東井朝仁 随想録
「良い週末を」

新春雑感(3) 

前回、今年の日本の最大課題(リスク)は「3S」と述べた。
3Sとは、戦争・災害(震災)・社会(生活)。

「社会(生活)」は、エネルギー事情の悪化などによるスタグフレーション(景気後退と
インフレの共存)か、ハイパーインフレ(過度にモノの値段が上がりすぎる状態。国の財
政悪化やお金の供給量増加などで貨幣価値が下がり、1つのモノを買う金額が極端に上昇)
に陥る懸念。
生活困窮者の増加。治安の悪化。インフラ(道路、鉄道、上下水道、橋、トンネルなど)
の老朽化。高齢者の医療・福祉・介護サービスの需給ひっ迫。国民のスマホ依存症候群に
よる弊害。
そしてこれが最も深刻なリスクだが、これらの社会(生活)事象による国民の無力化・刹
那的な行動。

ちなみに、国際的なコンサルティング会社の「ユーラシア・グループ」が毎年行っている
「今年の世界の10大リスク」から、2023年の上位4つをあげてみると。
「① ならず者国家ロシア②絶対的権力者・習近平③大混乱生成 兵器、④インフレショッ
ク」となっている。

「大混乱生成兵器」とは、「AI(人工知能)を駆使してフェイク動画や画像や文章を作
り、そのフェイク・ニュースをSNSに流して拡散させる、一種の情報攪乱兵器。
例えば「バイデン米大統領は、プーチン大統領の24時間以内の即時暗殺をCIA(中央情
報局)長官に指示」とか、「プーチン大統領、2月24日までにウクライナでの戦術核の
使用を言明」などというフェイク・ニュース(?)が、まことしやかにSNSで飛びかっ
たら、一体どのようなリアクションが世界で起こるのだろうか?

2月1日の読売新聞の1面トップには「スマホ手に議会襲撃/SNS投稿を妄信」という2
つの大きな見出しが出ていた。

この1月8日にブラジルで起きた、群衆約4000人による騒乱事件。一部の暴徒が議会
などに侵入し、ガラスや壁を破壊。
この暴動の発端は、昨年10月の大統領選挙で、左派の候補が現職の大統領に勝利したこ
とにあった。
これに不満を持った前大統領の支持者グループが、SNSの対話アプリで「大統領選に不
正があった」「軍の介入を待とう」との投稿を広げていった。
しかし、今年の1月1日に新大統領が就任。
すると旧大統領支持派は、さらに右翼思想家の「市民が三権の府を占拠し、議員や大臣、
裁判官を入場させなければ、軍を介入することになる」という音声をSNSで拡散。「正
義感」を抱いた熱狂的な人々が破壊行為を起こしてしまった。
逮捕された一人は「新聞やテレビは前大統領の悪口しか言わないので、見る必要がない。
スマホで家族や友人とやり取りすると、みんな同じことを言う。2~3人が同じ情報を送
ってくれれば、信用出来るし、そういう情報は私も別の人と共有する。スマホがあれば世
界で起きていることがだいたいわかる」と断言してはばからない。
SNSなどのデジタル空間で、自分が見たい情報だけに囲まれ、反対意見は見えなくなる
状態を「フイルターバブル」という。
日本も対岸の火事ではない。
インターネットの発展とSNSの普及でもたらされた「情報偏食」が進むと、認知がゆが
み、正常に判断が出来なくなるおそれがある。海外では、社会を分断し、民主主義を脅か
す事態も起きている。

以上の趣旨の記事だった。
2年前の1月に、アメリカのトランプ前大統領を支持する熱狂的な共和党の人達が、同じ
ように「大統領選は不正」という「妄信」で、米連邦議会を占拠した事件と全く同様。
スマホの世界的普及とあいまって、今年はSNSを武器とした情報攪乱事件が、世界中で
多発することだろう。
自分の意見に反対する者は敵。「いいね、その通り!」と言ったものは味方。数が多いほ
うが勝ち。少ないほうは葬られる。
意見が異なる人は敵で、対話などは無し。
社会の分断化と、自国・自分達第一の偏狭なナショナリズムが台頭する時代になってきた。

世界の10大リスクと、私の予感する日本の3Sとは、①ロシアと②中国が「戦争」と、
③大混乱生成兵器と④インフレショックが「社会(生活)」と重なる。

「災害」は、今や世界共通のリスクとなっているが、特に「地震」という自然災害は日本
特有の巨大なリスク。
1923年(大正12年)に起こった関東大震災から、今年で100年。
その間、1995年(平成7年)の阪神・淡路大震災や、2011年(平成23年)の東
日本大震災などの大規模地震が起きている。
最近でも、熊本地震(2016年)、大阪北部地震(2018年)北海道胆振東部地震
(2018年)、福島県沖地震(2021年、2022年)のように、死者が出る地震が
頻発している。
いつどこで起こるか、全く予断を許さない状況。
国を守るための軍備増強を5年間かかって整備する前に、首都圏や関西圏で大震災が発生
したら、瞬時にして日本は自滅してしまう。そのための強靭な万全の備えが喫緊の課題で
あることは言うまでもない(余談だが、東日本大震災が起こった時、ある国の一部のマス
コミから『日本、おめでとうございます!』というニュースが流れたそうだ。反日の人に
は、日本自滅という痛快な出来事だったのだろう)

