東井朝仁 随想録
「良い週末を」

晩 夏 に 想 う

今日は8月26日(金)。天気は晴れ時々曇り。
最高気温は32度の予想。
暑さもようやくおさまり、朝夕は初秋の気配が漂う頃を表す節気・「処暑(しょしょ)」。
その23日の処暑が過ぎて3日目。
朝の真っ青な空のあちこちに、幾つもの大小の浮雲が白く輝いています。
あと1週間弱で、はや9月。秋の到来。
「♪今はもう秋・・誰もいない海・・」という、トワエ・モアの歌を想いだします。
でも、「暑さ寒さも彼岸まで」と言われるように、秋の彼岸までは実質的に夏。
まだまだ厳しい残暑の日々が続きます。
それでも「晩夏」と呼びたくなる、このセンチメンタルな夏の終わりの時季。

先週末は長野県の佐久市に行ってきました。
毎年晩夏に行われる、佐久総合病院と厚生労働省・ブルーバッカスとの親善野球試合に
参加のため。
この、佐久遠征による交流親善試合は、昭和58年(1983年)の夏に初めて行われま
した。
したがって今年で、はや34回目を数えます。
当時生まれた私の次男(第3子)は、この間の時の流れを同じくして育ち、今年34歳。
あの当時に1年おきに生まれた子供たち(長男、長女、次男)は、佐久遠征から帰宅し、
茶の間で胡坐をかいてビールを飲む私の股の間に、変わりばんこにチョコッと座るのが
ならい。
数年後。
土曜日午後のチーム練習のあと、新宿での酒宴の流れで部員を数人我が家に連れて帰り、
さらに酒盛りに興じる夜、襖1枚で隔てた隣の6畳和室に雑魚寝する小学校入学前後の
3匹の子豚が、襖を少し開けた隙間から、物珍しそうに大人たちの騒ぎぶりを眺めてい
たり。
さらに十数年後。
チームの懇親会が終了したあと、何となく二次会に行く気がせず、一人帰宅してテレビ
の前に座っていると、大学生の長男が寄ってきて、「お父さん、ビールでも飲む?」と。
「ああ、飲もうか」
すると、いつの間にか大学受験勉強中の次男が、コップ3つを持参。
長男が「お前は勉強中だろ?!」といなしても「1〜2杯ぐらい大丈夫だよ」で、乾杯。
そして今では、社会的・経済的・肉体的・精神的に親を凌駕してきています。

月日は流れ、今年の佐久遠征は34回(年)目。
私は、我がチームと佐久総合病院の名誉院長・院長・看護部長などの幹部・中堅・若手、
OB、関係施設の役職員、あるいは佐久市長、仲間の市役所職員ら、総勢80名ほどの
人々で埋まった「農村保健研修センター」の大広間の前に立ち、ご挨拶をさせてもらい
ました。

そして話の中で、こんなことも話しました。
「あの34年前の夜、このセンターのこの畳敷きの大広間で、幾つもの車座になって飲
み語らった風景と、今夜の風景は全く変わっていません。全く同じ。時が止まってタイ
ムスリップしたようです。
あの当時、まだこの世に生まれていなかった方が、あるいは、我々が高歌放吟しながら
佐久の街を歩いていた時、ランドセルをしょって傍らを通り過ぎていった子が、健やか
に成長してこの場におられるかもしれません。
当時の赤子を横に置き、野球をやり酒を酌み交わして談笑していたおじさんたちは、今
でも同じ。
それが、横の赤子がぐんぐん成長して、いつしか私たちと肩を並べ、同様のことをし始
めている。
でも、中身は何も変えていないし、何も変わっていない。
ただ、愚直なまでに「好き、良い、楽しい」の気持ちだけが老若男女の区別なく、それ
ぞれの参加者の心に枯れることなく流れているのでしょう。だから続けられるのでしょ
う。
マンネリズムというと、「同じことを繰り返して、進歩、新鮮味がない」という否定的
な意味合いで使われますが、私は、この長年継続してきた行為は、「壮大なるマンネリ
ズム、偉大なるマンネリズム」だと思っています・・・」

話はややそれますが。
帰りの車中で、私は1冊の本を読了したのですが、「エッ!」と驚く箇所がありました。
その本の題名は「男の品位」(青志社発行)。
著者は元・安藤組組長で、のちに俳優として活躍した安藤昇氏(90歳)。
武闘派的インテリやくざのイメージ以上に、「義侠」(強きをくじき弱きを助けること)
の人、というのが私の氏に対するイメージ。
氏は様々な男の生き方を、自己の豊富な経験をもとにして述べていますが、私がハッと
思った個所がいくつかあり、これもその一つ。
「日々の出来事に一喜一憂するのは感心しない。人生という大河の流れに身をまかせ、
現実を甘受し、淡々と生きていけばおのずと納まるところに納まるというのが、この歳
になって思うことだ」

1か月前に読ませていただいた、日本医学会会長・高久史麿氏の「医者の健康法」(中
央公論新社)。
氏には「(一社)東井悠友林」の顧問をしていただいており、この良書も会員の方すべて
に配付して読んでもらったのですが、皆さん絶賛。
「読みやすい」「単なる健康本ではなく、ご本人の率直なご意見が面白い」「高名な人
だが、偉ぶらず、本音で淡々と語っている内容に好感を持てた」「日常の健康づくりの
ポイントがシンプルなので、わかりやすい」等々。
私は、「適当に食べ、適当に飲む。腹8分目」「1日1万歩くらい歩く」「(家では)野
菜・魚中心に食べる。外食では好きな焼肉も食べる」「朝食はローソンで買ったサラダ。」
「健診は、区の特定健診だけ」等が印象に残っています。
しかし、やはり掉尾を飾るのは次の一言。
「無理せず流れに逆らわず、時には流された結果、与えられたところで一生懸命やるほ
うが、結果として遠くに行けますし、無駄な力を使わないぶん、存分に活躍できます。
きっとそこから見える景色も大きく違ってくるのではないでしょうか。
皆さんもどうぞ気を引き締め過ぎず、あくまで肩の力を抜いて毎日を楽しんでください。
健康や長寿は、きっとそのあとに付いてくれるはずです」

碧空を白い雲が流れていく。
今日も日差しは強い。
でも季節は夏から秋へと、確かな悠久の時を静謐に刻んでいるのです。
これが大宇宙の輪廻。
これも偉大なる超絶的なマンネリズム。
その中で、私は今から田園調布の街に行き、住宅街の一角に並ぶケヤキ並木をゆっくり
と歩きながら、キラキラとした晩夏の斜光を浴びてくるのです。
そして、我が人生の遠ざかる朱夏を惜しみつつ、白秋の光に向かって流れに逆らわずに
歩いていくのです。

それでは良い週末を。