心に響いた「半沢直樹」の言葉

先々週の土曜日は、後輩の結婚式参列のため、軽井沢へ。
先週の土曜日は、仲間たちのゴルフ・コンペで茨城県へ。
どちらも、良い空気を吸って、美味い酒を痛飲しました。
特に先週の土曜日は、久々の運動で酒量も上がり、帰宅したのが午前2時。
お蔭で三日酔いと、連日の筋肉痛にうなっていた4連休。
その間は、遠出は一切せず、自宅や近くの喫茶店で、2冊の本と2枚のDVD(第3回
アカデミー賞作品賞の「西部戦線異状なし」と、イングリッド・バーグマン主演、ヒ
ッチコック監督の「白い恐怖」)を楽しんでいました。

2冊の本とは、作家・池井戸潤氏の「ロスジェネの逆襲」(文春文庫)と「銀翼のイカ
ロス」(ダイヤモンド社)。
ご存じの方が多いと思いますが、話の主人公は「やられたら、倍返し!」の「半沢直
樹」。
その第3巻と第4巻。
1巻と2巻はテレビ・ドラマにもなり、一昨年、国民の多くが「半沢直樹」にくぎ付け
となったことは、大きな社会現象として話題になりました。
そのあたりのことは、2013年9月と10月の2回にわたって、このエッセイでも触れたと
ころです。
最終回の平均視聴率は関東で42.2%(瞬間最高視聴率は46.7%)。
今世紀最高の視聴率でした。
日頃から、テレビはどのチャンネルを回しても、愚にもつかないチープな番組ばかり。
国民のテレビ離れが加速されているのも理の当然ですが、やはり心ある視聴者は、こ
れぞという番組はちゃんと観ているものだと感心しました。
なぜこれほどの高視聴率を記録したのか?
それは、主人公が今時の社会では絶滅種とも言える、「原理原則と正義感に裏打ちさ
れた自己の信念で、イエスとノーを堂々と言える人間」だからです。

部下には横柄で威張り散らし、上司にはイエスマンとなって追従する利己的なサラリ
ーマンが多いのが、サラリーマン社会の現実。
そうした殺伐とした生存競争の社会の中で、権力を盾に理不尽な理屈を振り回して保
身に走る連中や、出世や利益確保のために不正や不当を働き、その実態を隠蔽しての
さばる連中等に対しては、相手がどんな上司であろうが監督官庁であろうが、政治家
であろうが、類まれな英知と戦略をもってして、絶対に圧力に屈せず、常に土壇場で
「倍返し」の逆転勝利をものにするのが、主人公の半沢直樹。
多くの視聴者の、胸がすくような幅広い共感を得られるのは、これも理の当然のこと
現代の日本の会社や役所組織が、それだけ弛緩して腐りきっているという証左。

今回は、小説のストーリーの概要は省略。
私が「その通り!」と強く共鳴・共感した、半沢直樹の言葉を抜粋してみ
ます。

●半沢は、東京中央銀行から、子会社の東京セントラル証券の部長に出向中。
焼鳥屋での部下とのやりとり。
「部長はどう考えてたんですか。組織とか会社とか」
「オレはずっと戦ってきた」
半沢は答えた。「世の中と戦うと言うとやみくもな話に聞こえるが、組織と
戦うということは要するに目に見える人間と戦うということなんだよ。
それならオレにもできる。
間違っていると思うことはとことん間違っていると言ってきたし、何度も議論で相手
を打ち負かしてきた。
どんな世代でも、会社という組織に胡坐をかいている奴は敵だ。
内向きの発想で人事にうつつを抜かし、往往にして本来の目的を見失う。
そう言う奴等が会社を腐らせる」

●同期の親友・東京中央銀行融資部次長との会話
「なにを考えてるかは知らないが、あんまり銀行を刺激しない方がいいんじゃないか。
ただでさえ、お偉方にはお前を目の敵にしている連中が多いんだ。
ここで妙なことをしてみろ、それこそ片道切符(注・証券会社から銀行に戻れなくなる
こと)になっちまうぞ」
「別にかまわんね」
半沢は涼しい顔で言った。
「オレは、やりたいようにやってきたし、今度のこともそうさせてもらう」
「それがお前の悪いクセだ。そうやって敵を作ってきたんじゃないか。
なんでいま証券子会社に出向しているのか考えてみろ。
徹底的に相手をやっつけることだけが正解じゃないぞ。たまにはおとなしく流してお
くことも必要なんじゃないか。今は雌伏の時だと思え」
「ご意見だな」
半沢は笑った。
「オレにはオレのスタイルってものがある。長年の銀行員生活で大切に守ってきたや
り方みたいなもんだ。
人事のためにそれを変えることは、組織に屈したことになる。
組織に屈した人間に、決して組織は変えられない。
そう言うもんじゃないのか」

