今 年 の 漢 字
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今年の漢字は「令」だった。 「きっと、改元がらみだな」と予想していたが、全く単純にその通りだった。 発表者の清水寺の貫主は「お互いが敬い合い、尊び合い、尊敬し合うことが、令の字に込め られていると思う」と感想を述べられたが、苦しい解釈だった。 決定は全国からの投票数第一位で決まるので、貫主に説明責任はないが、令には「良い。立 派な」という意味もあるので、広く国民一般の願望として、言われたのだと思う。 そもそも令という感じは、私は「命ずること、おきて」という意味しか知らなかった。 そもそも令などという親しみのない、冷たい漢字を新元号に使うこと自体、不適切な感じを 持っていたが。 新元号の令和に関連付けた一文字だったら、私は平凡だが「和」のほうを採用して貰いたか った。 ご承知の通り、ラグビーW杯で、日本は7つの国からの選手たちで混成されたチームで戦い、 見事にベスト8進出を果たした。その最大の要因は、各選手が流行語大賞にもなった 「ONE TEAM」を合言葉に、「和」(注・合わせること。仲良くすること)の心でお互いがリ スペクトしあい、連携して戦った成果だったからだ。今年の唯一の希望のある漢字だと思っ た。 また、来年のオリンピック・イヤーも、選手のみならず国民がみんなで「和」を求めて生き ていこうという願望も込められると思った。 本来は、今年の一文字は「災」であったろう。 しかし、去年が「災」だったので、そうはいかない。また、来年以降も災害が多発するだろ う。 もはや災は「今年の」ではなく、「毎年の」になってしまったようだ。 災以外では、私は「嘘・偽・卑劣の卑・隠ぺいの隠(かくすこと)」の4つの字が浮かぶ。 どれもが、政治家や官僚、各界の指導者の「無責任で自己保身、党利党略の行為」から イ メージされた漢字だ。今や、政・官・財界の指導者の常識になってしまったようだ。 また、政権に批判的な発言やニュースを報じたテレビ局に対する「恫喝」も、今年は目に余 った。 一種の言論封圧だが、これは「令」の意味にも通じているのだろうか。来年以降はますます 国家からの命令が露骨になってくるのだろう。それが当たり前の社会になってしまった。 誰も文句を言わない、言えない時代だからだ。みな自分の損得の前に、委縮しているようだ。 話はすこしそれて。 11日にスペインで開かれたCOP25(国連気候変動枠組み条約締約国会議)では、日本 の消極的な温室効果ガス対策のなどに対して、批判発言が相次いだ。そして、日本は何も政 策が打ち出せない硬直的・前近代的な国として、レッドカードの「化石賞」を与えられたそ うだ。 でも、日本代表の小泉環境相は何も具体的な対策を明言できず、各国の失望を招いた。 官邸・与党からの了解が得られなかったから、と言われている。 しかし、以前にもこのエッセイで触れた、スエーデンの環境活動家の少女・グレタ・トウン ベリさん(15)は、「一番危険なのは行動しないことではなく、政治家や企業家たちが、 ほとんど何もしていないのに、ずるがしこい説明と想像力豊かなPRで、行動をしていると 見せかけることだ」と、演説した。 私はすぐに、現在の日本の政治家たちを想起した。 まさに、口だけ、その場しのぎのパフォーマンス、質問のすり替え、虚偽・無責任・隠ぺい 行為を繰り返しているような日本の政治。 さらに官邸の意を忖度し、事実を隠蔽し、ごまかしを図り、官邸に恭順を示すような官庁。 そしてさらに、お手軽で傲慢な政治運営に、何も鋭い批判ができない無力な野党やマスコミ。 そしてさらにさらに、こうした劣化・衰退・荒廃して民主主義が形骸化していく政治や社会 状況に対して、無関心な多くの国民。 もう、日本は自浄作用とか議会制民主主義などと言う言葉は死語と化し、1党独裁的な政治 がまかり通るとこまできた感がある今年。 というぼやきをしながらも、時は流れ、過ぎて、人はみな年を取り、この国も衰退していく のでしょう。だから私は、せめてこの衰退を緩やかな低下に維持しつつ、世界の中位国ぐら いの国力を保持し、「平和と民主主義と非核を国是とし、国や民族の違いを乗り越えた、協 調と思いやりと誠実を重んじる国民性の醸成」を、我が国のプリンシプル(原則)とする、 国民のコンセンサスを得ること。 これを学者・文化人・マスコミが先導して、早急に政治に反映していくことが喫緊の課題、 日本の命運を決する事案だと、確信しているのです。 来年のオリンピック終了後は、日本の国の在り方が、極めて厳しく深刻に問われてくること でしょう。 来年の一文字漢字は「決」に。 「思いきること。覚悟すること」 それでは良い週末を。 |