東井朝仁 随想録
「良い週末を」

旅愁(2)

今までに、初対面の人とか、付き合って日の浅い人と話していて、打ち解けあった会話が
できるようになると、しばしば「好きな季節は、いつですか?」と訊かれることが、多か
った。
「好きな食べ物」「好きな色」「好きなスポーツ」「好きなタレント」等と一緒で、どう
答えてもお互いに気まずくなることはない質問の一種。
私が「小さい頃は秋でしたね。高校時代ごろから60歳頃までずっと春が好きでしたが、
どういうわけか、今はまた秋に戻りましたね。初秋も仲秋も晩秋も、秋はみんな好きです」
と答えると、「そうですか。私はどちらかというと春ですかね。春眠暁を覚えずの気候が
好きなんですよ」と相手(男でも女でも)が微笑む。
「それもいいですね!」と私が答える。
それでお互いに十分満足。
まさか、初対面の魅力的な女性が「そうなんですか。秋の好きな人は性格が暗い人が多い
んですよね。東井さんもそちらのほうですか」とか、「これからお付き合いのほど」とい
って名刺を渡してくれた大手企業の若いサラリーマンが「東井さんは秋ですか・・ちょっ
とガッカリですね」などと白けるようなことは、まずない(だろう)。
こうした他愛のない話をマジにしてしまい、やたら議論する人は、私から見たら変人。
「変」と「恋」とは紙一重。
縁を持たないほうが良いだろう。

「春夏秋冬で、いつが好き?」
「僕は冬。クリスマスがあって、お正月があるから」
「私は春よ。桜やいろんな花が咲いて、ポカポカして気持ちがいいでしょ?」
「僕は、絶対に夏。夏休みが長いし、海に行けるし」
小さい頃は、友達数人でそんな会話をしながら下校していたが、前述のように私は「僕は
秋が好き。ブドウやクリや柿が食べられるし、運動会があるし、空が澄んでるし」などと
答えていた。
正直、食べ物と運動にグー。おはぎと柿が好きなことと、学校で色々な運動行事があった
からだ。
特に運動会での徒競走と紅白リレーでは、1年から6年まで花形だった。
秋以外に選択肢があるとしたら、春しかなかった。
小さい頃から夏や冬は嫌いだった。暑いのと寒いのは辛い。
熱帯夜に、風通しの悪い家の3畳間で兄貴と2人で寝るときの地獄の蒸し暑さ(パンツと
ランニングシャツの下着姿で寝る)と、冬は、一家7人が茶の間で暖をとれるのは一つの
火鉢だけ、という寒い生活が兎も角嫌だった。
蒸し暑さと、しばれる寒さに耐えて生活する毎日は、まさに「不幸」。
私は子供心にそう痛感していたが、当時は他の家も多かれ少なかれ、似たようなものだっ
た。
そして厳しい冬が明けた春や、耐え難い炎暑の夏が過ぎて爽快な秋が来ると、身も心もハ
ッピーになるのだった。

当時と比べて、現在の生活は極楽。
室内なら、まずどこにいても暑さ寒さの苦痛はない。
外を歩いていても、暑さや寒さが辛くなったら、どこかの店舗に飛び込むか地下街に入れ
ば快適。
自宅では自分の部屋で自分の好みの温度に調節して、気分良く過ごせる。
しかし、エアコンを冬や夏にかけっぱなしで寝るなどという贅沢な過ごし方は3年前から
だった。それまで自室には古いエアコンがあったが、音がガーガーとうるさく、温度もな
かなか効かなかった。
そして、冷房は28度・3時間後offに設定し、薄手のパジャマだけで大の字になって寝
てた。冬は羽毛布団の上に毛布を1枚重ねて、それで寝てた。
だが、人生の先行きの「老後のカネ」と「老後の健康」を見計らい、新品に買い換えたの
だ。
それでも、当初は長い年月に培われた「貧乏性」は治らず、「無駄な電気代はカット」の
意識が働いてしまう。
だから近年の猛暑続きの夏になると、テレビのニュースで、アナウンサーや気象予報士は
連日、「熱中症に十分気を付けて、こまめに水分をとってください。クーラーは夜中でも
消さないで寝てください」と訴えているのを聞くと、毎回落ち着かなくなる。
その理由は2つ。
その一つは、「どの家にも、クーラーがあるのが当然」としていること。
そして「エアコンは使いっぱなしにせず、入と切のタイマーを適切に用いて、節電にご協
力ください」から180度方針が変わり、今や「熱中症予防のために、エアコンは23度
~27度ぐらいに設定し、付けっぱなしで寝てください。夜中に切らないでください」と
くる。
それはその通りだろう。
生理機能の低下や感覚の鈍化が進んでいる高齢者が、気が付かないうちに熱中症で危篤状
態になったら大変。温暖化防止のための節電とか電気料金節約とかは言ってられない。

