東井朝仁 随想録
「良い週末を」

大谷選手とドジャース(1)

「SHO撃 ドジャース・大谷翔平、MLBオープン戦初出場で新天地1号!」
2月28日の朝8時。私がパソコンを開くとヤフーニュースのサイトに、やはり大谷選手
のニュースが載っていた。
ご存じのように「SHO撃」は翔平の翔(しょう)をモジったもの。
1号だけだと何のことだかわからない人もいるだろうが、勿論、これは大谷選手がMLB
(米大リーグ)のエンジェルスからドジャースに移籍後、ホワイトソックスとのオープン
戦に、ドジャースの2番指名打者で初出場した公の試合での、第1号ホームランのこと。
昨年9月に右わき腹を痛めたアスレチック戦以降、177日ぶりとなる実戦での離れ業
(わざ)だった。

私は8時の朝食を終えてから、テレビをつけた。
何チャンネルだったか、ちょうどタイミングよく大谷選手の動画が流れていた。
2打席凡退の後の3打席目。追い込まれた第6球目。
左打者の大谷選手は内角の直球をフルスイングしたが、打球は右ではなく左に。
一瞬、差し込まれて当たり損ねのレフト・フライに終わったかと見えた。
一塁に向かう大谷選手も無表情だった。
だが、ここからが大谷選手の打球の凄さで、ボールは左中間に上がったあと、高々と伸び
て、ゆっくりと左翼スタンドに入ったのだ。
他のバッターだと浅い凡フライに終わっていただろう。
今年は二刀流をやめ、打者に専念してトレーニングを積んだ大谷選手の、まさにSHOタ
イムの始まりだった。
久々に見る大谷選手のホームラン。
これは爽快だった。

明るいニュースが無い今の日本で、大谷選手は日本中の唯一最大の希望の星。例えオープ
ン戦といえども、彼の打者としての元気な姿を少しでも見たい国民は多い。
私は28日の新聞朝刊のテレビ欄を見た。
各局の大谷選手の見出しがある番組を、チェックしてみたのだ。
やはりだった。

一例でテレビ朝日の欄を見ると。
① 4時55分~「グッド!モーニング」で『超速報!大谷初オープン戦』
② 8時~「羽島モーニングショー」で『超速報!!大谷翔平初陣ドジャースで初本塁打な
  るか!?』
③ 10時25分~「木下容子ワイド!スクランブル」で『初出場大谷翔平が オープン戦
  ドジャースデビューへ』
④ 午後4時48分~「Jチャンネル」で『大谷オープン戦初出場 新天地いきなり快音?』
⑤ 午後9時54分~「報道ステーション」で『日米大注目!大谷翔平ドジャースデビュー
  戦 松下大輔が現地解説!』

同様に、日本テレビは4番組、TBSは5番組、フジテレビは4番組。
NHKは、5時からの「おはよう日本」と午後9時からの「ニュースウオッチ9」の2番
組で『大谷オープン戦出場!』『大谷今季初の実戦へ』とあったが、勿論、昼の「N」マ
ークや夕方の「ニュース7」でも、見出しにはないが、放送しただろう。
みな、「!」のビックリマーク付きで、ワイドショーのトップ見出しになっていた。「!」
は、まさに大谷のバットの本数より多かったのでは。
まだオープン戦が始まったばかりだというのに、2月28日は朝から晩まで、テレビは
「SHO(翔)タイム」一色だった。

新聞も同様に、この日の各紙夕刊の一面には「新天地でもショー開幕 大谷オープン戦で本
塁打」(朝日)、「ドジャース大谷 第1号 右肘手術以降 初の実戦」(東京)などの見出
しが躍り、2点本塁打を放った瞬間の力強い写真が掲載されていた。
さらに夕刊紙「日刊ゲンダイ」では、『大谷 驚弾 ドジャース1号 あれが入るのか!
177日ぶりの実戦復帰でいきなり魅せた』と表裏ページ全面で大特集。
このように、今年もマスコミ各社は明けても暮れてもSHO(翔・ショー)タイムを報道
し続けるだろう。
誰もが言う「つまらなくなったテレビ」の視聴率は低下を続け、各局とも経営は厳しい。
だから制作経費を切り詰め、少しまともで視聴率の良かった番組も、経費がかかるから番
組改編で打ち切られ、さらにテレビはチープでつまらない番組ばかりになってしまうとい
う悪循環に陥っているのではなかろうか。
新聞各社も購読者数が低減し続け、もうすぐ新聞事業を廃止するところも出てくるのだろ
う。そしてあとはIT(コンピューターとネットワークによる情報伝達)事業を加速させ
ていくのだろう。
それまでは新聞紙面の多くを、これまたチープな商品広告で埋め、手間暇と経費が掛かる
部門を縮小しながら、薄味の報道を続けていくのではなかろうか。

そうしたマスコミにとって、現在、視聴者や購読者を確保するための超最大のネタ(商品)
が、大谷選手に関するニュース。
だからプレイのなかったシーズン・オフも、大谷選手に関することだったらどんな些細な
ことでも、例えば大谷選手の愛犬一匹のことでも、さも特ダネのように大谷選手と愛犬の
たわむれを報道している。国民もこれに即応し、スマホを手に「#デコピン(注・愛犬の
名前)も大谷選手も可愛い!」とはしゃぐのだろうが。
でも、そうした気持ちはよくわかる。
人間は、つまらない辛い環境に置かれていても、ほんのちょっとした嬉しさや楽しさや期
待があれば、前に進んでいく勇気が湧いてくるのだろうから。
今の日本社会は「神様・仏様・大谷様」の状況なのだ。

「大谷選手がコケたら(注・私はデッドボールなどによる怪我、アクシデントが怖い)今
年の日本の個人消費も幸福指数もガタ落ちする」などと言えば大袈裟かもしれないが、ド
ジャースの大谷選手には過大なプレッシャーがかかっている。だから是非、新たなチーム
でつつがなく頑張ってほしいもの。
その願いはさらに、30チームあるMLBのなかから、FAによる移籍先として「ドジャ
ース」を選んだ彼の決意が、容易に想像できるからなのだ。

この話の続きは、次回にでも。
それでは良い週末を。