東井朝仁 随想録
「良い週末を」

粗忽者(そこつもの)

漫画「サザエさん」(作・長谷川町子)を知らない人は、いないでしょう。
いや時代が変わったので居るかもしれませんが、このエッセイ欄では、以前にも何回か話
題にしているので、このHPをご覧の殆どの方はご存知と思います。
日本を代表する漫画の一つと言っても過言ではない、このサザエさんの笑いの源泉は、ズ
バリ、サザエさんの人柄。
彼女の性格は、一言で表現すると「粗忽者」(そこつもの。そそっかしい人)と言ってよ
いでしょう。
現に、作中で実母のお舟さんが「これは、粗忽者ですから」と、愉快なサザエさんを評し
ています。
私は、粗忽者という言葉をサザエさんの漫画・全45巻(朝日新聞社、1994年9月発
行)で、初めて知りました。それからは、人を評するときに「あのおばさんは、粗忽者だ
からなあ」などと、その「ソコツモノ」という響きを楽しむ風に、時として用いています。
しかし、大抵の人に「ソコツモノ?」と、怪訝な顔をされるのが通常。
昔の人というのか年配者(私と同世代以上の者)には理解されますが、それ以外の若い者
には、あまり通用しないようです(お試しあれ)。

今回はサザエさんの話ではありません。
私の話です。
「俺は粗忽者だなあ・・」と、思い知らされた先日26日の事例を。

25日、みずほ銀行・世田谷支店から携帯に電話が。
「自動送金サービス依頼書を、今月5日にお出しいただいておりますが、本日お振込をし
たところ『該当なし』ということで送金出来ないのです。振込先の口座番号・名義などに、
お間違いがないでしょうか?」とのこと。これは先月、事務所として賃貸借契約をしてい
る青山のマンションの所有者(大家)が変わり、これに伴って家賃の自動振込先も変わっ
たので、その変更手続きを行ったもの。
私は突然の電話に対し「振込先銀行と支店名も、受取人の口座番号も名前も、賃貸借契約
書に記載されて事項をそのまま書いて申請したもの。何で該当なしで戻ってくるのか、全
くわからないが。どうしたらいいのか」と返答。
結局、翌日の26日に支店を訪問することに。

当日。
事務所に行き、ファイルから前述の依頼書のコピーを取り出して、点検。
その時、この依頼書を世田谷支店窓口に提出した今月5日のことが想起されました。
この時は、持参して依頼書に押印した印鑑が、届出印と相違。
店員も私も困惑。私は「銀行への届出印など、ずいぶん昔の印鑑だから忘れてしまってい
るよね。
かつては通帳の表紙裏に、届出印を押印していたものだけど、ああいうものがないとなあ。
10年ほど前の印鑑を押せと言われても、現在使用中のあちこちの銀行印が何本もあるか
ら、、」とブツブツ。
「そうですね。昔はそういう通帳でしたが、今はセキュリテイの問題で・・」
結局、「届出印の変更で処理してください」と申し出て、改印届→受理→依頼書申請→受
理で落着。
「今日も一波乱あるのかなあ」という懸念とともに、そんなことが脳裏に浮かんだのです。

そこで再度、賃貸借契約書を出して、依頼書のコピーと突合。
すると1か所、受取人の名前で「〇澤」のルビを「〇ザワ」としていたのが、契約書では
「〇サワ」に。
すぐにその旨を支店の担当者に電話。
しかし、電話で話している最中に「でも、口座番号などは合っているし、、、。名義も漢
字でしっかり記載されているし、ルビの1文字でエラーになるものですか?」と疑問をぶ
つけましたが、店員も「さあ、、、振込先が他行ですから、何とも」と返答に窮するのみ。
「一応、通帳と印鑑を持って、午後に伺います」と伝えて電話を切り、仲介業者のA不動
産に電話。
事情を説明し、大家の口座番号等の再確認を依頼。
しばらくして、銀行の女性担当者から電話が。「ATMに口座番号を入力すると自動的に
名前が出ます。でもこの口座番号ですと、名前が出ません」と。
「すると、契約書の口座番号等のどこかにミスがあるのですかね・・・」と力なく電話を
切ると、A不動産から電話が。
「すいません。振込先銀行の青山支店は青山通り支店の間違いでした」とのこと。
ボヤキの一つも投げかけたい気持を抑え、それから世田谷支店へ。
先ほどの担当者の指示のもとに変更依頼書を作成・提出。

「やれやれ、これで一件落着か」と安堵したのもつかの間、「振込金額が送金されずに宙
に浮いているので、これを東井様の口座に組み戻す手続きをします。誠に恐縮ですがその
組戻し手数料、864円のお支払いをお願いします。今月の振り込みはATMでお願いし
ます。来月から自動振込をいたします」との説明。
「銀行はがめつい」と恨みがましい気持ちで支払いを終えると、さらに。
「あのう、この送金サービス依頼書の、引き落とし指定口座番号が違っておりますので、
訂正と訂正印をお願いします」とのことで、ギャフン。
よく見ると私の口座番号を記載するところを、先方の口座番号に。
「貴女の指示のもとに記載したのに、、、。貴女も間違えて上司に指摘されたのか」と考
えながらボールペンを走らせ、何とか提出完了。
最後はスッキリあがれるように「ありがとう」と元気な声でボールペンを担当者に渡すと、
「これはお客様のですが、、、」。
私が内ポケットから出したやつだったと気づき、「ちょっと、ボケてきたかな」と、バツ
の悪さに苦笑しながら退出。

何でこんな事務手続きで、バタバタしなくてはいけないのか。
俺は粗忽者なのかもしれない。
いや、そんなことは今まで一度も言われたことがないが。
そんなことを考えながら銀行の外に出ると、小雨。
時刻は午後3時前。
「そうだ。駒澤大学駅近くの喫茶店に行こう。そこで旨いコーヒーを飲んで帰ろう」
そう思い立ち、三軒茶屋駅に入り、停車中の電車に乗車。
駒沢大学駅は田園都市線で隣駅。電車はやたらに飛ばして快走。
気分は徐々に爽快に。
しかし、なかなか停まらない。
変だなと気づいたときは、電車は勢いよく駒沢大学駅を通過。
「あちゃー、これは急行だった!」
今度停まるのは、4つ先の二子玉川。
「ああ、ソコツモノ」の嘆きも空しい、トホホの顛末でした。

それでは良い週末を。