東井朝仁 随想録
「良い週末を」

め ぐ る 縁
この1週間は、こまめに篠笛の練習をしています。
来週の土曜日に、新装なったホテル・オークラ内のホールで、「笛美会」の演奏会が開催さ
れるのです。
この会は、篠笛奏者・福原道子先生が指導されているお弟子さんたちの、年1回の発表会。
私は4年前の2015年の8月から、福原先生に月1回の個人指導を受けており、この年の
12月の発表会から参加。途中1回欠席したので、今回は4回目。
毎回、和装などで正装した20〜30名近い方が参加(男性は私と同年配の方の二人だけ)。
皆さんお上手で、曲目も長唄の「黒髪」とか、「三春幻想」「飛騨物語」など、篠笛ならで
はのしっとりとした、古典的で私の知らない曲ばかり。殆どの方が長年篠笛のお稽古をされ
ているのです。
演奏終了後は、オークラの美味な洋食コースを頂きながら歓談。緊張も解かれ、皆さんワイ
ンを飲まれながら和気あいあいのひと時。
篠笛を習い始めて足掛け5年になりますが、篠笛を習っていて良かったと、しみじみと思え
る一日です。

福原道子先生は、六代目・福原百之助(人間国宝)の二女。篠笛と能管を父に習い、東京芸
術大学邦楽科を卒業後、国内外の様々な演奏会などを舞台に、活躍されています。
そうしたことを知ったのは、私が半蔵門にあるマンションの一室の稽古場に、個人レッスン
に通い始めてから。
1時間のお稽古ですが、毎回決まって初めの10分ほどは雑談。
これが楽しいのです。
そして驚きの連続です。

実は、篠笛を初めて習ったのは、私が53歳(2001年)の春のとき。
朝日新聞に新宿住友ビルの「朝日カルチャセンター」の案内が掲載されており、幾つもある
教室の中から、何となく「篠笛入門」を選び、毎週日曜日の朝の1時間・5回コースに参加。
その時の講師が福原百之助氏。
5週間(回)にわたるレッスンで、何とか唱歌の1曲ぐらいは吹けるように。
そして同年10月13日(土)、厚生労働省の野球クラブ「ブルーバッカス」と、各種団体
の有志で創設した親睦グループ「とわ会」とで、目黒雅叙園で合同開催した「創立20周年
及び15周年合同記念パーテイ」において、学校唱歌「赤とんぼ」を演奏したのです。
その翌年のある日、私が帰宅駅の「駒沢大学駅」で降車した時、ホームを歩いていた福原氏
に偶然お会いし、受講生だったことを述べて御挨拶を。先生は駒沢に実家があり、そこに寄
って来たとのこと。
小柄で、前回のエッセイで触れた聖心女子大学のM教授にそっくり。
教育者の風貌そのままでした。

篠笛との縁は当時で一時切れました。だが60歳を過ぎ、一度はやってみたかった「商売」
というものを個人企業を立ち上げて営業。数年たった頃「こんなことばかりではつまらない。
何か芸事をしたい」という欲望が湧き、「そうだ。篠笛を再開しよう!」ということに。
しかし、どこで誰に習うかが決められません。その時、かって、知人の女性が「私が一時、
能管を習っていた先生が篠笛も教えており、明るいとても良い先生」と話されていたのを思
い出し、その知人に連絡先を聞き、すぐに福原道子先生のレッスンを受けることにしたので
す。
すると初回に「えっ、先生は百之助さんの娘さんですか。私は以前のカルチャセンターで習
っていたんですよ」
「えっ、そうですか!父の最後の頃ですね。まあ、偶然ですね!」
さらに、「失礼ですが、どちらにお住まいですか?」と尋ねると、
「世田谷の下馬です。三軒茶屋からここまで、電車ですぐですから便利ですよ」
「えっ、世田谷の下馬にお住まいですか。私は上馬ですよ!」
そこで、三茶近辺の喫茶店の話に。
「ああ、あそこは良く行っています」「そこは知りませんね。今度教えてください」などと
話は弾みます。
さらにさらに。私がたまたま持っていた本を尋ねられ「これは「人間の運命」という一大巨
編を書かれた、芹沢光治良の「神の慈愛」という本です。91歳で書かれた「神の三部作」
の1冊です。よろしければお貸しします」
と言ったら、「あら!昔、私は父と一緒に芹沢先生にお会いしたことがあるんですよ。その
三部作も読みましたよ」
「それでは、本に出てくるM教授のことも、ご存知ですか?」
「ええ、ご夫婦にお会いしています。お伺いして篠笛の演奏も致しました。」
「私も、M教授とは親しくお付き合いさせていただいたんですよ」
「えっ、そうですか!何という奇遇でしょう」
お互いに驚き、そして大笑いしてきました。
ともかく、毎回、レッスンよりおしゃべり、世間話に夢中になってしまいます。
そんな次第で、来週の発表会はまるで自信なし。

縁はめぐり、また新たな縁が生まれてくるのです。
今日も満員の電車に乗り、青山の事務所へ。
車中はみな黙々としている他人ばかり。
しかし、誰か一人は私の友達の一人で、いつか再会(お互いに初会だが)する運命にあるの
かもしれません。
「秋深し 隣は何を する人ぞ・・・」
隣近所の人も良くわからない、殺伐とした社会。
それでも運命の糸をこちらから手繰り寄せると、面白い不思議な御縁が生まれるような気が
している、2019年の晩秋です。

それでは良い週末を。