長のインタビューに、驚きました。
当年87歳(?)の館長は、こう語っていました。
「最近の若い人たちの気持ちがわからなくなってきました。
(注・来館者ノートに「いつの時代も、争いはおこるもの」「こんなこと(展示や生
存者による体験談)むだ」といった意味の感想が書かれている)
私達の説明が伝わらなくなってきたのでしょうか。
戦後70年。私達生存者(9名?)も高齢となり、いつまで話を出来るかわかりませんが、
それでも何とか今の人達に戦争の悲惨さを伝えていきたい」と。
また、大越氏は沖縄県知事に「普天間基地から辺野古への米軍基地移設」についてイ
ンタビュー。
沖縄県知事は「普天間基地から県内の辺野古へ移設するのは、多くの県民が反対して
いる。
もうこれ以上、沖縄県に負担を負わせるのではなく、沖縄以外の地域に移設し、日本
全体で我が国の安全保障を考えてほしい。
そうした切実な思いから、多くの県民が上京して国会周辺で反対デモの行進をしまし
たが、誰もわれ関せずで通り過ぎていきます。
沖縄県以外の人々には、どうでもいい問題なんでしょうね」と、沈んだ表情で話され
ていたのには、胸が痛みました。
これほど、パソコンやスマホが普及し、明けても暮れても始終スマホと睨めっこして
いる老若男女が多いというのに、肝腎の自分達の現在と将来を規定する政治情報に、
殆ど触れていないのではなかろうか?
これから始まる統一地方選挙も、多くの棄権者を生んで無力感漂う結果を残し、国会
も目先の利害得失にしか関心のない議員たちの、無気力で形式的で空疎な審議の場に
なっていくのだろう。
そんな虚無感を抱きました。
こうした我が国の状況を生み出す責任の過半は、国家権力に迎合したマスコミの劣化
にある、と私は考えています。
今のマスコミには「社会の木鐸」としての不退転の信念がない。
国家権力や左・右翼などからの迫害を、ペンや電波の力で突破し「言論の自由」を貫
き通していくという覚悟が見えない。
あるのはサラリーマン化した処世術と、いつもちらついてみえる「権力のポチ」とし
ての「弱きをくじき、強きを助ける」御都合主義。
話が派生していくのでこのへんでやめますが、私は最近つくづくと、国家も地域社会
も会社や役所組織も荒廃・劣化してきたと痛感しています。
もとより、これらを形成する国民一人ひとりの無関心、無気力、無作為が根底にある
からでしょう。
そうさせたのは、国民・弱者のことより「我慾」に走る政治家や官僚や企業のトップ、
そしてこれら既得権益を貪る権力者に追随するマスコミの姿勢にある、と私は思って
います。
憶測が多いエッセイになりました。
それもエッセイの持ち味として、御容赦ください。
NHKの一人のキャスターの降板ニュースから、「世も末」のような世相に思いが馳せ、
今年1月15日にこの欄で述べた「サムシング・グレート」の怒りの配剤が、いよいよ近
づいてきている予感に憂える、弥生3月の悩ましい夜。
さて、少しでも憂いが晴れるよう、そろそろ風呂に入り、せめてカウントダウンが2つ
になった今夜の「ニュースウオッチ9」を観て寝床につくことにします。
それでは良い週末を。