東井朝仁 随想録
「良い週末を」

二つのリスペクト(2)
私たちは、まさに大量絶滅の始まりに差しかかっているのです。
でも、貴方たちが語り合うのは、いつもお金や途絶えることのない経済成長の話だけ。
よく、そんなことができますね!
私は、何気なくテレビのニュースを観ていて、身体中に戦慄が走った。
「何だこれは。何という率直で勇気あるスピーチだ!」と。
時は9月23日。場所はニューヨークで開かれた国連の気候行動サミットの会場。
スピーカーは、国連事務総長から招聘されて参加した、スウェーデンの高校生・グレタ・ト
ゥンベリさん(16)。
まだあどけなさが残る小さな少女。
その彼女が、各国のそうそうたる代表者を睨みつけながら、涙に潤んだ表情一杯に怒りと悲
しみを浮かべて、それでも堂々と臆することなく、「十分な温暖化対策」をしてこなかった
各国への怒りのスピーチを発していたのだ。

グレダさんは、「このままでは近い将来に地球は滅びる。一番の犠牲者はこれからの時代を
生きる若者たちだ。一向に進まない温暖化対策。世界各国のお偉いさんたちは、そんな先の
ことなど自分達には関係がないというふうに、真剣さが全くない」という危機感から、昨年
8月、毎週金曜日には授業を放棄し、スウェーデンの議会前で「一人ストライキ」を始めた。
気候変動の危機が迫っているのに、誰も行動を起こさないことに「我慢が出来なくなった」
という。たった一人で始めたストは、若者を中心に大きなうねりを生んだ。国連での演説の
3日前には、日本を含む160か国以上で400万人以上がデモに加わったという。

グレダさんはさらにこう訴えた。
「貴方たちは、私たちを失望させています。しかし、若者たちはその裏切りに気づき始めて
います。未来の世代の目は、全て貴方たちに向けられているのです。それでもなお、私たち
を裏切る選択をするのであれば、言わせてください。私たちは、決して貴方たちを許しませ
ん」

2015年に採択し2020年にスタートする「パリ協定」(185か国締結)での温暖化
対策の国際ルールは、「産業革命前と比べた世界平均気温の上昇を2度未満、可能なら1.5
度に抑えること」が目標。
だが、現在の各国の目標を達成しても、約3度上昇してしまう。
そこで国連事務総長は、「2030年までの削減目標の上積み」と「2050年までに排出
を実質ゼロ」にする目標設定を、今回のサミットで各国に求めた。
その結果、来年までに削減目標の上積みを70か国が約束。2050年には温室効果ガスの
排出をゼロにする、と77か国が表明。
しかし!
日本は「2030年→上積みなし(当初の13年度比26%削減)」「2050年→表明せ
ず(当初の80%削減のまま)。
ちなみに、世界最大の排出国・中国は新たな目標は提示せず、植林の評価を説明するのみ。
同3位のインドも再生可能エネルギーの拡大を約束するのみで、新たな目標は無し。
そして、目標の上積みがない同2位の米国と同5位の日本は、登壇の機会が設けられなかっ
た。
何ということか。

私が数年前からこの欄で触れている、日本の異常気象の常態化。
「こんな暑さは初めて」「50年に一度の豪雨」
そんな言葉は、今や例年並みに。
夏は猛暑日の連続。この10月1日〜2日の東京は、30度以上の真夏日。
厳寒・大雪、夏から秋は大型台風の襲来、大雨洪水・竜巻強風の多発。
世界規模で進む気候温暖化。それによる気候大変動。
生活も農業も水産業も気候変動を受けて、これからも激変を余儀なくされていくはず。
国内の社会的基盤(公共施設・高速道路・幹線道路・橋・歩道橋・トンネル、電信柱、電線
上下水道管、港湾・護岸・駅等々)は、昭和30年代後半から40年代にかけて建造、敷設
されたものが多々)は老朽化しているが、新設・補強工事は遅々として進まず。
これらは台風などで容易に倒壊するようになり、災害は激甚化するはず。
しかし。
「熱中症に注意してください」「大雨による洪水・土砂災害に注意してください。避難は早
めにしてください」「秋刀魚の漁獲高が過去最低」「イネや果物が風雨で全滅」・・・・。
こうしたニュースが連日流れても、「世界的な地球温暖化対策への緊急な取り組みは、日本
でも待ったなしです」などと解説するテレビ局はほぼゼロ。
地球環境を良くするためのリーダーシップをとることは、核廃絶の取り組みや、平和憲法の
信念に徹した平和外交の遂行と共に、日本国のプリンシプルではないのだろうか。

あの少女の悲しみと怒りに溢れた言葉は、パリ協定離脱を示唆し、自国の利益しか考えない
トランプ・米大統領(会議前にフラリと顔を出し、すぐに退散していったが)と、それに追
随する日本に向けられていたに相違ない。
そういえば、会議後、出番もなかった小泉環境大臣はインタビューに「気候変動問題に取り
組むことは、きっとセクシーでしょう」と、何かよくわからない回答をしていた。
企業・財界のカネ至上主義。例えば関西電力から110億円超の原発工事を受注した会社が、
原発を誘致した町の助役を経由して、裏金として関西電力の社長ら幹部20名に総額3億円
の金品を渡していた事実が判明したが、消費税の2%のアップに汲々としている一般国民を、
せせら笑うような階層格差社会になってしまっている日本。
小泉氏には、今までの旧弊、価値観しか持ち合わせていない、内弁慶な政治家や財界や官僚
に対し、敢然と独自の前向きの発言を期待したいのだが・・・無理な話か。

年寄りは所詮、「年金と医療・介護保険が維持できていれば、あとは知っちゃいない。どう
せ地球温暖化か何か知らないが、そのうち死んじまうから関係ないよ」が本音だろう。
だから、若い人たちは今の政治家や財界や行政の幹部ら、要するに国や会社に期待していて
は駄目。
自分の考えを持ち、自分で自分を守る。
しかし、自分一人でかなわないことは、他の人々と連帯・協同して成し遂げる。
それもすぐに。
「なんとかなるだろう」と独り合点しているのは、楽観主義ではなく思慮が足りないだけ。
悲観的に(より周到に)準備をし、楽観的に行動していく。
それもなるだけ若いうちに。
私はそう思います。

若者を中心とした大規模な反中デモが連日のように長期間続く香港。
今日は市民デモで学生を銃で撃った警察・政府に抗議し、同校の学生らが授業ボイコットし
て抗議集会を開いていた。
ある女性は、インタビューに「自分たちが立ち上がらないと、助けでくれる人がいないので
す」と、真剣な表情で答えていた。立派なものだ。
日本の若者も、もっと現在の国や社会の矛盾に関心を持ち、出来ることから行動していかな
いと、この国の未来、いや3年〜5年後の自分たちの社会は、様々な危機が始まっているこ
とでしょう。
まずは、おかしなことに対し「How Dare you(よくもそんなことができる)」と呟くだけでも。

海を越えた彼方の国の16歳の少女・グレタさん。
貴方の勇気は素晴らしい!
これが、もう一つのリスペクトだったのです。

それでは良い週末を。