ああ、ラグビー!(2)

ラグビーW杯の1次リーグB組で、日本代表チームは米国との最終戦に勝利。
日本ラグビー史上初の1大会3勝という、それも超強豪国・南アフリカを倒した1勝を含
んだ、歴史的快挙を成し遂げた。
しかし、勝ち点ではB組3位となり、ベスト8進出は叶わなかった。
そのことは、既に選手達も対米国戦の前に承知していた。
「たとえ米国に勝っても、B組の同じ3勝1敗の上位2チーム(南アフリカとスコットラ
ンド)に、勝ち点で届かない。ベスト8はない」と。
米国戦を最後に、日本代表チームのHCを退任するエディーは、試合直前、涙をこらえ
ながら選手たちをこう励ました。
「一つだけ聞いてくれ。プライドを持って戦おう!」と。

「多くのフアンを獲得した、最も勇敢で最も運が悪いチーム」
「サヨナラ、歴史を作った男達・・」(英国メデイア)と内外から称賛されながら、
選手団は13日に英国から帰国した。
でも、「桜ジャパン」(私の造語。日本代表チームのエンブレムが桜だから。
マスコミの一部では、HC(ヘッド・コーチ)の名前から「エディージャパン」とも呼
ぶ)の選手達の表情は、国内外における人気急騰に浮かれることもなく、かといって
落胆の気配も無く、まさに全身全霊で、力を出し尽くして戦い終えた男のみが発する
ことが出来る、プライドと満足感に満ちた謙虚さを漂わせていた。

14日の朝日新聞夕刊では、どんな場面でも冷静で果敢なプレイに徹したリーチ主将と、
両手を組み合わせて精神を統一し、見事なゴール・キックを決めていた五郎丸選手が、
インタビューに対して同じ返答をしていた。
その言葉が、私にとっては今大会の日本代表の全てを物語っている、と思った。

「日本のラグビーの何が変わったのでしょうか?」
「メンタリテイーが一番変わったと思います。
勝ちたいという思い。自分のチームへの誇り。
代表のメンバーは本当にチームを愛しています。
それが、今回の勝利にもつながったのだと思います。
チームのために自分の体を犠牲にできる。そこに見返りも求めないし、ただチームの
ために犠牲になる。
その精神がラグビーの最大の魅力です」

まさに「One for All, All for One!(一人はみんなのために、みんなは一人のために
)!」

ここ数年、厳密には2011年3月11日の東日本大震災以降から今日までの日々。
日本では様々な出来事がおこった。嬉しいことも悲しいことも。
でも、殆どの出来事は辛く、悲しく、情けないことばかりだったと思う。
そして日本中の上から下まで「我利我慾の利己主義」が蔓延した。
誰もかれもが「自分さえよければ、あとは知ったもんじゃない」という風潮が。
そうした末世的で殺伐とした、将来への希望が見えない(私は、もう駄目かもしれな
いと思っている)日本社会にあって、今回の日本代表の活躍は東日本大震災以降、私
が最も感動した出来事となった。
こんなに心がときめくことは、本当に久し振り。

五郎丸選手が、今までで最も衝撃を受け、選手として人間として変貌出来たのは、前
のHC(ヘッド・コーチ)の次の言葉だった(10月13日付スポーツ・ニッポン)。

ある日のミーテイングで、前HCはホワイト・ボードに「過去・現在・未来」と書き、
未成長の五郎丸選手に質問した。
「過去は変えられるか」と。
五郎丸選手は「変えられません」と答えた。
「それでは、未来は変えられるか」
「変えられます」
すると、前HCは言った。
「違う。お前が変えないといけないのは、今だ。
今を変えなければ、未来は変わらない」と。

今を悔いなく生きる。精一杯生きる。そして自分を変え(進歩させ)、今を変えてい
く。
他人のために動き、他人のお蔭で自分が変わっていく。
そんな気風が芽生えていけば、未来の日本にも救いがあるのかも知れない・・・。

清新の気で溢れた、まさに「ああ、ラグビー!」の2週間でした。
それでは良い週末を。