東井朝仁 随想録
「良い週末を」

            夢は老いることなく(3)
前回では、「高齢者と晩年の生き方」に関する、4人の方の書籍の要旨を紹介しました。
著者の方は80代以上で、100歳になられた方もおられます。
やはり年齢を重ねただけあって、それぞれ豊富な経験と知恵に裏打ちされて書かれた文章
には、深い味わいと、ある種の達観が感じられました。
これから先の人生がまだまだ続く、若者や中年をターゲットとした「ノウハウ本」
とは全く位相が異なり、評論家や学者が上から目線で指導的に唱える抽象的な論調ではな
く、4人の著者は現代の高齢者の「孤独」の実情を、自分のことのようによくわきまえて
おられるので、「私の経験から、こう思う」と読み手に押しつけがましくなく語っている
ような印象を受けました。
だから、説得力があるのです。

それぞれの本を読むと、高齢者の生き方、孤独に対する考え方に幾つかの共通事項がある
ことに気づきます。
思いつくままに列挙してみますと。
@ 他人に依存せず、自分の才覚(努力)で自立して生きること。
A 「人は本来孤独である」と自覚すること。老年の仕事は孤独に耐えること。
  その中で、もう一段階成長した自分を発見することが崇高な生き方。
B 孤独という自由の中に楽しみを見つけ、一人でも楽しんで生きること。
C 友達・知人は数ではなく、出来たら本当に信頼できる人を1人、2人持つこと。
D 未来のことを憂えず、「今日一日」と思って過ごすこと。
  そして、一日の終わりに神に「ありがとうございました」と感謝すること。
E 生き甲斐(目的)を持つこと。
F 毎晩寝しなに、過去の良いこと楽しかったことを、回想して楽しむこと。

4冊の本の内容を凝縮すると、たったこの7点に尽きると思います。
全てが、偶然なのかどうかはわかりませんが「高齢者は孤独になる。それは人間の宿命と
して自然でやむを得ないこと。
要は孤独を幸福と感じるか不幸と感じるかだ。それはそれぞれの人の心のありよう、人生
の晩年の生き方次第」と主張しているように、私には感じられました。
その主張に共鳴するか異論をもつかは、人それぞれ。

未曽有の超高齢社会に突入してきました。
年々増加する高齢者の対策として、我が国の医療や介護福祉や年金などの社会保障制度の
持続を図る検討も当然のことながら、今後の極めて重要な課題として、「人はどう生き、
そしてどう死んでいくのが幸せか」ということを、普段から考える文化を、社会全体で醸
成していくこともあげられると思います。
それは今現在の高齢者だけの問題ではなく、若い人から、間もなく高齢者の仲間入りをす
る人たちまで、全ての日本国民に共通する課題。
日本が近い将来、人口減少で国力も低下し、並みの中位国になることが十分予測される今、
「これからの我が国のありかた」を考えることにも通底すると思います。

前々回のエッセイで、今の社会で重要なキーワードは「健康」「カネ」そして「孤独(高
齢者の生きかた)」の3Kと便宜的に述べましたが、私が常々主唱している生きる上で大
切なことは、3つのY。
「夢と勇気と、少々の円(yen)」
生活に困らない程度の金を持ち、夢(希望)を追いかけて、勇んだ気持ちで生きていく。
この3つのYがあれば、人生はどうということない。楽しく元気に生きられる。
そう思っています。また、そうしてきました。
特に一番重要だと思うのは「夢」。生きる目標。
年は取っても、肉体は老いてきても、心だけは老いさせたくありません。
喫茶店で珈琲を飲んでいるときも、満員電車で揺られているときも、1日が終わって床に
就いたときも、頭の中に夢が浮かんでくるのです。
「いつまでも、夢は老いることなく」
これが私の一番の健康法、生きる楽しみなのです。

それでは良い週末を。