有 働 さ ん
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NHKテレビの人気アナウンサー・有働由美子(49歳)さんが、3月31日付でNHKを退 職された。 NHK・民放を問わず、女性アナウンサーの中ではトップクラスの人。 彼女の天真爛漫で明るい性格は、同性や年配者にも好かれ、国民的アナウンサーともいえ る存在だった。 今まで、「サンデースポーツ」「サタデースポーツ」「ニュース10」「紅白歌合戦」な どの看板番組のアナウンサーや司会者として活躍し、退職された日の前日までは、朝の人 気番組「あさイチ」の担当を8年間にわたり行っていた。 その「あさイチ」の番組で、夫婦のセックスレスがテーマとして取り上げられた際、 「やりゃいいってもんじゃないですよね」と発言したり、去年の女性ホルモンの特集の時 は、尿の拭き方が「前から後ろではなく、下からじっと押し当てること」と紹介されると、 「私も間違っていました。私も48年間、女性をやっておりますので、後ろから前は駄目、 絶対に前から後ろと習いましたよ」とコメント。 気取りのない、朗らかで頭の回転が速い女子アナだった。 そんな有働さんの電撃的な退職の報道にふれ、改めて「なるほど」と感服した。 改めてというのは、私は以前に1回、彼女に会っているから。 それは今から20年前の1997年12月。 50歳になったばかりの私が、目黒区碑文谷にあるゴルフ練習場でゴルフの練習をしてい るとき、有働さんを囲みながらNHKテレビの取材クルーが私の打席に来て、私のスイン グを撮影し始めた。ドライバーで10球ほどフルスイングし、汗を拭いながら椅子席に戻 ると、有働さんがニコニコと笑顔を浮かべながら「すごい汗ですね。ナイス・ショットじ ゃないですか。練習中失礼ですが、ちょっとお邪魔します。NHKのサンデースポーツと いう番組のものですが、明日の番組で「アマチュア・ゴルファー」の特集を放映する予定 で取材をしております。少しお話を聞かせていただいて、よろしいでしょうか?」と、マ イクを片手に私の前に立った。 私は「どうぞ」と返答し、カメラの撮影の中で簡単な会話を。 ほどなくして私は、何気なく「私は幾つだと思います?」と尋ねると、彼女はニコニコし ながら「さあ・・」と。 私が「50歳ですよ」と答えると、「ええっ、そんなに見えない!」という言葉を予想し たが、有働さんは 「ああ、それいい!それでもう一度いきましょう」と笑顔を絶やさずに、サッとマイクを 私の顔先に差し出し、撮影の照明が向けられた。 私は一瞬「何?」と思いながら、「ゴルフの魅力は、やはりドライバーをフルスイングで 遠くに飛ばすことにありますね。しかし、ビューっと勢いよく球が飛び出しても、途中か ら大きく曲がってしまいます。だからこうして必死に練習してるんですよ」と、手の甲で 額の汗を拭いながら、ありきたりの返答をした。 クルーが去ったあと、「しまった。マイクが差し出されたときに、幾つに見えますか?と、 こちらから質問するアドリブを、彼女は期待していたのだ!」と気づき、少し後悔。 そして、有働アナの感じの良さと気転のきく鋭さに感心した。 あの時の彼女は30歳前後。 テレビで観る最近の彼女の雰囲気は、あの頃と全く同じ。 相変わらず「天真爛漫で、チャーミングで、聡明」 かっての同僚だった、元NHKアナで現在フリーの堀尾正明氏は、有働アナのことを「ナレー ションの上手さ、アドリブ力、型破りな受け答えと相手に対する配慮、感情と事実を言い 分けることのできる力、といったバランス感覚に優れている」と評価していた。 そんな彼女が、なぜ退職してしまったのか。 将来は、女性アナウンサーとしては稀な、NHKの幹部、理事への道も嘱望されていたと いうのに。 私は疑問に思い、幾つかのスポーツ新聞や週刊誌に目を通した。 すると、有働アナは退職に際して、こうコメントしていた。 「定年までしっかり働き続けようと思っておりましたが、以前から抱いていた海外での現 場取材や、興味のある分野の勉強を、自分のペースで時間をかけてしたいという思いが捨 てきれず、組織を離れる決断をしました」。 冒険を嫌い、保守的で保身的な人が多い昨今。 いい年の男でも「役員には定年がない」「余人をもって代えがたしと言われてね」などと うそぶいて、部下や後輩たちに疎まれているにもかかわらず、ベストな引き際、辞め際を 誤り、いつまでも現在のポストにしがみついている人が少なくない現状。 なのに、50にして安定した地位を捨て、さらに1歩進んで自己の夢の実現を目指す彼女 の姿勢に、私は感銘を受けた。 有働さんの今回の決断は、作家・内館牧子氏の言葉を借りると「散り際(ぎわ)千金」。 引き際、辞め際がきれい。 まさに、彼女の真骨頂が見て取れるようだ。 いつかまた、天真爛漫の彼女が再び桜花爛漫に咲き誇る日が来ることを、心から期待せざ るを得ない。 頑張って、有働さん。 それでは良い週末を。 |