すると。こんなことをボヤいている。
「エアコン1台もない国民は、熱中症になるしかないのかよ・・
購入の困難な申込者には、夏季の無料エアコン・レンタル制度でも政策として実施してい
るのかよ?」
「一方、カードカードと国中が騒ぎまくっているが、そんなに早く日本もカード先進国に
追いつきたいのかよ・・
何がどうメリットになるのか?
スマホだって、今や誰もが持っているのが当然で、無いものは変人か時代遅れのように見
る風潮。
そもそも代議士のじいさんたちの国会・永田町や役所・霞が関の連中が、一番アナログ的
で、AI化も進んでいないらしいじゃないか?民間企業や一般庶民ばかりせっつくなよ。
カード・情報関連企業と、デジタル化関連予算を国から貰っている企業・団体と、従業員
の削減を「新型コロナ対策下の働き方改革」などと証して対面サービス人件費の大幅な削
減を図りたい企業が、ここぞとばかりに焚きつけているのだろうが」

と、ぼやきながら今日の秋空を眺めてみる。
青く澄んで綺麗だ。
透徹なブルーが空いっぱいに広がっている。
今日の20日は満月。
13日の上弦の月は曇天で見えなかった。
14日は右半分の月が清涼なまでに青白く輝いていた。
18日の十三夜は雲がなく、ほぼ満月になった月が冴え冴えと輝いていた。
そして今日の望月。
天気は良好。
先週は「唱歌・旅愁」を聴いたが、今夜は「故郷の空」を聴きながら、サントリー「響」
のオンザロックを飲むとしよう。
そして、せわしなく二階のベランダに出て、満月を愛でることに。

秋。
小さい頃「安芸の宮島」を「秋の宮島」とばかり思っていた。
秋は広島が一番と。
同様に「不繊布」マスクを、「フセンプ」と言っていた。
すぐに「フショクフ」の間違いと気づいたが、こんなことはどうでもいい。
それより、今回の予算バラマキ合戦、消費税値切り合戦の様相を呈している、衆議院議員
選挙が問題だ。
目先の餌(利益)に飛びつく前に、もう一度、ここ数年の日本の政治を振り返り、今そこ
にある日本の存亡がかかる課題に、果たしてどの勢力が果敢に対処できるのか。
選択肢は少ないし、難しい。
しかし、皆が棄権に走れば、日本は必ず1年以内に「政治不信」「社会の無気力化」「社
会の荒廃化」が一気に進むと、私は推察している。

「お月様、、、、!」
月はルナ。ルナとは「月の女神」
昔、タバコのセブンスターが出る前に「ルナ」という新製品が出て、私は吸ってみた。
誰かが「ルナか・・。月を見ていると狂気を覚える奴は、ルナテイックと言うんだが、東
井もそうか?」と。
「いや、タバコはどうでもいいが、ルナは好きでね。女神はいいね」と笑うと、そいつも
頷いて片手をあげて去っていった。
そいつは「ピース」の缶、ピーカン専門だったが、過激派でピースとは縁がなかったよう
だ。

今夜はまん丸のルナに、何か願いをかけてみよう。
この続きは次回にでも。
それではよい週末を。