一 服 の 清 涼 剤
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連日、猛暑日が続きます。 猛暑日は35度以上の最高気温を観測した日。 これが日本のあちこちの地域で観測されているのですから、異常。 例えば、今時分の東京の平年の最高気温は29度。 それが今年は35度前後と、平年より5度も高い日が続くのですから、異常。岐阜や京都の 地域では、40度を記録。 私の入浴時の風呂の温度設定は、38度。 40度など、10分も入っておれない温度。 風呂に入るより、街に出たほうが熱いのですから、まさに異常。 気象庁の予報ですと、この猛暑・酷暑は8月中旬まで続くとのこと。 異常が常態化しているのですから、これは異様。 旧来の今頃はようやく梅雨の時季が終わり、学校は夏休みに入る直前の頃。 太陽が本格的な夏の到来を感じさせて輝く頃。 生徒・学生のはしゃぐ姿や、夏のバカンスを計画しているだろう社会人の表情も、何とな く晴れ晴れとしている頃、、、だったはず。 しかし今年は(近年は)様子が違います。 西日本豪雨で甚大な災害が起こり、今でも復旧に非常な困難をきたしているというのに、 さらに長期にわたる猛暑襲来ですから言葉を失います。 毎日、テレビでは朝から晩まで「熱中症に十分気を付けてください」の連呼が途切れる時 はなし。 「今日もトップニュースは猛暑と熱中症か」と、うんざりしていたのですが。 だが、不覚にも今日は初めて、その「熱中症」を我がこととして意識しました。 それは、午後2時から始まる篠笛の稽古のため、半蔵門まで出かけた時のこと。 事務所から青山1丁目の駅まで、たった5分ほどの距離を歩いたのですが、異常に陽射し が強く、微風が熱風のように感じられ、頭がぼっとしてきたのです。気温は昨日と同じ35 度前後のはず(例年ならば、この数値も異常に高い)なので、「昨日と同じか」程度にタ カをくくっていたのですが。 だが、冷房の効いた地下鉄に乗っても頭がぼっとし、さらに脈が速くて不快感を感じてき ました。半蔵門の駅に着き、篠笛の先生の教室があるマンションまでの炎暑の道を、これ もたった3分ぐらい歩いていたら、今度は軽い目まいに襲われました。 「どうしたのだろう?今日はなんか調子が悪いな・・・」と、部屋に入る前に深呼吸を繰 り返し、気合を入れて入室。 すると間髪入れず、私と同世代の先生(人間国宝・宝山左衛門氏の長女)が「この暑さで 大丈夫でしたか。稽古日を変更されても良かったのですよ」と言いながら、冷茶を入れて くれました。 私は冷茶を飲みながら、先ほどの道すがらの状況を説明。 すると先生も「私も昨日、祐天寺を歩いていたらクラクラしてきたので、あわてて喫茶店 に飛び込んで休憩しました。この暑さだから熱中症になると思って。黒蜜のかかったあん みつを食べたら、シャキッとなりましたが」と笑い、「主人も今日は熱中症でお弟子さん の稽古を休んで、家で寝ているんですよ」と話され、ビックリしました。 意外と多くの方が熱中症(気味)になるのだ、と。 私は、まだ少し息が切れる状態でしたが落ち着いてきたので、私と先生で篠笛演奏用に作 曲した、島崎藤村作詞の「初恋」の歌を、吐く息は少なめに静かにゆっくりと演奏。 まずまずの出来栄えで1時間後、無事に稽古を終えて退室したのです。 帰路は事務所によらず、地下鉄に乗り直帰。 ここで、ちょっとした印象に残る出来事が。 半蔵門線で渋谷に着いた時、乗ってきた客の一人に、ドア付近に立ってスマホの画面に熱 中している、茶髪でぎんぎらした服装をしているヤンキーぽい若者が。 イヤホーンを当てた彼は、首を振り振り時々ニヤついているのです。 私は見るともなく彼を見やりながら「この暑さでいかれているのか」と苦笑していました。 そして「テレビなどのマスコミは、この熱中症騒ぎのニュースばかりに時間を割き、参議 院の定数を6増する法律案やカジノ法案など、世論調査では国民の多数が危惧している法 案の問題点などは掘り下げず、『閉会を間近にして、与野党の攻防が激しさを増していま す』などと、味もそっけもない常とう句を通り一遍に流しているだけ。その前はW杯ベス ト16ごときで、日本中が大騒ぎ(と言うより、マスコミが過剰に騒ぎ立てているふう)。 米朝合意の核ミサイル廃棄の問題や、拉致被害者の問題はどこに行ってしまったのか」な どと、ぼんやりと考えていたら、三軒茶屋に。 そこでヤンキー男も私も下車。 すると。 前を歩いていたヤンキー男が、突然駆け出したのです。 そしてベビーカーの車輪が、ホームと電車の間に挟まって慌てている女性のところに駆け 付け、手助けして素早くベビーカーを無事に車内に乗せたのです。 感謝して頭を下げる若い女性。男は軽く会釈し、何事もなかったように立ち去っていきま した。 その何ともスマートな振る舞いに、先ほどまでのイメージは払しょくされ、粋な男だと感 心させられたのです。 思えば最近、エレベーターに乗って私が「開」のボタンを押しながら中の人を降ろしてい ると、決まって頭を下げて降りていくのは若い人。混雑の中で、ちょっと体が触れると、 すぐに「すいません」と率直に謝るのも若い人(その点、ジジババは駄目)。 昔より今の若い人のほうが、そうした礼儀はしっかりしていると痛感しています。 今の若い人は、満更ではありません。 異論もあるでしょうが、私にはW杯での、ゴールを決めた後の本田選手の「ドヤ顔」より、 今日のヤンキー男のほうが、この猛暑が続く日々の中の一服の清涼剤になったことは、間 違いありません。 意外と、ヒーローは身近にいるものです。 それでは良い週末を。 |