東井朝仁 随想録
「良い週末を」

20年の時を経て(タバコ対策雑感)(1)
一昨日(1月30日)、厚生労働省は、受動喫煙防止対策の強化を図ることを趣旨とし
た「健康増進法改正案」の概要を発表した。
受動喫煙とは「他人のたばこの煙を吸わされること」。

喫煙による健康被害は、今までに国内外の多くの研究結果で示されている。
例えば喫煙者は、たばこを吸ったことがない人より、10年間の死亡率が、男性で1.6倍、
女性で1.9倍と高く、死亡原因別でみると、ガン及び循環器病ともに、死亡率が高くなっ
ている。
喫煙は、慢性気管支炎や肺気腫などの色々な病気の危険因子となることは、今や常識。
同様に、「受動喫煙」においても、肺がんや慢性閉塞性肺疾患(COPD)、小児の呼吸疾患
などのリスクが高くなるといった研究報告がなされている。
今やたばこ対策は、喫煙者の健康被害のみならず、受動喫煙による健康被害にも的確に対
応しなくてはならない時に来ていることは、衆目の一致するところ。

このため、厚生労働省は、平成12年度から「国民の健康づくり運動(健康日本21)」
をスタートさせ、栄養・運動(身体活動)・休養と心の健康などの分野における健康施策
とともに、たばこ対策も展開してきた。
現在の、たばこ対策の柱は4本。
@ 成人の喫煙率の減少(喫煙をやめたい人がやめる)。平成34年度までに喫煙率を19.5
  %(平成22年度)から12%へ。
A 未成年者の喫煙をなくす(注・本来、未成年者の喫煙は法律で禁止されているが)。
  平成34年度までに高校3年生の喫煙率(平成22年度、男・8.6%、女・3.8%)から、
  0%にする。
B 妊娠中の喫煙をなくす。喫煙率 5%(平成22年度)から0%にする。
C 家庭・職場・飲食店・行政機関・医療機関で受動喫煙を余儀なくされている人の割合を、
  平成34年度までに行政機関・医療機関は0%、家庭は3%、飲食店は15%に、そし
  て平成32年度までに受動喫煙のない職場を実現する。

冒頭に前述した今回の健康増進法改正案(たばこ対策)の骨子は、主に4点。
@ 小中学校、大学、医療機関、官公庁は敷地内禁煙。
A 飲食店、事務所、ホテル、老人福祉施設、運動施設等は、原則屋内禁煙。 喫煙専用室で
  のみ、喫煙可能。
B 飲食店のうち、経営規模が小さい既存店は、「喫煙・分煙」標識の掲示により喫煙可能。
  新規店は禁煙。
C 20歳未満は喫煙場所への立ち入り禁止。

ここで問題となるのはBの「経営規模が小さい既存店」の定義。
各新聞報道によると、「店舗面積150u以下で、個人経営か資本金5000万円以下の中
小企業」とのこと。
私は、今回の改正法案の要諦の一つは、この店舗規模の規定にあると思う。
結論から言えば、上限150uまで認めるのは広すぎる。折角のたばこ対策が骨抜きになる。
今日(2月1日)の日本経済新聞1面のコラムでも、こう指摘しているが、全く同感。
  「150uの広さの飲食店のイメージは、厨房を除いて、テーブルを含めて椅子席45
   席ほどの広さ。
   東京都内の店の9割が、これ以下に収まるという。星の数ほどあるこういう店を『小
   規模店』とみなして、受動喫煙対策の対象外にするとは、恐れ入る。
   当初の30u以下から、ずいぶん後退した健康増進法改正、いや、喫煙容認法案では
   ないか・・・」

昨年3月、厚生労働省は30u以下の、バーやスナック以外の店舗を、原則禁煙とする骨子
案を公表したが、与党との調整が難航し、法案を提出できなかった。
今回、3月頃に再度国会に提出する予定だそうだが、成人男女、未成年者、母や子などに対
して、たばこの健康被害を防止するという至極当然の喫緊の施策内容が、またまた政治と行
政の思惑によって、多くの国民の期待に背く結果を招来させることにならなければ・・・。
現在の与党と行政(厚生労働省)との水面下での調整を、20年前の同様の事態を思い出しな
がら懸念しているのです。
この続きは次回に。

それでは良い週末を。