東井朝仁 随想録
「良い週末を」
花水木

 ソメイヨシノの桜も散り、今は八重桜が満開を迎えています。
同時に花水木の白や紅の花も、あちこちで咲き始めています。
私は、この花水木の花が大好き。
艶やかで豪華に咲き誇った桜が、多くの人々の心を存分に乱して消えていった後の、ハナ
ミズキ(花水木)の登場。
それは千両役者が派手に見えを切り、万雷の喝采を浴びて舞台の袖に消えた後の、観衆の
興奮の余韻冷めやらぬ間の脇役の登場に、どこか似ています。
だからでしょうか、ハナミズキの花には、ほのかに含羞が漂うような控えめな美しさが感
じられるのです。
楚々とした中に、爛漫たる桜花にはない芯の強さを秘めたような。

昨日、桜の花びらが散り染めた住宅街の細道をぶらぶらと歩き、やや広い 道路に出た瞬間、
足が止まりました。
はるか彼方まで連なるハナミズキの並木が目に入ったのです。
萌え出た若葉に隠れるように、小さな4つの白い花びらが、まるで紋白蝶のように細い枝木
にとまっています。
春の風に揺られえると、それらの花や若葉が軽やかに舞い上がって行くような、優し気な姿。
その新緑と純白の、はかない色彩のハーモニーの連なり。
このような地味で平凡な風景ですが、私はなぜか久し振りに心を清められたような、すがす
がしい気分になったのです。
今の日本社会が見失っている、「静・譲・柔・和」の漢字を練り合わせると、このような爽
やかな心象風景が生まれるのかもしれない。
大袈裟かもしれませんが、そんなことを連想させるハナミズキの花。

ハナミズキは、明治45年、当時の東京市からワシントンにサクラを贈った返礼として、大
正4年にアメリカから寄贈された日米友好のシンボル。
偶然、昨夜DVDで観たのが、NHK連続ドラマ「負けて勝つ・戦後を創った男、吉田茂」。
「日本は戦争に負けたが、これから臥薪嘗胆、武力(戦争)ではなく外交で勝つのだ」とい
う吉田総理の信念を軸とした、したたかなGHQ対策、憲法草案などの終戦後の秘話。
見ごたえのある骨太のドラマ(主演・渡辺謙)。
この日米友好のシンボルとなった、サクラとハナミズキ。
この2つの花は重なるように、この時季にほぼ同時に咲いてきました。
しかし今や、日米の関係も、敗戦の絶望の中から見出した「外交で勝つ」の政治理念も、戦
後最大の危機に直面。そう私には感じられるこの頃。
これからは、1年1年が勝負です。
「今年も無事に、サクラとハナミズキの時季を迎える事が出来るかどうか」と。
両国の国民が、お互いに友好の花木であるサクラとハナミズキを、いつまでも愛せる時が続く
ことを、祈るばかりです。

来週の火曜日からは、小諸の植木屋に寄ってハナミズキの若木を買い、佐久の小宅の庭に植え
る予定。
すでに3年前に植えたハナミズキは順調に育成し、今年も可憐に開花する頃。
火曜日から木曜日は花水木(カ・スイ・モク)の日。

それでは良い週末を。