東井朝仁 随想録
「良い週末を」

                  時 代 は 変 わ る
「時代が変わった」という言葉を、最近よく見聞します。
その言葉には、現在の社会状況を慨嘆するニュアンスがあります。
例えば。

「今の若い連中は、仕事が終わって飲みに誘っても、まず来ない。
終業の時間が来れば、課内に緊急の残業が発生しても、何の躊躇もなく帰ってしまう。
自分で物事を企画・創造しない。業務は言われたことしかやらない。
仕事を指示しても、『それは今まで教えられたことがないので、私には出来ません』
こうだからね。他人と連帯して何かやろうという気持ちはなく、個人主義の者が多い。働き方改革
で残業をなくすというのはいいが、自分以外、みな競争相手になってくるだろうね。先輩・後輩も
なく、みな競い合って一部の者だけがカネと権力を握れる社会になった。だから、他人なんか構っ
ていられないんだ。
個人主義がますます蔓延するよ。時代が変わったよ」という具合に。
これは年配の者が、今の若者像を投射しての時代感。

いま街は、あちこちで2020年の東京オリンピック目指して建築ラッシュの最中。
1964年の東京オリンピックの頃は、将来の国民生活の向上を企図しながら、新幹線・高速道路
・高層ホテル・新競技場等の社会的基盤の整備がなされ、「日本の経済のあけぼの」を象徴するよ
うな希望にあふれた建築ビームでした。
しかし現在の建築ラッシュは、超過密の大東京の環境を破壊してでも、今のうちに建てられるだけ
建ててしまえ、稼げるうちに稼いでしまえという、行政とその関連業者などの官民の刹那的な思惑
を感じます。
当然、オリンピックにつながる希望は生まれてこず、膨大な財政赤字など我関せずに、国や地方公
共団体の予算が湯水のごとく使われていくのです。
時代は変わりました。

さらに、小学校義務教育における英語の必須化にみられるように、社会は「これからは英語。
英語のできない者は企業ではいらない。そしてITの知識と技術習得は常識」という昨今の風潮。
親も子供に対し、「これからは英語。英語を猛勉強しなさい。スマホも買ってあげるから。小さい
頃からスマホぐらいいじってないとね」と。
私は何人かの親から、そんなことを聞きました。
国語や社会や理科や数学など、二の次、三の次という感じ。
語学堪能もいいが、それはあくまでも意志伝達の表現ツール。
基本的な自然科学や社会科学の知識がないと、国際的には自己主張や企画立案などはできません。
しかし、世の中の流れは英語偏重。
企業名、店名、商品、品物、雑誌等の書名、映画や音楽の題名、CM等々、多くのものが英語(その
造語・カタカナ語を含む)使用に。
かっては「日米安保条約反対!」「アメリカの原子力潜水艦寄港反対!」と社会の中で叫ばれてい
たこれらも、今は「アメリカの核の傘が、我が国の防衛には最重要」という認識が社会に広まり、
安倍政権以下多くの国民は「アメリカン・ファースト」を黙認し、アメリカの下部(しもべ)にな
ってこれに追従。
とにかく「アメリカがあってこその日本」とばかり、政治・防衛・経済すべての分野でアメリカに
盲従。
まさに、英語コンプレックス、アメリカへの偏狭な片想いが、日本の文化さえも崩壊させていく時
代。
時代は変わりました。

そして卑近な例では、最近「国民的なヒット曲」が無くなったこと。
かっては、ラジオやテレビから、誰でも知っている歌が流れていました。
誰でもというのは、子供(小学生)から大人までということ。
「泳げたいやきくん」「いつでも夢を」など、小学生では無理でも毎年多くの国民的なヒット曲が
生まれていました。
「ブルー・シャトウ」(歌・ブルーコメツツ)など、小学生たちが替え歌で「♪森と(んかつ)、泉
に(んにく)、囲まれて(んぷら)、静かに(んにく)、眠る(んぺん)、ブルー・シャトウ」と
歌いながら、下校していたものです。
今の時代は?
私の拙い記憶では、2003年(15年前)に流行ったSMAPの「世界に一つだけの花」ぐらいでしょ
うか?
ちなみに、昨年(2017年)の邦楽ヒットランキングでは。
1位はAKB48の「願いごとの持ち腐れ」とか。私は聞いたことがありません。
4位までAKB。5位から7位まで乃木坂46、8位から9位まで欅坂。
どれも大人数の若い女の子のグループ。
恥ずかしながら、私はこれらのグループをテレビで観たことはありますが、覚えている(冒頭のワ
ン・フレーズでも)歌は一つもありません。
ただ、どれもこれもキャーキャー歌って踊っているだけなので、中学か高校の学芸会みたい。

私は、歌には励まされました。
歌があったからこそ、小さくて頼りない勇気も、徐々に鼓舞されて膨らんだと言えるでしょう。
それは、メロデイの良さもさることながら、示唆に富んだ歌詞が良かったから。
例えば、イントロだけでも。
「愛した時から苦しみが始まり、愛された時から別れが待っている」(誰よりも君を愛す・松尾和子)
「涙枯れても夢よ枯れるな、二度と咲かない花だけど」(逢わずに愛して・前川清とクールファイブ)
「ボロは着てても心の錦、どんな花よりきれいだぜ」〈いっぽんどっこの唄・水前寺清子〉
「勝つと思うな、思えば負けよ」(柔・美空ひばり)
「すぐに忘れる昨日もあろう、あすを夢見る昨日もあろう」(東京の灯よいつまでも・新川二郎)
「北風吹きぬく寒い朝も、心ひとつで暖かくなる」(寒い朝・吉永小百合)
「泣いた女が馬鹿なのか、だました男が悪いのか」(東京ブルース・西田佐知子)

悲しい時、辛いとき、悔しいとき、寂しいとき、、、、。
これらの歌を聴いて、どれだけ心の救いになったことか。
どれだけ明日に進んでいく元気が生まれてきたことか。
今は、社会から人々の心をつなぐ共感できる歌が、なくなりました。
AKBや乃木坂の歌に熱狂している人が増えているかもしれませんが、それはそれ。
「日本列島の隅々まで流れ、歌われる歌は、もう出てこないでしょう。
時代は変わりました。

来年の春には天皇陛下がご退位され、「平成の時代」も終わります。
その前の、私たちが青春時代を送った「昭和の時代」は、さらに遠ざかります。
きっと私たちの世代にとっては、生きずらい時代になることでしょう。
そんなことを考えながら、河島英五の「時代おくれ」を口ずさむのです。
「♪目立たぬように、はしゃがぬように、似合わぬことは、無理をせず、人の心を見つめ続ける、
時代おくれの男になりたい」

それでは良い週末を。