秋日和の小径を歩きながら(1)
|
私は歩くのが大好き。 特に、気候が爽やかな秋は、ウオーキングに最適。 しかし厳密にいえば、ウオーキングというより散歩、漫歩。 どこそこを到着地として、健康のためにひたすら歩き続ける・・・というのは苦手。気分 のいい並木通りは早足で颯爽と風を切り、興味をそそられるところは立ちどまって周囲の 光景に見入ったり。 それでも、スマホの歩数計の記録を見ると、ほぼ毎日、1万数千歩は歩いています。 今日(9月23日)は、三軒茶屋から世田谷線で「松陰神社」まで行き、世田谷区役所で所 用を済ませた後、松陰神社の街を散策。 テレビで紹介された人気のパン屋で、帰宅後のおやつにアンパンとメロンパンを買い、昼 食はBGMのジャズ音楽が静かに流れる手打ちうどん店で「ぶっかけうどん」を食べ、そ れから松陰神社を参詣。 帰りは電車に乗らず、街裏の小径を辿りながら三軒茶屋に引き返しました。 そして、三茶のシンボル(?)であるキャロットタワーのTSUTAYAに入り、「古関裕而・ 金子―その言葉と人生」(宝島社)と「国家の怠慢」(新潮新書)を買い、向かいのレン タルショップで、DVD映画「海峡」(高倉健・吉永小百合主演)を借りる。それから近 くの喫茶店「コロラド」で珈琲を飲みながら、窓外の風景を眺めていたのです。喫茶店で は本などは読みません。せいぜい新聞の斜め読み。スマホのイヤホンを耳に当て、好きな 音楽を聴きながらぼんやりしているのが至福。 この喫茶店の珈琲は、たいして美味くはないが、変形十字路の一角に位置し、窓から色々 な人が行き交う光景が良く見える、レトロな店なので好きなのです。 この店を出てすぐの「茶沢通り」や「世田谷通り」や「玉川通り」沿いに、あるいは、こ れらの通りに囲まれた通称「三角州」には、昔から小さなスナックや飲食店や小売店がひ しめいています。 私は窓外を行き交う様々な人々、車から荷物を降ろして働いている人や、ヘルパーに支え られながら歩いている人、手を握って歩いている若いカップルなどの姿を眺めながら、 「三茶にひしめく小規模零細な飲み屋やスナックやラーメン屋などの飲食店は、今年の暮 れにかけても経営していけるのだろうか?」と、ふっと思いました。 この三軒茶屋一帯は、昔から「ここで開業して3年、店を維持できたら成功のうち。新規 参入して開業する若者たちが多いが、廃業する店も多い。まあ、3年持てば一人前。東京 でも三茶は競争が激しい場所なんだ」と、あるスナックの年配マスターが言っていたが。 そうした過当競争の激戦地にあって、今年の春からは「新型コロナ禍」に見舞われている。 だから今は、半端でないほどに経営状況が厳しいはず。 時々、昭和の時代そのままの雰囲気がある(あった)三角州を通るが、朝は前夜の喧騒の 余韻など全くなく、カラスが食い散らかした生ごみの袋も散乱するどころか、どこにもな く、ゴーストタウンそのものの殺風景。夜は、何店かが紅い灯をともしているが、人通り は皆無。みなどこに行ってしまったのかと、悄然とするほど。 飲食業をはじめとして、サービス・小売販売業は手っ取り早く日銭が入るが、売れてなん ぼの世界。客が来なければすぐに干上がってしまう(特に家賃という固定経費は重い。売 上げに関係なく毎月口座から引き落とされるから)。 私も、60歳から「酒類小売販売業」の許可を取り、健康酒の通信販売の営業を行いまし た。人生に一度は、商売というものをしてみたかったのです。 初めの3年ぐらいはまあまあの売り上げでした。 しかしその後、徐々に売り上げが鈍化し、月に数本しか売れない時もありました。また、 酒の製造委託料と、材料の仕入れ・加工・搬送等に労力と経費がかかり、会社事務所とし ているマンションの賃借料も馬鹿にならない。そうして資本力が無いので大胆な広告も打 てず、販路拡大の見通しも立たなく、私自身のモチベーションも無くなってきたのです。 そしてある日、委託した会計実務会社から送られてきた月例決算報告書を見ながら、「も うこれで十分。ここらが潮時。次に進もう」と決断。 開業満7年目で商売をやめました。 そして「なるほど、商売というのは当たればすぐにまとまった金が入るが、売れなければ 1円も懐に入らない。たったの100円玉1個でも、客が商品やサービスを買ってくれな かったら得られない。これで家族でも抱えていたら、毎日毎日、家族の生活がどうなるか 心配で、居てもたってもいられず、店頭にずっと立って客の入るのを待ち続けるのかも知 れない。いやはや商売というものは大変だ」と、改めて実感できました(評論家のように、 口であれこれ言う分には楽だが。私が商売を開始した翌年の厚労省のOB会での立食の席 でのこと。現職の頃は殆ど付き合いのなかった年上のOBが、グラスを片手に近寄ってき て、不意に「東井君、会社を立ち上げて商売を始めたんだって?民間はね、頭を下げない と駄目だよ。うん。役所の様なわけにはいかないからね。まあ、頑張って。うん」と勝手 に言って去って行きました。 「この人は民間会社の経験もなく、退職後は、つまらない小さな公益法人の事務局長に天 下りしただけじゃないのか。何を言いたいのか?」と、私は呆れましたが、まあ、こうし たOBが多いのが役所です) 幸いに、会社の経営を通して、企画、商品の製造、販売促進策の検討、パンフやHPの作 成、様々な未知の消費者の獲得、愛飲者からの喜びの便りなどに触れ、大変得難い経験を させて貰いました。 (内心、いま再開すれば絶対に成功する自信がありますが、残念ながらその気力・体力が ありません。勿論、十分な資本も) そんな経験と、厚生労働省時代に初めて係長になった最初の仕事が「中小・零細企業=生 活衛生関係営業(生衛業)対策」だったことから、いま、街に溢れている飲食店などの経 営が、とても気になります。 今度の菅・新総理は、政策としてIT産業の進展とか、携帯電話料金の大幅引き下げとか、 地方活性化のGo to〜 とか、総務大臣時代の得意分野の各論を自信気に話されていますが、 気になるのは小泉政権時の「市場原理主義」「自己責任論」が、彼の政策の基調にあるの ではないかという点が、気になります。そして、日本の将来の新たな姿をどう描いている のか?日本の従来の経済の根幹をなしていた中小企業対策をどう進めるのか?が見えてき ません。 東京の老朽化した街の裏道を歩き、そして三茶の街を眺めていると、零細企業の方々の不 安と怨嗟の呟きが聞こえてくる気がします。 続きは次回にでも。 それでは良い週末を。 |