栄冠は君たちに輝く
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猛暑と台風と強雨と炎天が繰り返す、不順な天候の日々。 それでもここ数日は、朝夕の気温がやや下がってきて、かすかに秋の気配を感じられるよう になりました。 そこで、去りゆく夏を惜しみながらHP写真集「良い想い出に」を更新しました。 今回は「もう一つの甲子園」と言われた、「全国高等学校定時制・通信制軟式野球大会」の 決勝戦の様子です。 時は、8月17日(土)。 所は、プロ仕様の明治神宮球場。気温は35度を超える猛暑。 熱戦を呈している、「夏の甲子園」と同じ状況ですが、違うのは観客の数。大きなスタンド はガラガラ。 そして、各選手は4〜5日の夏季有給休暇をとり、職場を休んで参加している勤労高校生。 時間も予算も社会の関心もない、軟式野球の全国大会。 現在、定時制通信制高等学校に学ぶ生徒は、約28万人。 第66回目の今回、各地の予選を勝ち抜いて出場したチーム数(学校数)は、22。 私はだいぶ前から、この大会だけは毎夏、神宮球場に行って観戦していました。 特に近年は、母校の天理高校が出場して優勝を重ねていたから、余計です。 そして何よりも、甲子園とは違って、神宮での定時制(夜間部)高校の野球大会は、余り にも社会やマスコミの関心が薄く、全日制(昼間部)の野球部と比べると気の毒なほど。 そこで、ちょっとでも協力してあげたい、試合を盛り立てたいという気持が働くのです。 だから入場料は無料の中、相応の寄付金をカンパし、有料のプログラムや団扇を買って入場。 がらんとしたバックネット裏の席に陣取って、双方のチームのフアイン・プレイには惜しみ ない拍手を送り、天理の投手や打者には「球が走っているぞ、その調子でいけ!」とか「い いぞ、振れているぞ!外角のスライダーは見せ球だ。ストライクだけ狙え!」とか、言いた いことをズバズバと大きな声を張り上げて応援するのです。 今年も熱戦でした。 学校の応援団もなければ、観客もまばらなスタンド。 それでも、どの学校の選手たちも元気に声を掛け合って、精一杯のプレイを展開していまし た。 そして決勝戦。 天理の相手は東京都立八王子拓真高校。 過去の決勝戦の相手としては、投手を中心とした良く鍛えられたチームでした。 だが、やはり投打と伝統力で天理が上回った試合展開。9回の裏に入るまで8−0で天理が 圧倒。 そして、八王子拓真の最後の攻撃。それもすぐに2死。最後のバッターは平凡な内野ゴロ。 「決まった」と席を立った時、ショートがまさかのフアンブルで1塁に。 そこから四球・死球と安打・2塁打で、あっという間に3失点。 投手は、9時の試合開始からうなぎ上りに上昇した暑さと、今までの連投から、身体全体に 疲労感が漂っています。 塁上には二人。 天理の監督は、「最後まで攻めろ!今までやって来た練習を思い出せ! 逃げるな、思い切り攻めろ!」と、必死に激を飛ばします。 エースは直球の連投。だが、球の勢いはだいぶ落ちています。 渾身の力を振り絞って投げたであろうボールは、快音を発してレフト線へ。 これは危機一髪のフアウル。 私は「投手は監督の攻めろの言葉を、思い切り力を込めた直球勝負で行け。後悔しないよう にお前の得意の直球で攻め切れ、と解釈してる」と思い、これはやばいと直感。 前の連打も、すべて直球。 相手チームが、伸びがなくなった直球狙いなのは確か。 そこで、監督の指示を否定するような言葉をやめ「ピッチャー、あと一人。ゆっくり行こう ぜ。 時間はいくらでもあるぞ。柔軟に投げろ!柔軟に!」と球場全体に響くほどの大声で鼓舞。 すると投手は、直球で攻め、直球でストライクを取っていた(カーブは見せ球)た投球を切 れの良いカーブにして空振りに。 そして2ボール2ストライクの次の一球。 打者は直球を待っていたと推察。 しかし最後の1球もカーブ。打者は見送り三振。 この瞬間、驚異の13連覇を達成! それにしても、13年間も優勝を重ねた母校・後輩たちに、「俺は、忘れかけていた闘志を 呼び起こされた」と改めて、感謝。 「勇気を貰った」などとは言わない。勇気や元気などは人から貰えるものではない。 人の行動に触発されて、自らの心に湧き出でるものが、真の勇気であり元気であると、私は 思っているから。 昼間はそれぞれの職場で働き、夕方からは授業。そしてわずかの時間を割いての猛練習。 そうした日々を4年間(定時制は4年制)も積み重ねてきた彼ら。 グランドから見ていても、誰もかれもが礼儀正しく、「one for all、all for one」の チームワーク精神、フエア・プレーの精神、相手チームに対する配慮が、一挙手一投足から 見て取れるのです。 まだ、こうした若者がいるんだ・・・! 私は、試合後、改めてそう感心した。 これこそが、私が生きているうえで最も感激すること。 私にとって、今年の夏はこれで終わった。 「栄冠は君たちに輝き、その努力が私の心を熱くした。ありがとう!」 これからも忘れられないであろう、令和の夏だった。 それでは、少し早いですが、良い週末を。 |