女 友 達
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昨日(2月14日)の午後12時5分前。 私が地元・三軒茶屋駅前の大きな中華料理店の入口を入ろうとしたとき、 「東井君!」と後ろから元気な声が聞こえました。 振り返るとそこにMさんの微笑が。 「ちょうどよかった。さあ、入ろうか」 1年半ぶりの再会。 それでも、ほんの数週間前に会ったばかりのような、学生時代と同じ感覚の気さくな会話。 「心理学のノート、貸してくれる?俺、全然筆記してないんだ」 「いいわよ。試験の3日前には返してね」 「OK、助かるよ」 そんな会話を教室内で交わしたのは、大学2年の時。 今から、50年前の私が20歳の時。 Mさんと私は、早稲田大学第二文学部でのクラス・メイト。 当時、彼女は男子バレーボール部のマネージャー。 ショート・カットの似合う、爽やかな雰囲気の美人。 半数は女子学生のクラスにあって、谷沢(元・プロ野球中日ドラゴンズのスラッガーで首 位打者を経験)や神部(フオーク歌手・名曲「なごり雪」を歌ったイルカの夫)や柴田 (NHKアナウンサー)や極左学生集団・革マルの活動家Aなど、個性的な連中が多かっ た男性陣の人気がありました。 しかし彼女は、3年に進級する際、多くのクラス・メイトと同様に昼間の文学部に転入。 以降、私は彼女と顔を合わすことはなくなりました。 それから十数年後、当時私が住んでいた目黒の自宅近くの商店街で、バッタリ彼女と再会。 私は3歳になる次男の手を引いての散歩中。 白昼でも人通りの少ない商店街の中ほどに差し掛かった時、前方から「東井君!」の声が。 何と、Mさんがニコニコと微笑んでいました。 「おおっ、どうしたの?どうしてこんなところに貴方がいるの?」 近くの喫茶店に入り、息子にアイスクリームを食べさせながら話をすると、すぐ近くに夫 (おっと)の実家があり、そこに住んでいるとのこと。 そこは地元で長い間営業している「煎餅・あられ屋」さん。 私も何回か買い物をしたことのある、昔ながらの小さな古いお店。 彼氏とは体育会系の仲間の集まりで知り合い、大学を卒業して数年後、柔道部だった彼と 結婚し、ここに住んでいるとのこと。 次に会ったのは、それから10年ほど後。 今度は、世田谷区の上馬交差点で。 私が現在も住む上馬の自宅から、国道246の舗道をたどって駒沢大学駅に向かい、環状 7号線(環7)との交差点の横断歩道を渡っている時。 ぼんやりと考え事をしながら歩いていたら、向こうから渡ってきたMさんとバッタリ。 「東井君!どうしたの?」 「君こそ何でこんなとこにいるの?」 近くの喫茶店に入って話をすると、この上馬交差点の駒沢寄りの野沢にある、Mさんの実 家に寄ってきたとのこと。 「貴方の実家は野沢だったのか。私は数年前にそこの上馬に引っ越してきたんだ」 「そうだったの。驚いたわ」 次に会ったのは、それからやはり10年ほど後。 猛暑日で喉が渇いたので、三軒茶屋駅前にあるイートインのベーカリーに飛び込み、アイ スコーヒーとアンドーナツが乗ったトレイを持って、店内の椅子を探していると、 「東井君!」。 振り向くとMさんが、女性の連れと座っているのです。 「あれっ、どうしたの?」 「お友達に会って、今からバスで目黒の清水町にある本店に帰るところなの」 「清水町に立派な本店を作ったよね。あの揚げ饅頭は、大ヒットだね。私も東京からの手 土産は、渋谷のデパ地下か目黒駅のアトレで揚げ饅頭を買っていくんだ」 このころ、Mさんの店は単なる町の煎餅屋さんから、今風の洒落た和菓子店を羽田空港や デパ地下や駅ビルなどに多店舗展開する、企業経営へと飛躍していたのです。 それからは時々、作家・沢木耕太郎の朝日新聞の連載小説にも載った、清水町の本店(こ の店の目黒通りを挟んだ反対側に、私の中学の母校があった)に併設された和風喫茶に顔 を出したりして、昨日の中華料理店に至るのです。 私たちは12時からランチのコース料理を食べ、紹興酒の燗酒を飲みながら、時事の話、 経営の話、家族の話、大学時代の思い出などを語り続け、気がつくと午後3時半。 3時間半もお喋りしてしまい、「じゃあ」「じゃあまた・・」と言って別れたのです。 私はその足で家路を辿りながら、「男同士で愉快に駄弁るのもいいが、たまには異性と話 すことは、もっといいな」とつくづく思ったのでした。 仲の良い男でも、男は心のどこかに自分と相手を比べる本能があり、社会的地位(立場) や、収入、財産、名誉、家族環境の良し悪し、幸福(不幸)度など、相手の状況に目をと がらせるのです。 特に現職の頃は、人事がどうだ、役職や昇進はどうだ、ボーナス・給料の差はどうだとい ったことから、ゴルフや麻雀などはどちらが上かなどと、常に自分と相手とを相対比較し、 時には自身の栄達のために、信じられないような裏切り行為を働く人も出てくるのです。 自分とほぼ同じ程度ならまあまあ、相手が上なら嫉妬して裏で足を引っ張るようなことを し、下なら小馬鹿にした態度をとり・・・。 組織労働者というものは、利己的な者が多く、「男の友情」などという言葉は、殆ど死語。 退職していい年齢になった人が、やたらに名刺を振りかざしたり、聞かれもしないのに 「今、地域で〇〇の役員をやっているんだ。それに週2回はゴルフさ」とか、「毎日、い ろいろな行事があって、現役の頃より忙しいよ。手帳が真っ黒だ。お前は何してるんだ」 と、とにかく多忙なことが偉いような感覚でものをいう人が少なくない現実に、辟易とし てしまいます。 「もう、肩書とかなんとか、人と比べる必要はない」「人は人、自分らしく生きればいい ではないか」と発破をかけたくなります。 その点、女性は異性なので、人生上のライバル意識というか勝ち負け意識、見栄の張り合 いはなく、率直にフラットな気持ちで話ができるので、ベター。 ゆったりと酒でも酌み交わしながら、他愛のない悩みやうれしいことを話したいときは、 女性を相手にしたほうが心が和らいでハッピー。 若いころのような、情熱的な恋だ愛だというのは、別次元のこと。 前期高齢者となったら、背伸びをする必要のない、好ましい女友達を大切にしたいもの。 だが、計算高い、女を売り物にしてアピールするような人は御免。 去年の11月に、奈良県天理市で高校のクラス会をしました。 女性陣から呼ばれた「東井君」という若々しい声の響きが、今でも耳に残っています。 来月は、厚生労働省時代の同期会。 きっと「君」付で呼び合うのでしょう。 ガールフレンド、女友達は「今日の活力、明日の希望」です。 さて、貴方に女友達はいますか。 いないなら、今からでもおつくりなさい。 幸運を祈っています。 それでは良い週末を。 |