東井朝仁 随想録
「良い週末を」

も う す ぐ 新 た な 年

先週は、2階の自室の畳替えをした。
かれこれ15年〜20年振りだろうか。
新しい畳みは、従来のそれと比較して「重量は半分以下。イ草の代わりに新繊維で中身を造
作しているので、防湿・防虫効果十分」とのこと。
この畳替え作業の速いこと。
予め、業者が一人でやってきて「部屋の計測、畳の採寸」を20分ほどでてきぱきと行い、
その1週間後、業者二人が中型トラックに新畳を積んで再来。
新旧の畳交換(この作業には、室内の本棚3つ、整理ダンス1つを移動させ、畳の交換後に
現況に復する作業、むき出しとなった床板の清掃も含んでいる)を手際よく行って帰って行
った。この間、1時間。
私は、何もせずに1階の居間でテレビを観ていただけだが、業者への手土産に渡すウイスキ
ーだけは用意しておいた。
水回りの工事業者や電気屋などに来てもらった時、現代のしきたりで業者には「茶菓の提供
などは無用」が慣習となっているが、私の性分で、帰りがけの「ご苦労様でした」の言葉に
添えて、何がしかの物を手渡している。

先々週は、居間の造り付けのクロゼットの修理。
修理と言っても、立て向きに3本つけられている洋服かけのステンレス・バーを、横向きに
変えることと、劣化した8個の蝶番(ちょうつがい)を新たに強固の型にかえるだけのこと。
数万円の委託作業。それでも、半日ほどかかった。
こうした修理は大工仕事ではなく、家具屋の専門。
80歳の小柄でいて芯の強そうな「親方」(?)には、焼酎を手渡した。
彼らが仕事を終え、満足そうな表情で帰って行ったあと、青畳の表を手で撫でたり、ごろり
と横になったり、あるいは、具合の良くなったクロゼットの扉を、何回も開閉する気分は、
何となく嬉しさがこみ上げてくるものだ。

話は変わって。
先月の、ある平日の朝。
上馬の交差点(国道246と環状7号線の交差点)の舗道で、「東井さん、どこに行くのよ?」
と、突然の声に振り替えると、自転車にまたがった、元ラーメン屋の店主。
元と言うのは、数年前まで駒澤大学駅前で「ラーメンバー」という店を経営していたが、今
は店を閉じ、悠々自適に生活しているとのこと。
私は帰宅帰りに、しばしば店の暖簾をくぐっては、餃子やレバニラ炒めなどでビールをあお
っていた。
店長は私と同じ年。店長は私と喋りながら作業の手を休めず、合間にちょくちょくとコップ
酒を流し込み、「この日本酒、旨いよ」と言っては、私にもコップ酒を差し入れ。
話が合う同年輩の店長だった。
私は「いやあ、久しぶり。元気そうだね。俺は今から事務所に行くんだ」と返答。
「まだ、稼いでいるの?余り欲張っちゃ駄目だよ」
「なに言っているの。俺はボランテイアをやっているの。収入は年金だけだよ!」
「俺も同じ。お互いに、元気でいこうな」ニヤリと笑って、走り去っていったっけ。

昨夕帰りがけに会ったのも、私と同じ年の上馬の電気屋。
この人には、うちのパラボラアンテナから、洗濯機、冷蔵庫、エアコン、テレビ、ウオシュ
レット、照明、DVDなど、電化製品の多くを配置してもらった(勿論、私がこの電気屋か
ら購入したということ)。
「東井さん、俺たちもう70だよな。6月にぎっくり腰を起こしてからさあ、そろそろ引き
際をよくしようかと考えているんだよ」
「何?○○さんもぎっくり腰?俺もやってしまったけど、身体は不可逆的に劣化していくね」
「えっ?」
「年は争えないということ」
「俺はさあ、もうあと10年生きれば十分。その間は、何とか寝たきりにならずに生きたい
よね」
「その通りですよ」
お互いに笑い合いながら、bye!

その近くの「印鑑・名刺印刷屋」も、私と同世代。
私の名刺やハンコは、ここを利用。
帰りがけに用もないのに立ち寄っては、世間話。
いつ行っても客の姿が見えないが、儲かっているのかどうか。
それでも私が知り合ってから、かれこれ20年。
「人は、何とか食って生きていけるのだ」といらぬことを考えて、苦笑。

私は、こうした職人さんや店主らの人が、大好き。
しかし、人間味溢れる話が出来るこうした人たちが、いよいよ激減してきたと痛感する昨今。
そして、どこもかしこでも見かけるのは、画一的な大量群衆の「スマホ族」。
興味があるのは「金儲け」と「おバカなお笑い文化」と「スマホ」だけか?
それを生み出すコンピューターと大資本が席巻する、マニュアル至上主義の無感情社会。
戦後の日本文化で、常に創造と変革の旗手と自負していた団塊の世代も、来年からは「古稀」
の時代に。
さて、どのように世の中は変化していくのか。
だが「無関心・無気力・無作為の高齢社会への移行は、不可逆的」とだけは、思いたくない
のです。

今年もお世話になりました。
つまらぬ与太話にお付き合いくださって、ありがとうございました。
来るべき年が、「いやあ、感動!」「幸せだなあ!」といえる年になりますよう、 衷心か
ら祈念しております。

それでは良い週末を、良い新年を!