旅 に 出 よ う か |
私は今までに47都道府県の全ての県庁所在地をはじめとし、公務の出張や私的な旅行で 全国の様々な地方都市に行きました。 そして、人から「好きな街、印象に残った街はどこ?」と、よく聞かれます。そうした場 合には、あれこれ考えずに瞬時に脳裏に浮かんだ地名を答えてきました。 例えば今、尋ねられたとすると。 「帯広市、札幌市、函館市、盛岡市、仙台市、鎌倉市、名古屋市、金沢市、長浜市、奈良 市、神戸市、岡山市、尾道市、広島市、松江市、松山市、福岡市、柳川市、長崎市、島原 市、宮崎市、鹿児島市、奄美市、宮古島市」 こんなところでしょうか。 深く考えるとまだまだ出てきますが、ざっくり列挙するとこうなります。 その土地で長期間生活したうえでの評価ではなく、せいぜい二泊三日で観光名所や歓楽街、 風光明媚なスポットを楽しんだだけの体験ですので、たまたま何かの印象が残った所が思 い出されてくるのでしょう。 例えば、帯広の場合は、訪問したのが初秋の頃で、冷やりとした大気と周囲の紅葉の美し さが旅情を深めてくれたのです。 隣町の音更町の小高い丘にある、世界一大きな花時計(当時)を見るため、帯広駅からタ クシーを飛ばすと、北国特有の明るいペイントをほどこした家々や、たくましく空に伸び る欅の木が一幅の絵となって視界に広がり、その市街地を抜けると、どこまでも続く広い 原野。すると、大平原を貫く長い1本道の先を、車の音に驚いたキタキツネが草地から飛 び出してピョンピヨンと道を横断するのが目に入ってきて、こちらをとても愉快な気分に させてくれたものです。 しかし、このような風光明媚なところは、他にもいくらでもあります。 帯広の場合は、プラス・ワンがあるのです。 実は、帯広に出向いたのは、札幌市への出張の帰り。 この年の2月下旬に、厚生省主催で実施した全国保健師研修会(9日間にわたる脳卒中予 防実技研修)に、全国から約50名の保健師が参加。北海道からの参加は音更町役場に勤 務していたAさんでした。 そのAさんに札幌出張が決まった時に電話をし、帯広で夕食をすることに。 Aさんはその1か月後に結婚式を控えていました。 そのお祝いを兼ねた晩餐が、帯広の想い出として今も残っているのです。 全国保健師研修会で、私は担当係長として講義や班別討論などの管理・指導に当たってい ましたが、参加者の誰もが真面目で熱心。夕食後も各班ごとに遅くまでテーマ研究の討論 に打ち込んでいました。 そして無事に東京と伊豆長岡での研修の全日程を終え、教室で私から全員に修了証書を手 渡し終えたとき、ちょっとしたハプニングが。 研修生の一人が立ち上がり、「私たち一同から、東井係長にお礼のプレゼントをしたいと 思います」と発言。 すると満場の拍手が沸き起こり、研修生の代表が壇上の私にプレゼント(湯呑茶わん)を 手渡してくれたのです。 私は、何かお礼の言葉を言おうとしたのですが、万感胸にこみ上げるものがあり、絶句。 しばし沈黙の後、「ありがとう・・・」と一言答えると、再び全員の拍手が。 その涙に曇った視線の先に、Aさんも目を潤ませて拍手をしていたのを、私は覚えていた のです。 帯広市の事例の一端を述べましたが、やはり「好きな街、印象に残る街」というのは、街 の佇まい、街の環境、街の文化、そして街の人柄といった、これらの幾つかが有意に働い て、なにがしかの魅力を醸し出しているのでしょう。 ただし、旅行で行きたい街と、住んでみたい(住みたい)街とは違います。 今は東京の世田谷区の上馬(三軒茶屋と駒澤大学の間)に住んでいます。 そしてここで、あと2か月弱後に古希を迎えます。 もう今以外に「住みたい街」はありません。 けれども、行きたい街は前述の都市を含めてたくさんあります。 この暑い夏が過ぎたら、どこかにふらっと旅に出よう。 あそこにしようか、ここにしようか。北の街か西の街か。 あれこれ考えると、年甲斐もなく心が浮き立ってくる今日この頃なのです。 それでは良い週末を。 |