私は3ヶ月に1回の頻度で、眼科に通院しています。
何も顕著な症状に悩まされているわけでもなく、したがって病名もない。
強いて述べれば「緑内障の予防」。
もう7年前になるが、眼精疲労が続くので、友人の紹介で飛び込んだ眼科クリニック。
「やや、眼圧が高いですね。すぐにどうということではないけど、将来、緑内障にな
る可能性も否定できないので、予防のための点眼薬をだしますから、朝晩2回、さして
ください。
目の疲れも緩和されますよ」との女医さんの所見。
「ずっとですか?」
「予防ですからね。虫歯予防に毎日歯を磨くでしょ?それと同じですよ」
その日から、「イソプロピルウノプロストン0.12%」という名前の点眼薬を、朝晩の習
慣にしてさしています。
そして経過観察として3ヶ月に1回通院し、視力や眼底や眼圧の検査を受け、「眼圧は
安定していますね。目の状態はいいですよ」との言葉をおまじないとして聞き、点眼
薬を貰ってくるのです。
私は眼圧が高くなる原因は、私の神経が過敏に反応するからだと思っています。
それを認識させられたのは、生まれて初めて眼科クリニックに受診した、昭和43年8月。
私が21歳の時。
今でもそのクリニックの老院長に言われた言葉を、鮮明に覚えています。
「病名は神経性眼精疲労。君の目の疲れ、痛み、それに伴う頭痛は、みな自律神経の
失調からきている。君は人の倍の感受性を先天的に有しており、神経過敏からくる精
神的疲労が種々のフラストレーションを生み、自律神経を乱しているのだ」と。
非常に丁寧に私のことを聞き、思索に満ちた表情で頷いたり、私の顔を注視したりす
る、とても物静かで熱心な印象の院長。
さらに話は続きます。
「現在の環境の中で、色々と自分の欲求にそぐわないことが出てくる。
それを解決するには、環境に即応するか、あるいはそこを脱出するかだ。
君は人より2倍も3倍も能力を発揮できる才を持っていると思うし、発揮すべきなのだ。
人より倍、躊躇をせずに行動していくこと。これが葛藤やイライラを解消してくれる。
君は欲が多すぎる。数々の欲望があるが、2、3個に絞り、「これは絶対に人に負け
ない自信がある!」というものを、どんなことでもいいから1つ作っておくことだ。
1つ、これといった自信のあることが、不安や葛藤や無駄なあらがい、欲を解消して
くれる」
「君の眼精疲労の原因は、その精神の用い方にある。
それを変えることにより、速やかに治っていく。
私は今までに10万人以上の患者を診てきて、よくわかっている。
君の様な眼の人は、非常に鋭敏だ。
また、今の君はアレコレと色々なことが積もり積もって、精神がくたびれている。
己をよく知り、己の秀でた先天性を尊重し、伸び伸びと人の倍以上、行動していった
らいいのではないか」
以上が老院長の、いまだ忘れる事のない所見。
今日に至る歳月の流れの中で、自分を見失いそうな時に、ふっとこの老院長の話が真
摯に想い出されるのです。
目の診察を通して、これからの人生の荒波に向っていこうとする未熟な21歳の若者の
心に、そっと寄り添って考えてくれた思いやりに、今更ながら胸が熱くなります。
得難い名医に出会った縁も、人生の幸運なのでしょう。
現在の医療では、果たしてこのような医師に出会うことがあるのだろうか。
今の私は、まだまだあの老院長のアドバイスを実行するに至っていないのだろうか。
そんな自省をしながら、今日も点眼薬をさしているのです。
それでは良い週末を。