10年ほど前に「今後30年以内にマグニチュード7の首都圏直下地震が起きる確率は、
約70%」と国の機関が予測していた。
また、神奈川県西部から鹿児島県にかけての「南海トラフ地震」は、「マグニチュード8
~9クラスの地震が、30年以内に約70~80%の確率で発生」と予測されている。
まだ起きない現在も、予測は変わっていないようだ(私は30年が約20年に縮まったの
で、「確率は20年以内に約70%」と予測するのかと、単純に考えているのだが。そも
そも30年以内という長いスパンの設定がわからないが)
種々の地震研究者や予知機関の予測では「いつ起こってもおかしくはない」というコメン
トが、たびたび週刊誌などで報道されており、最近は小刻みな地震が起きるたびに、
SNSで色々な情報が飛び交っているようだ。予報・予測は難しいだろうが、「いつ起こ
っても」などという表現は曖昧過ぎる。それは「いつか」のことだから、明日起こっても、
1年後に起こっても、30年後に起こってもそれは「いつ」の日にあたるのだから、当た
り前。
いずれにしろ今年は関東大震災から100年目の節目の年だし、今一度「もしも」への備
えを万全にしておきたいものだ。

近・現代の日本の歴史をたどると「第1次世界大戦(大正3年)→戦後恐慌(大正9年)
→関東大震災(大正12年)→昭和恐慌(昭和5年)→満州事変(昭和6年)→5・15
事件(昭和7年)、2・26事件(昭和11年)→日中全面戦争(昭和12年~20年)
→英米を敵に回した日独伊三国同盟(昭和15年)→太平洋戦争・第二次世界大戦(昭和
16年~20年)」というように、地震災害・経済恐慌・クーデター・戦争という出来事
が複合的に連鎖して、時代が流れてきた。
それは何となく、日本の宿命的な輪廻と思えてならない昨今。

「戦争」とは、具体的には日本と近隣諸国(地理的・国際政治的には中国・ロシア・北朝
鮮)との二国間戦争。
さらに、現在も進行中のロシアによるウクライナ侵略戦争のエスカレートや、今後予測さ
れる中国の台湾侵攻によって、「米国・日本・その同盟国」と「中国・ロシア・北朝鮮な
どの専制主義国」が対立し、第3次世界大戦が勃発する恐れも十分にある。
現況では、近隣国との2国間戦争より、日米安全保障条約に基づく同盟国として、先の日
米安保3文書の改訂により「敵基地攻撃能力・反撃能力の保有」を明確にした日本は、
「矛(攻撃)」の役割を担って参戦する事態になるだろう。
それが第三次世界大戦に発展するということが、リアルに想定できる。
それはいつか?
中国の習近平・国家主席が第3期の任期満了になる2027年頃という評論家の予測もあ
るが、私は「頃」ではなく「まで」だと思う。
去年の5月、米国の統合参謀本部議長は「中国軍は2027年までに台湾侵攻に必要な能
力を整えようとしている」と警告。
しかし米軍の資料では、「米国のインド太平洋軍」の現有軍事力に対し、すでに中国軍は
主力戦闘機・水上戦闘艦艇・潜水艦は米国の5~6倍に達し、ミサイル戦力ではさらに大
きく引き離している。台湾を武力統一するのに足りないのは、上陸作戦を成功させる能力
といわれており、これも間もなく米国のそれを凌駕する軍拡を進めているとのこと。
その完成が2027年とのこと。
だが、現状は刻々と進行している。

例えば2月1日の産経新聞の朝刊1面を読むと。
「沖縄県石垣市が1月30日に実施した尖閣諸島の現地調査において、待ち構えていた中
国公船と日本の海上保安庁の巡視船が対峙。海保の巡視船は、調査船の左右にそれぞれ2
隻と後方に1隻でガード。執拗な中国公船の接近を退け、ドローンを使った初の調査が長
い緊張の時間の中で行われた。
だが、懸念された中国側の妨害電波でドローンが落とされることもなく、調査は無事成功
した。
中国公船が尖閣周辺の接続水域で確認された日数は、昨年1年間で336日に上り、年々
エスカレートしている」
沖縄・尖閣諸島海域での中国公船と海上保安庁の巡視船が、いつ衝突して戦闘になるか、
極めて際どい状況が続いている。
戦争は、こうした現場での戦闘が原因で悲惨な大戦争に至ることが、歴史をみても明らか
だ。
双方とも、よほど国の統制が取れていないと、現場のハプニングが大事になってしまう。
あるいは国の謀略で戦闘を行う場合もある。

ロシアのウクライナ侵攻しかり。
日本では、1931年に中国大陸の奉天で、日露講和条約(日露戦争で辛勝した日本が、
ロシアから引き継いだ権利)に基づいて管理していた南満州鉄道の線路が爆破された事件。
日本の関東軍は、これを中国軍の仕業とし、直ちに中国軍を攻撃し、満州事変(戦争)が
起こった。
後に、これは中国大陸進出の野望を抱いていた関東軍の自作自演の謀略だったことが明ら
かになり、政府は閣議で「事件の不拡大」を決定したが、関東軍はこれを無視。戦争拡大
に突き進んだ。

話を戻して。
中国の台湾侵攻は、日本に対する宣戦布告ともなり得る。
日本は日米同盟からして無関心ではいられず、戦争当事者になる。
習近平主席の任期は2027年まで。
前例のない4期目を狙うだろう習主席は、それまでに「台湾の統一」に出るのではなかろ
うか。
一般的な予測では「2027年頃」としているが、私は、米国の大統領選挙がある
2024年11月前後ではないかとも思っている。
国民の分断化が進むアメリカ。国内が混迷している状況での大統領選挙戦は、1年以上前
から続くのだ。
この間、外交や内政において議会をまとめて事に当たれる余裕が、ホワイトハウスにはな
いと思う。
この時期が狙われやすいという思いを、払しょくできない。
何事も時機の予測は早めのほうが良い、というのが私の考え。

かってな新春の予測をしましたが、話の続きは次回にでも。
それでは良い週末を。