東井朝仁 随想録
「良い週末を」

ファイト(2)
「2月7日までの緊急事態宣言」の適用期限が、延長された。
ということは、この先も「昼夜を問わず、不要不急の外出等の自粛」が続くということ。
こうした事態になることは充分に想定されていたこと。
「仕方がない」の一言しか出ません。
前回のエッセイでは、我が国の今後の政治的・経済的・社会的な大混乱を深く憂慮しなが
らも、「今までの人生で経験をしたことがない、国からの統制的自粛生活の要請。しかし、
個人的にはそれほど苦にはならない。なぜなら、私の好きな読書・映画・音楽をじっくり
と楽しめるチャンスだと思っているからだ。人生の晩年で与えられた特別な娯楽の期間」
との思いを述べました。
今回はその続きです。

これまでの1か月間の自粛期間では、前述したように3つのSを徹底的に楽しもうと考え、
その通りに実践してきた。
「3密」ではなく、STORY(小説。書籍)、SONG(歌)、SCREEN(映画)の「3S」。本を
読むこと。DVD映画を自室で観ること。音楽をCDやスマホ・サービスで聴いたり、カ
ラオケで歌を歌うこと。
カラオケは近くのカラオケ店・ビッグエコーで、昼食後に「一人カラオケ」。声帯の維持
・強化、有酸素運動に最適で必要。
これらが自粛生活の三本柱。
さらに日常で心がけていることは、これはだいぶ以前から継続していることだが、3食バ
ランスの良い「食事」をとり、外出した時は常に「速歩」で歩き、時と所を選ばずに行う
「深呼吸」、それに質の良い「睡眠」の「4S」。
以前は、これらに「酒」「スポーツ」「サウナ」の3Sが加わっていたが、現在は自粛。

特に酒は脳の老化を早め、認知症のリスクが高いというエビデンス(科学的根拠)が、最
近明確になってきたようだから。
我が国では「ワイン1杯、日本酒1合、ビール中瓶1本、ウイスキーダブル1杯」が、お
およその適正飲量とされている。特に二日に1合飲む人は、それ以外の人との総死亡の相
対リスクが一番低く、酒を飲まない人や大量飲酒者との比較でも、寿命がわずかに長いと
いう有意差があるとされてきた。
だから「適量なら良し。それも、赤ワインならポリフェノールが多く含まれ、動脈硬化・
心疾患や脳卒中予防に良い」とも言われ、私も「タバコは百害あって一利なし。酒は百薬
の長」とばかり、つい最近までは毎日のように晩酌を欠かさず、自粛前までは週に1、2
回は外で仲間と飲んでは駄弁(だべ)っていた。
勿論、酒は美味いから飲んでいるのであって、酒を飲み始めた高校時代から今日まで(コ
ロナ自粛まで)、健康との因果関係など考えずに、酒を楽しんできた。

だが、この自粛生活の中で、これは誰もが避けて通れない「老化」現象の一つだろうが、
「最近、物忘れや人の名前がすぐに出てこないな」ということが気になってきた。
それに加え、本を長時間読んだり人と電話で長話をすると、夕方ぐらいから頭痛がする日
があるので、たまたま近くの内科・心療内科クリニックを受診すると「緊張性頭痛ですね。
ストレスをためず、睡眠をちゃんととり、運動や楽しいことをしていれば治ります。無理
はしないように」とのことで、検査も薬も無し。
それで「これは、脳過労だな。メンタル・ヘルスの面で最近流行のプラス思考や愉快に過
ごすことも重要だが、脳の機能低下はどうなのだろうか?」という疑問が残った。
そして、K氏によるMRI・血液検査・ドリル等の様々な検査を行った「脳ドック」のこ
とを想い出した。

私は数年前に、元・佐久総合病院の副院長だった、脳神経科医のK氏が勤務している軽井
沢病院に行き、K先生が責任者として実施していた脳ドックを受けた。特に頭が痛いとか
脳卒中が心配だとかではなく、「一度は受けてみよう」と前から考えていたからだ。
それに、K先生の脳神経外科医しての豊富な経験と、温厚な性格を信頼したからだ。
結果、「やや脳が委縮(頭蓋骨内の大脳皮質の総量が減少?)しているが、これは加齢に
よるもので年齢相応。気にすることではない。他に異常は無い。適切な生活習慣の励行が、
委縮の進行を抑制する一番の手段」との所見だった。

その時の「脳委縮」の言葉が、現在の私のナイーブな脳裏に浮かんだ。
そこで、本屋で数冊、健康本を買って読んだ中に「脳寿命を延ばす。認知症にならない
18の方法」(荒井・順天堂大学名誉教授、文春文庫)という本があった。
その概要を端的に述べれば。
「身体全体の老化予防なしに脳の老化予防は無い。何よりも大事なのは身体の血管。血管
の年令は脳の寿命に直結する」
「生活習慣病は、どの病気も血管を老化させ、認知症のリスクを高める。糖尿病は最大の
敵。まず生活習慣病を予防し、治すこと」
「バランスの良い食事、有酸素運動、質の良い睡眠、そして意欲を持つこと(楽しいこと
をやる。囲碁・将棋でも旅行でもゴルフでもカラオケでも)が、脳寿命を延ばす」
そして極め付きは「酒は、脳に直接的なダメージを及ぼす神経毒。脳を委縮させる。断酒
がベストだが、節酒なら日本酒1合弱、ビールなら中瓶1本程度に」ということ。

最後の酒の話が、ガツンときました。
だから前述のとおり、従来の重要なS群から酒(sake)を除外した次第。
今は、日本酒を1合弱か、赤ワインをワイングラスに少々の晩酌。
これでも良い気分になるから、加齢も満更悪くないかも知れません。
いつのまにか話が酒に偏ってしまいましたが、前述の3Sを基調にして、また自粛期間の
日々を「ファイト!」の心で健やかに過ごしていきたいもの、と念じている立春の候。
いま大事なのはスピリット(精神)のS。
スピリッツ(蒸留酒)ではありません。

話の続きは次回にでも。
それでは良い週末を。