東井朝仁 随想録
「良い週末を」

エチケット(1) 

最近、何度か若い子(小学生から大学生ぐらいまで)のエチケットの良さに触れ、
「ほう!」と驚かされたことがあった。
エチケットとは「礼儀作法、他人への心遣い」といった意味合いだが、例えばこんなこと
があった。

3日前の月曜日、自転車で自宅から三軒茶屋(三茶)駅近くの蔦屋(TSUTAYA)に行った。
TSUTAYAは書籍・文房具等の販売、及びCD・DVD・コミック本のレンタル・ショップ。
私にとっては三茶周辺地域のヘソ(中心)ともいえるところで、週に1回は利用している
店だ。
このあたりは、平日でも常に人が行き交っているが、特にコロナ禍が始まった一昨年ほど
前からは、驚くほど増えてきた。
若い在宅勤務者や我々団塊の世代の高齢者が地域に溢れてきたのだろう。
私は、自宅から三茶へ向かう時は、しばしば自転車を使う。徒歩では10数分かかるが、
自転車なら5分で行ける。
(歩くほうが健康に良いというが、ウオーキングの時は反対方向の駒沢に向かい、おおよ
そ1万歩ぐらい歩いている)

国道246(玉川通り)沿いの舗道を自転車で緩やかに走るのだが、最近は自転車の数も
コロナ禍前の倍以上に増え、何となく不穏な様相を呈してきた。三茶までの道のりの中間
点あたりまで続く下り坂などは、後ろから電動自転車のママチャリや、軽快なサイクリン
グ車が私の横を物凄いスピードで走り抜けてゆく。道のりの半分を過ぎると三茶の繁華街
が近づき、歩行者もすれ違う自転車の数も増えてくる。
そんな舗道状況の中、大体の対向自転車は、工事中で隘路となった道でも、歩行者の塊と
塊の間でも兎に角、せわしなくポジションを取ってくる。
徐行して歩行者の空きを待つとか、対向の自転車に譲るとかの構えを見せる者は、5人に
1人ほど。ということは私が5回中4回は相手の自転車に譲っているということ。10秒
程度早く行くメリットより、10秒急いで生じる事故のデメリットのほうが、遥かに大き
いと考えるからだ。

それが1昨日は2回、相手の「どうぞ」という謙譲を受け、私が先にすり抜けて走った。
抜ける際に「どうも!」とお礼の言葉を投げると、「いえ・・」という風にこくりとお辞
儀を返したのは、若いスマートな身体つきの男性だった。
帰路の上り坂では、走行先に積み荷が道の半分を占めていた。
そこに先方からサーッと流れるように向かってきた自転車が見えた。積み荷のあたりで交
差する感じだったので、私は自転車を止めようかと先方に視線を向けたら、相手のほうが
早く停車しており「お先にどうぞ」と右手のひらを横に向けていた。
私はそれまでの惰行を生かしてペダルをこぎ、お辞儀をしながら先にすり抜けた。相手は
高校生ほどの女の子だった。

その日は、それだけではなかった。
TSUTAYAのある、商業・オフィス複合の高層ビルの駐輪場でのこと。
ここの駐輪場は常に満杯で、しかも隣との間隔が狭いので、出し入れが大変。私が自転車
を出す際に、隣のチャイルド・シートを前後に着けた大きな電動ママチャリが、私の自転
車にもたれていた。
私は買い物袋を片手に自転車に乗り、後輪から出ようとしたが、隣のハンドルがひっかか
り、どうしてもとれない。
仕方なく一旦降りようと身体を傾けた時、こちらの自転車が倒れ掛かり、私は片足で全体
を支え、片手で隣のハンドルを突き放そうと試みるのだが、どうにもいかない。その間、
おばさんと中年の男性が通り過ぎたが、
「たかだか自転車の出し入れで、何しているんだ?」という顔で通り過ぎる。
だがこちらは気が付かなかったが、その光景を見ていたのであろう20代前半ほどの女性
が駆け寄ってきて、隣のママチャリを引きはがすのに、手を貸してくれた。
お陰でようやくほどけ、自転車を出すことが出来た。
「いやあ、ありがとう。助かった」と苦笑しながらお礼を言ったら、「ここは狭すぎます
よね」と微笑んで、去っていった。

この日の夕食で「最近の若い者は、いい人が多いな・・・」と、妙に感心しながら日本酒
の杯を口に運んでいた。
世の中は暗い重いニュースばかりで、無気力・無関心・無作為・無感動な日本の若者たち。
だから将来の、いや明日の日本は絶望的。
と思っていたのだが・・・。
そう決めつけてはいけないのかも知れない。
私は、久々に気分の良い酒を飲んでいた。

最近、こうした経験が他にもあった。
その話の続きは次回にでも。

それでは良い週末を。