二つのリスペクト(1)
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この1週間で、私にとって二つのリスペクトすることがありました。 「尊敬したこと」と日本語で言ってもいいですが、少しニュアンスに幅を持たせるために、 リスペクトと表現。 まず一つ目のリスペクト。 それは、現在、日本各地で開催されている「4年に一度じゃない。一生に一度だ!」のラグ ビーWカップ。 先週の金曜日(20日)の夜に行われた、1次リーグA組の日本対ロシアでは、日本が快勝。 日本は史上初の8強入りを目指し、今週の土曜日に、世界ランキング2位で優勝候補のアイ ルランドと対決。 どう贔屓目に見ても、今までは、相撲でいえばアイルランドは正横綱で日本は前頭10枚目 ほどの実力。 それでも、先日のテレビ番組では、日本代表の数人の選手が次戦への抱負を、気負うことな くきっぱりと、こう述べていた。 「国民の皆さんの誰もが、アイルランドが勝つと信じているでしょうが、私は日本が勝つと 本当に信じています。皆さんも信じて応援してください」そう答えると、アナウンサーは 「そうですね。私たちも信じていますから、頑張ってください」と、やや困ったような表情 で話を締め終えたのが、今でも印象深く残っている。 私は、よくぞそこまできっぱりと答えたと、その勇気と責任感に感服した。 他のスポーツでは、例えばオリンピック代表選手に抱負を聞くと「楽しんできます」とか 「悔いのないように頑張ってきます」とか、当たり障りのない言葉というより、どこかでプ レッシャーから逃げる弱さを感じることが多々あったが・・・。 4年前のWカップで、日本は最強チーム・南アフリカと戦ったが、戦前の予想では世界中の 誰もが南アフリカの圧勝を信じて疑わなかった。勿論日本人(私の知っている限り)の予想 も、日本惨敗だろうと。 だからみっともない負け方だけはするなよと。 しかし、日本が最後の最後で逆転のトライを決め、奇跡の勝利をあげたのである。 この時、凱旋帰国した選手たちは、各テレビ局に出演させられ、バラエテイ番組仕立てで、 人気お笑いタレントなどから愚にもつかない質問を受けていたが、誰もが浮かれることなく、 お調子者になって受けを狙うものもなく、それでいて感謝の笑みを浮かべながら淡々と対応 していた姿に、深く感動させられた。 「勝因は何だと思いますか」「貴方のあのトライが大きかったですね」と振られても、「最 後にボールを受けたのが、たまたま私だっただけで、それまでにスクラムでのフォワードの 頑張り、バックスの見事な連携があってこそ、トライが生まれたのです」 そう答えると、ストレートにマジな回答だったので想定外だったのか、聞き手は「はあー」 という表情。 関西系のお笑いタレントが、ひな壇に座っている各スポーツのそうそうたる金メダリストや 著名選手に、馴れ馴れしく、「お前、そんなこと言うて、アホか!」と茶化すと、そのアス リートも頭を掻きながら苦笑して、周囲の笑いを浴びるようなシーンが売りの番組がある。 国民みんなのあこがれの爽やかな選手が、そうしたバラエテイ番組に出演し、おどけた三枚 目の姿を見せるのも悪くはないが、私はそうした出演は第一線を離れて引退した後に見せて ほしいと、強く願っているのだが。 話を戻して、その南アフリカに勝利をもたらし、一躍時の人となったFB(フルバック)の 五郎丸選手。 彼も、帰国後、単独で各局の番組に出演させられた。 彼は常に微笑をたたえながらも、穏やかに言葉少なに受け答えするタイプ。 どんな有名な人との対話でも、動じることなく、受けを狙った受け答えをするでもなく、正 直に話をする。 まさに私が最も尊敬するラグビー選手。 各番組に出演し、様々なインタビューを受けていたが、今でも忘れられないのはビートたけ しとの対面。 ビートたけしのほうが少し緊張していたのか、やたらにリアクションが大きく、いつものお どけたジョークでアプローチしても、五郎丸は微笑みながら全く動じる雰囲気が無く、淡々 と受け応えるのみ。たけしはその雰囲気に呑み込まれたように大人しくなってしまい、代わ りに女子アナが合いの手を入れるシーンがあった。 きっと、「チームの全てがヒーローだ。たまたま自分がチームを代表してきているだけで、 自分一人が晴れがましく浮かれても仕方がない」という気持が、日頃から自然に働いている のだろう、と思った。 その時、「この人は、マスコミの騒ぎに浮かれることなく、個人プレーを興奮気味にアピー ルすることもない。このような態度は、持って生まれた性格ではなく、ラグビーで鍛え上げ られたもの。これこそ「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン(一人はみんなのた めに、みんなは一人のために)のラグビーの基本精神を体現しているベスト・プレーヤーだ」 と思った。 一昨日、幾つかのテレビ番組に、それぞれ代表選手が3人ずつ出演していた。 驚いたことに、誰もが必ず「ラグビーは、非常に激しいスポーツだ。だからこそ、相手に対 するリスペクトを忘れてはいけない。ノーサイド(試合終了)になったら、勝っても負けて も、相手を称え合う。これがラグビーの基本精神です」と語っていたことが、心にしみた。 NHKで解説していた五郎丸も、南アフリカに勝った当時のことを回顧しながら、こう述べ ていた。 「私たちは勝った瞬間、みんな歓喜して抱き合い、乱舞していた。その時、南アフリカの全 ての選手がこちらまで来て、一人一人に握手して引き上げていった。その時、私は非常に恥 ずかしいことをしていたことに、気が付いた。相手を称えることを忘れて、自分たちの勝利 に舞い上がっていた」と。 ラグビーの世界には「ラグビー憲章」というものがある。 これは全てのレベルでプレーする人たちのための、基準を示すものである。 それは、「品位、情熱、結束、規律、尊重」の5つ。 尊重(リスペクト)の欄には、こう記されている。 「チームメイト、相手、マッチオフシャル、そしてゲームに参加する人(関係者)を尊重す ることは、最も重要である」 信じないわけではないが、次戦のアイルランド戦は容易ではない・・。 90%不可能な相手。 でも信じるしかない。 「心を一つに。頑張れ日本!」 それでは良い週末を。 |