東井朝仁 随想録
「良い週末を」

 工 事 二 つ (1)

梅雨入り前後のこの時期、二つの工事でバタバタしています。
1つは「ドコモ光・回線工事」
もう一つは「自宅の外壁塗装工事」
今回は前者について感じるところを述べてみます。

現在は「auひかり」という、KDDIの光フアイバー・インターネットサービスを受けている
のですが、諸事情からNTTの「ドコモ光」という同様のサービスに変更することに。
実は、この6月5日までは、そんなことは露(つゆ)ほども考えていなかったのですが。

発端は既にこの欄で述べた通り、私の現在のパソコンが劣化していることから。
このパソコンは2010年モデルで、今年で丸7年使用。
今や、パソコンの耐用年数は3年とのこと。「東井さん、もう古すぎるよ。パソコンは消
耗品だよ」
とアドヴァイスしてくれる人が少なくなく、さらに、しばしばフリーズする(画面が動か
なくなる)ので、止む無く買い替えをすることに。

6月2日(金)。渋谷のビックカメラでパソコンを購入。
今まで使用していた東芝製品から、何となく機能もデザインもシンプルな感じがして、
DELL製品を購入。
6月3日(土)。後輩のY君に事務所に来てもらい、パソコンの「初期設定」と、今までの
パソコンから必要データ等の移し替え作業をお願い。
作業は午前10時半からスタートし、昼食抜きで終了したのが午後3時過ぎ。
パソコンのエキスパートにして、これだけの時間を要するのだから「私の様な生半可な者
がいじったら、エンドレスの作業になる」と冷や汗。
ちなみにパソコンに関する説明書、初期設定の手順などの解説パンフの添付は一切なし。
量販店の係員は「今はそのような物はないですね」とつれない返事。
7年前に購入した時は、例えば「室内の無線LANに接続するには、、ええっと」と、説
明書をまさぐって、パソコンの裏のスイッチを「on」に切り替えていれば、1階のモデム
からケーブルでパソコンをつながずとも、遠隔の2階の部屋で無線でインターネットに接
続できたものでした。
今は説明書はなく「自分の知識とカン」のみで対応することに。わからない者は量販店や
メーカーの電話相談センターを利用するか、パソコンに熟達している仲間に聞くか、パソ
コン専門店に依頼して有償作業をしてもらうか。あるいは、一人で納得するまでパソコン
と不毛な格闘を続けるか。
実は、この例示した「無線LANへの接続」が、今回の回線工事を生じさせる主要因にな
ったのです。

6月4日(日)。「さて、新たなパソコンの使い勝手は?」と、浮き立つ気分といささかの
不安を抱きながら、まずはメールの送受信を。
しかし、2階の自室で操作をしても「インターネットに接続されていません」の表示が出
るのみ。
「そうだ、無線LANの設定をしていなかった」と気づいたが、さてどうしたらよいのか。
説明書も何もないのでわからず。
そこで画面の下の隅の方の幾つかの記号の中に、電波の記号があったので、カーソルを当
ててみると
「インターネットアクセス」と表示されたので、これをクリック。
すると何やら英字や数字からなるネットワーク名(あとでそう判明)が幾つも列挙。
「ナニコレ?」
どうしたら良いかわからないので、止む無くY君に電話。
指示は「@現在使用中のネットワーク名が、その列挙された名前の中にあるはず。
それをクリック。Aネットワーク名とパスワードはモデム(電話回線などのアナログ通信
回線を通じて、データ通信を行うための信号変換装置のこと。私はよくわかりませんが)
の側面に表示されているはず」。
そこで、1階の廊下隅に設置されている、埃をかぶったモデムを凝視すると、ネットワー
ク名らしきものが。
それを筆記してパソコンに戻り、先ほどの画面の文字列と照合。しかし該当なし。
「これは困った。どうする?」と悩んでも埒があかないので、課題は翌日回しに。

6月5日(月)
昼食をとってから、渋谷のビックカメラへ(余談:あれほど店名連呼の宣伝をしているが、
今でも来客の多くは「ビッグカメラ」と呼ぶので、店員らは落胆しているとのこと)。
パソコン売り場の担当者をつかまえ、事情を説明。
要するに「適合するネットワーク名がわからない。それらしきものも見当がつかない。
さらに必要な私のパスワードがわからない。このためインターネットに接続できず、パソ
コンが使えない。解決方法はいかに?」と単刀直入。
答えは「どちらも個人情報で私共の知るところではありませんし、当方のパソコンの問題
ではありませんので・・」
「それは百も承知です。だから、どうしたら室内無線LANに接続できるのかを聞いてい
る のですが」
沈思黙考のあと、幹部候補生の雰囲気漂う賢明そうな係員が口にしたのは「もしかしたら、
モデム、それにルーター(異なるネットワークを相互接続する機器とのこと。私はよくわ
かりませんが)が劣化しているからかもしれません。感知力が弱いのでしょう。何年前の
ものですか?」
「auひかり回線を入れたのが2008年だから、9年前・・」
「それは古いですね。それを新しいものに替えたらパソコンで感知できますよ。ちょっと
担当の者をご紹介します」
と言われ、別のフロアへ。

