東井朝仁 随想録
「良い週末を」

             9 月 に な れ ば
豪風雨で日本列島に甚大な被害を残して去って行った台風21号。
今日(9月5日)は、雲一つない澄み渡る青空。
私は小学生の頃からいつも、台風が過ぎ去った後の青空を仰ぐと、歌手・大津美子が
1956年に歌って大ヒットした「ここに幸あり」の歌が心に浮かぶのです。
特に、1959年9月26日に日本に上陸し、甚大な被害を残していった伊勢湾台風の
時がそうでした。私は小学6年生。家の瓦が飛び、大きな庭木の何本かが折れていた翌
朝。空の色が目に染みるようでした。
前夜の恐怖が嘘のように、しんとした青く澄み切った空の色でした。
「♪嵐も吹けば 雨も降る 女の道よ なぜ険(けわ)し
  君を頼りに 私は生きる ここに幸あり 青い空」
子供心に、「男性より女性のほうが、この社会では苦労が多いのだ・・・」
と感じ、それでも秋の青空を仰ぎながらスクッと立ち、元気に生きていこうとする美しい
人を想像していました。

9月になると季節の花からも、色々なことを連想させられます。
私の好きな紅いサルビアの花、ピンクのコスモスの花と咲いて、10月の私の誕生日
(1日)の頃に咲く金木犀のオレンジ色の花、そして白や黄色の菊の花。
これらは、結婚シーズンに咲く花のせいなのか、結婚に関した歌の中にも歌われており、
1975年当時、私が結婚した10月12日にかけて、様々な歌がラジオやテレビから頻
繁に流れていたのを想い出します。

例えば「サルビアの花」(歌・女性フオーク・グループのもとまろ)
「♪いつもいつも思ってた サルビアの花を あなたの部屋に投げ入れたくて(略)
 なのになのにどうして 他の人のところへ・・・僕の愛のほうがステキなのに・・・」
例えば、コスモスの花では「結婚するって本当ですか」(歌・ダ・カーポ)
「♪雨上がりの朝 届いた短い手紙 ポストのそばには赤いコスモス揺れていた
 結婚するって本当ですか 机の写真は笑っているだけ ほんの小さな出来事で 別れて
半年たったけれど 優しい便りを待っていた・・・」
例えば、菊の花では「花嫁」(歌・はしだのりひことクライマックス)
「♪花嫁は夜汽車に乗って嫁いでゆくの・・(略)小さなカバンに詰めた花嫁衣装は
 故郷の丘に咲いていた野菊の花束 命かけて燃えた恋が結ばれる 何もかも捨てた花嫁
 夜汽車に乗って・・」

これらは1970年代の歌ですが、3番までの歌詞を聴いているだけで、短いラブストー
リーがリアルに思い描けてきます。
素晴らしい作詞家がたくさん活躍し、良い歌を作っていた時代。
今では、そもそも花とか手紙とか夜汽車などはラブストーリーのモチーフとはならないで
しょうし、優秀な国民的作詞家も皆無になりました。

9月。秋の到来。結婚式の季節の到来。
そういえば、ここ数年ばかり結婚式の招待状が来なくなりました。
それまでは、頻繁に職場の後輩とか友人のご子息とか親類の子とかの結婚式に呼ばれ、ス
ピーチやお祝いの歌を歌ったりして目出たい酒を酌み交わしていたのですが。子供たちの
結婚は、二人の息子はとうに終え、今はそれぞれ孫が二人ずつ成長しているのですが、娘
がまだ。
花嫁の父として式に出席することが、あるやいなや・・・・。
もしいつの日にかあるならば、兄貴面をして、小柳ルミ子の「瀬戸の花嫁」か、かぐや姫
の「妹」でも臆面もなく歌ってやろうと思っているのですが。

9月。
9月になれば、男も女も老いも若きも、みな秋空のように爽やかで、秋の花のように綺麗
な笑顔をし、希望とロマンに満ちて進んでいくことでしょう。
この殺伐とした現代社会であっても、色々な苦労や辛いことがあっても、きっと「ここに
幸あり」の心で生きていくはず。それがいつの世でも変わらぬ人の心。
そう信じたいのです。

それでは良い週末を。