マフラーを巻いて |
今日は2月2日(木)。 天候は朝から快晴で、空は青。 冬の陽射しが、街路樹に降り注いでいます。 でも裸木となったそれは寒さで固まって見え、梢には寒すずめが丸くなって、寒風を避け ています。 明日は節分。明後日は二十四節気「古代中国で作られた季節区分法。 1年を24等分し、立春(2月4日頃)、雨水(2月18日頃)、啓蟄(3月5日頃)、春 分(3月21日頃)などと、1か月に2節気(1期間は約15日)を配置」の一つ、立春。 暦の上では旧冬と新春の境目に当たり、この日から春。しかし、春は名のみの寒さ。 今日が、そんな寒さでした。 寒風が吹き荒れていたからです。 私は、朝の大気の冷たさと、「今日の天気は晴れ。しかし最高気温は8度。冷たい風が吹 き手がかじかむ寒さ」という天気予報を踏まえ、マフラーを首に巻いて外出しました。 マフラーを巻くのは今季初めて。 柄は、赤を基調としたタータンチェック。素材はピュア・カシミア。 マフラーは幾つか持っていますが、最近は6枚ほどあるタートルネック・セーター(ベー ジュ、黒、グレー)を日替わりでジャケットの下に着るので、首回りの防寒はこれでOK、 マフラーの出番が全くなしできました。 しかし今日は出番がありました。天気予報から、更にマフラーを巻いたほうが防寒に良い ということと、(まさに着更着(きさらぎ)の月)、もう一つ、このタータンチエックの 使い初(ぞ)めをしたかったからです。 このマフラーは、元旦に来訪した長男夫妻からのプレゼント。 「今年は古稀だから、とりあえずこれはそのお祝い。食事会は後日行います」と言って手 渡してくれたもの。 私は、内心「う〜ん、臙脂色の無地のほうが良かったのだが・・誰か使ってくれないかな」 と思いながらしぶしぶ首に巻いてみたところ、「似合う!似合う!」と配偶者や子供達が 言うので、 「ほう、そんなものかな。まあ出番がないだろうが、有り難く受け取っておこう」と、あ いなった代物(しろもの)。 その巻き初めの感想は、「風合い、感触、コートや背広との色調バランス、ともに良し」。 舗道を歩きながら、しばしばショウウインドウに映る我がマフラー姿をチラチラ眺めては、 ひとり悦に入っていたのですから、他愛ないものです。 マフラーと言えば、以前に長男の大学時代の友人で、モンゴル出身のB君に、モンゴル産 のカシミアで出来た濃いグレーのマフラーをプレゼントして貰ったことがありました。 彼はモンゴルからの国費留学生で、大学を卒業するとユニクロに入社し、そこで前述のマ フラーを創案して商品化したのです。 その創生期のマフラーを「お父さん、使ってください。そして感想を聞かせてください」 と目を輝かせながら言ったものでした。 彼はその後、藤原紀香などを起用してユニクロのカシミア商品の斬新な宣伝広告を出した りの活躍後、帰国。 モンゴルの首都・ウランバートルで会社を設立。マンション・不動産の企画販売などの諸 事業をスタートさせ、時々絵葉書で近況を報告してくれました。 そしていつも絵葉書には「お父さん、夏のモンゴルに是非来てください」との添え書きが。 そのたびに、私の心はモンゴルの草原を駆け巡っていたのですが、まだ実行できていませ ん。 あれから10余年。 当時は、「共同出資し、開発途上のウランバートルにマンションを建築して、不動産経営 をしましょう。ウランバートルの開発はこれからですよ」とB君は熱い希望を私に向けて くれていたのです。 私は真剣に心が揺らいだが、今一つ覇気が足らなかった。いや決断の勇気がなかったと言 えるかもしれません。 B君から貰ったマフラーはどこに行ったのか、今は手元に見当たりません。 そのことだけでも、長い歳月の流れを痛感します。 B君の大きながっしりとした身体、精悍でいて柔和な表情、黒く輝く瞳、誠実な人柄。 「B君は、きっとモンゴルを代表する経済界の一人になるだろう」 そんなことを考えながら、街角のウインドウの前に立ち、そこに映るタータンチエックの マフラーを巻いた自分の姿をぼんやりと眺めていました。 「君の開発したマフラーは良かったな。幸せで首が包まれているような温かさがあったよ。 あの企画はピュアで人生を意気に感じている若者でないと、出来なかっただろう。このタ ータンとは、やはり違う・・・」 そして「10数年前の計画、今からやらないか。どうだい?!その前にモンゴルに飛ぶよ!」 と叫びたい衝動に一瞬身体を熱くしながらも、今一度、ショウウインドウに映る背中が曲 がった古稀の男の顔をしばし眺め、寒風の中をゆっくりと立ち去って行ったのです。 それでは良い週末を。 |