そこで中堅店員と、若い店員を紹介され、彼ら二人に再度説明。
その後、長いやり取りがあり、問題解決の方向は「auひかりからドコモ光に回線を変更す
ることにある」との結論。
さらに、その目的達成のためには「私は具体的に何をするのか?」と。
そこで、次の手順を踏む必要があることを確認。
@ まず現在のauひかり電話を、番号はそのままにしてドコモ光電話に変更すること(業
  界用語で「アナログ戻し」)。その場で係員があちこちに電話を取り次ぎ、それを私
  が受けて趣旨を説明し、この件は落着。
A ドコモ光の工事日を予約すること。係員が担当者に電話して取り次ぎ、私が氏名・所
  在地・工事  希望日等を述べ、これも予定日時が決定。
B 契約申込書の作成。株式会社NTTドコモと、プロバイダーになるbiglobeとの9枚から
  なる申込書の重要事項やこまごまとした使用料金などが説明され、必要事項を記入。
  後日、契約書類等が送付されてくる。
C auに、auひかりの契約を解除する旨を電話連絡すること。また、メールアドレスはプ
  ロバイダーが変わっても従来のアドレスを残すよう指示すること(使用料、月250円は
  dionから個別に請求されてくる)。これは工事日までに行うこと。
D 工事日までにルーターを買っておくこと。

これらのことの説明と質問と連絡と筆記が一応終了したのが、午後3時半。
いやはや疲れました。
私から見たらたかだかこれだけのこと。それが一人の担当では対応できず、課題が錯綜し
て複雑になり、挙句に大の大人が4人かかって4時間も要する次第に。
世の中は本当に進歩しているのか?生きにくくなっているのではないか、との疑問と不満
が生じてしまいました。
恥を承知で正直ぶっちゃけた話、「私はパソコンの世界にはついていけないよ」と。
古い人間とお笑いでしょうが、私の深奥では「シンプル イズ ベスト。特に大衆が享受
できる文明は単純明快でなくてはならない。それが真の進歩だ」という確たる哲学が、い
まだ潔く屹立しているのですが。

これからの社会は、やたらに複雑化していくことは必至でしょう。
現在の税制とか保険・年金の仕組みなどを例にとっても、果たしてどれほどの国民がこれ
をよく理解していることか。
担当省庁の職員でも簡単には説明でき得ない複雑さ。
それでも今の季節なら、固定資産税や都市計画税のこまごまとした計算式など、小さな字
でびっしり書かれた納税通知書がきたり、国民健康保険料や介護保険料に関する、これも
精読すると頭が痛くなる通知がきたり。
そこには当局の「わからなくてもいい。黙って保険料の値上げを承知したらいいだけ。細
かいことは読まなくても書面の金額を納税すればいいだけ」という思惑が滲んでいるよう
に感じます。

行政や独占企業が一方的に発する情報やサービス。これらを、国民は黙って従順に甘受す
るしかありません。
国会で議論されている「共謀罪」法案一つをとっても、主管の法務大臣でさえ、答弁に窮
して立ち往生する有様。
逐条解説を何度受けても、よくわからないのでしょう。
役人作成の答弁書でも趣旨や条文の解釈が抽象化、複雑化する一方だから、余計にそうで
しょう。
先の「安保法」でも、その質疑応答は最後まで不明瞭で、国民には分かりずらい政府の対
応でした。
この様に、今の時代はすべからく、意図的に国民が理解しにくいように、政策や商品の約
款などが作成されているのではないか、と勘繰りたくなります。
「由(よ)らしむべし、知らしむべからず」と。

ともあれ、今はただパソコンを静かに閉じ、老眼で疲れ切った瞼に指を当ててしばし瞑想
し、この先、古い人間が住みずらい社会にならないことだけを、密かに祈るばかりなので
す。

それでは良い週末を。
(ちなみに、このエッセイは満身創痍、風前の灯である古いパソコンを使用して書いています)