東井朝仁 随想録
「良い週末を」

威 張 る 人

世の中というか、人生においては色々なタイプの人がいますが、私が一番嫌いな人のタイ
プは「威張る人」。
今まで私が勤労者として所属した組織(団体)は、厚生労働省、環境衛生金融公庫、国民
生活金融公庫、三重県厚生農業協同組合連合会。
それぞれの組織の中には色々な職場(セクション)があり、私も数多くのセクションに異
動して働いてきました。これらはいわゆるフォーマル(公式的)な組織。このフォーマル
組織以外に、趣味や同期やボランテイアや習い事などの、私的な人間の集まりであるイン
フォーマル(非公式)組織があります。
これにも数多く所属してきました。
そして、これらの組織(集団)において一貫して痛感してきたことは、「どの様な立場に
ある人でも、威張る人は好きになれない。人間として信頼できない」ということです。

特に、相手の足元を見て、自分より立場が上の人には媚びへつらい、下の人には威張って
怒鳴り散らすような人。
「この人は、自分の保身・利益が第一。例え上司が間違ったことを言ってもイエスと答え
て追従し、下の者に対しては、ちょっとしたミスを発見すると鬼の首をとったように叱責
し、周囲を威嚇するようにねちねちと説教をするタイプ。自分にメリットのない者には冷
たく、地方公務員や民間の人には権威をかさに居丈高(何が偉いのか私にはわからない。
ただ、本省の国家公務員という自分を過大評価しているようだった)」。
そう判断して、まず100%間違いなしでしょう。

本当に仕事が出来て人望のある人は、例え事務次官や局長でも、威張らなかった。
ある事務次官は、私が次官室に決済文書に押印を貰いに行くと、いつも「まあ、座ってく
ださい」とソフアを勧め、一、 二簡単に質疑応答したあと、ニコニコと他愛もない世間
話を交わして押印し、「ご苦労さん」とねぎらいの声をかけてくれるのが通例でした。
反対に、ある局長の一例。
私がお供をして、ある業者団体の全国大会に臨席するため、役所の車で新橋のサンケイホ
ールに向かったのですが、開会の時間が迫っていました。
局長はイラつきを隠さず、後ろの席から役所の運転手の肩をつつき「ちゃんと道順を調べ
て来たのか。間に合わないぞ!」と怒鳴るのです。
そして会場の玄関に着くと、我先にと舞台裏への通路を小走りに。私もカバンを持ちなが
ら後に続くと、前方に何も知らないおばちゃんがモップをかけて掃除の最中。
すると、局長は自分がよけずに「邪魔だ、どけ」とばかりに、おばちゃんの身体を手で払
って進んだのです。
私が振り返ると、よろめいたおばちゃんは驚いた表情で立ちすくんでいました。
そして役所に戻ると、案の定、局長付の部屋の職員全員に対し「何してるんだ!配車時間
や道順をしっかり確認していたのか!」とすごい剣幕で怒鳴るのでした。
この局長は背丈は小さかったが、常に傲然と胸を張り、ピリピリとした雰囲気を醸し出す
人でした。
私はこの時、「局長にとっては、あの掃除のおばちゃんなど下々(しもじも)の人は眼中
になく、局長付などのノンキャリアは、自分の下僕としてしか見ていないのだろう」と、
痛烈に思ったものでした。
職場は風通しが悪く、どこも暗い雰囲気が漂っていました。

しかし、こうした人でも学歴と押しの強さで上まで登りつめるのです。
また、仕事が出来ずに他人に責任をゆだね、自分は上司にゴマをすり、同期や下の者には
威張り散らすノンキャリアでも、キャリアが欲っしない最下位の管理職ポストぐらいには
就いてしまう現実もありました。
官僚制組織でも企業組織でも、「上には弱く(媚び)、下には強い(冷たい)」人間が、
どの組織、どの時代にも蠢いているものです。
なぜならば、「そうした人」でも、「ある人達」にとっては、自分に便利で都合がよく、
自分のメリットになるからです。
その位階に応じて、職場が明るく活性化する指導者を登用して組織全体の発展を考えるよ
り、「自分の利益」ファーストしかないのです。
理不尽な泣きを見るのは、下の者たち。いや、結局は大なり小なり組織全体。
昨今の行政の「忖度問題」や大企業の不正調査等のコンプライアンス違反事件などは、そ
の顕在化の一例と言えるでしょう。
今でも、ある要職についてしまった「威張る人」「上に弱く下に強い人」を嘆く話が、厚
生労働省などからも、私の耳に入ってきます。
多くの関係職員の心情を察すると、残念なことです。
アメリカに対してはもみ手をして恭順の意を表し、他の国には「日本は凄いだろう。金?
あげるよ」と高慢に振る舞っているように見える我が国の外交姿勢と同様、情けない話で
す。

ともあれ、威張る人より、謙虚で「実(じつ)のある人」が多くなる社会になれば、職場
も地域も、少しはハッピーになるのではないでしょうか。
保守的でおとなしいと言われている今の若手。
でも私は、彼らに期待するところ大、なのです。

それでは良い週末を。