●部下の森山と居酒屋で酒を飲みながら
「どんな小さな会社でも、あるいは自営業みたいな仕事であっても、自分の仕事にプ
ライドを持てるかどうかが、一番重要なことだと思うんだ。
結局のところ、好きな仕事に誇りを持ってやっていられれば、オレは幸せだと思う。
世の中をはかなみ、文句を言ったりくさしてみたりする、、、。
でもそんなことは誰にだってできる。
お前は知らないかもしれないが、いつの世にも、世の中に文句ばっかり言っている奴
は、大勢いるんだ。
だけど、果たしてそれに何の意味がある。例えばお前達が虐げられた世代なら(注・
ロスジェネ世代)、どうすればそう言う世代が二度と出てこない様になるのか。
その答えを探すべきなんじゃないのか。
世の中に受け入れられるためには、批判だけじゃ駄目だ。誰もが納得する答えがいる」
(略)
森山は聞いた。
「こうすればいいという枠組みを、部長はお持ちなんですか」
「枠組みと言えるほどのものはない。あるのは信念だけだ」
「それはどんな信念なんでしょうか」
「簡単なことさ。正しいことを正しいと言えること。世の中の常識と組織の常識を一
致させること。
ただ、それだけのことだ。
ひたむきで誠実に働いた者がきちんと評価される。そんな当たり前のことさえ、いま
の組織は出来ていない。だからダメなんだ」
「原因は何だとお考えですか」
森山はさらに聞いた。
「自分のために仕事をしているからだ。
仕事は客のためにするもんだ。引いては世の中のためにする。その大原則を忘れた時、
人は自分の為だけに仕事をするようになる。
自分のためにした仕事は内向きで、卑屈で、身勝手な都合で醜く歪んでいく。
そう言う連中が増えれば、当然組織も腐っていく。
組織が腐れば、世の中も腐る。わかるか?」
真顔で頷いた森山の肩を、半沢は微かに笑ってぽんとひとつ叩いた。

●東京中央銀行頭取(半沢が尊敬するバンカー)の言葉
「どんな場所であっても、また大銀行の看板を失っても輝く人材こそ本物だ。
真に優秀な人材とはそういうものなんじゃないか」

長くなるので、以上で終わります。
耽読すればするほど、30代から40代の頃の自分のことが思い出され、微苦笑したり、
唇をかんだり、大きく首肯したり。
バブル世代でもロスジェネ世代でもない、我々は団塊の世代。
それでも共感するところが多かった、心に響いた書籍でした。

しかし、私の意図するところは、単なる書籍紹介ではありません。
厚生労働省を始め、地方公共団体や医療団体や企業や民間団体で、今まさに巨大組織
に埋もれて「大して面白くないであろう」仕事を黙々とこなしているであろう、私の
後輩たちへのオマージュ(敬意)と期待なのです。
半沢直樹は、所詮、創作の世界のヒーロー。
「現実はドラマの世界じゃないんだよ。そんなうまくいくわけ、ないじゃん!」と小
馬鹿に嘲笑するもよし。
だが、先に引用した言葉の一つにでも「共感」出来る人は、新たな可能性を必ず秘め
ているはず。そして、共感して思ったことを少しでも実行していけば、いつの日にか、
自らへの誇りと、仲間との歓びに包まれるときが到来するでしょう。
反対に、何も共感できないという人は、最早心が枯れてしまっています。
本人も組織も腐っているのでしょう。
今から老後の心配をしながら、怒りも喜びも感動もなく、自己保身に汲々として毎日
年だけとっていけばいいだけのこと。

最後に一言。
「私の長かった役所人生を振り返ってみると、私も私なりに組織には屈しなかったと
いえる。そして楽しい悔いのない役人人生を終えることが出来た」と。

それでは良い週末を。