白い春(2)
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前回に続いて、日々斜め読みする朝日新聞のニュースから、印象に残った記事について述 べてみます。 〇4月10日(水) →朝日新聞の朝刊、第一社会面のほぼ全面は、私が前回のエッセイで触れた、国が沖縄 県知事の権限を奪う代執行によって進められている沖縄県の辺野古基地建設について。 芥川賞作家・池澤夏樹氏が現地調査を踏まえて、率直に本音を述べている。 大見出しは「辺野古工事 誰に利が」「完成に12年・1兆円。もっと増えるのでは」 「弱者に負担押しつけ平然 みっともない」とある。 池澤氏は「完成まで12年かかるというが、軟弱地盤対策の難工事によって、工期はさら に遅れるかもしれない。総工費は当初の3500億円ほどから1兆円近くになった。もっ と膨らむのではないか。 完成の頃には、今工事を進めている政治家や官僚は引退し、誰も責任を取ることはない。 そもそも完成するかも疑わしい。 儲かる人は少なくともいる。工事を請け負う大手ゼネコンやマリコン(海洋土木会社)に は、カネが入る。巡り巡って利を得る人がいる」 「私は1994年から約10年間沖縄に住んだ。帰りそびれた観光客であり、勝手に『勝 手に特派員』になって、本土の人達が知らない沖縄を伝えてきた。沖縄が可哀そうだから でも、沖縄のためでもない。弱者に負担を押しつけて、強者が利を得て、平然としている。 そんな日本という国が、みっともないからです」 強者とは、与党政治家や関係利得者だけではなく、相対的には沖縄県以外の「我々には関 係ない」と、見て見ぬふりしている46都道府県の政治家も国民も含まれるだろう。そう した、戦後ずっと続いている沖縄県民の不安と苦難の解決策を日本全体で議論するどころ か、今や「沖縄は地政学的に対中・対北朝鮮等の侵略から日本を防衛するための最重要軍 事拠点。米軍基地の強化、核ミサイルの配備も喫緊の課題」と言ってはばからない日本社 会の風潮を、私は懸念する。 政府は「沖縄県民の負担を軽減するため、十分な予算措置を講じたい」と言い、沖縄県以 外の一般国民は、基本的に自分達には関係ないから関心もないが「沖縄には国から色々と 特例措置でカネが流れている。某国の手先のように反対ばかり言って、中国の台湾侵攻・ 東アジア海洋進出に利するような言動は、日本の防衛上いかがなものか」「今や世界は独 裁国陣営と自由主義国陣営との戦争初期にあるのだ」などと、評論家的なことを言う者も、 少なくない。あるいは「沖縄本島北部地域の振興になる」と、辺野古移設のメリットを語 る人もいる。 だがそれらは、結局「自分に損害はない」よそ者の理屈。 現に沖縄県民の民意は「普天間基地も辺野古移設も反対」なのだ。「日本の防衛は大切だ が、その負担をこれ以上、沖縄だけに負わすことは許されない。沖縄の経済振興は重要な 課題だが、それを基地関係の経済に頼るのではなく、他の方法で振興を図るべき」という 意見が多数(注・県知事がその象徴)となっているのだ。 それ以前の現実的問題として、私は池澤氏が指摘するように、これから10年以上(注・ 普天間基地の返還が30年代半ばの予定)の歳月と1兆円の巨費をかけて、辺野古基地が 10年余後に完成して機能する日が来ると、現政権・与党は本当に考えているのだろうか? ともかく米国に全てを頼らざるを得ない手前、現政権としてはしゃにむに進むしかないの だろうが。 現在の世界情勢は、一朝有事。 いつどこで何が起こってもおかしくはない、緊迫した状況にある。 せめて20年ほど前の時代だったら、少しは違っていただろうか。 今から35年前の1989年末(昭和の終わり)に、東西ドイツが統一し、12月に米ソ 首脳が「マルタ島会談」で東西冷戦の終結が宣言された。そして世界は第二次世界大戦後 にようやく訪れた平穏な時代らしきものになっていた。 あの当時、例えば2000年の日本の名目GDP(国内総生産)は米国に次ぐ世界第2位 で、中国は6位だった。それが2010年には中国に追い抜かれて第3位に(1968年 以来の2位の座から陥落)。そして2023年にはドイツに抜かれて第4位になった。 世界の経済力は、中国が台頭して米国に数年で追いつくという予想だが、日本は停滞した まま。まさに「空白の20年、そして失われた30年」が続いてきた。 (注・これらの言葉は、バブル経済が崩壊した1990年代初頭・平成2~3年以降、日 本経済が停滞していた期間のこと。まだ失われた30年は続いている) 世界情勢は激変している。 そんな中、10年以上もの期間と1兆円以上の予算を使って、悠長に移設工事を進めるこ とが、果たして現実的な防衛方策だろうか。 例えば私が、仮想敵国の元首だったら、完成が近くなった頃合いを見計らってミサイルを 撃ち込むだろうが。日米が共同して軍事基地を移設し、軍備をそこに拡充していく行為を みすみす傍観しているはずがないことは、中学生でもわかることだろうが。 これらは全て、米国と国内の一部の者の「ために」するだけの工事と思えてならないが。 防衛力整備という、一国の存亡にかかわる国政とは異なるが、先の東京オリンピックも、 新型コロナのパンデミック対策で国内外が懸命になっている状況にもかかわらず、関係者 は、会場確保・建設等にすったもんだしながら、多額の予算を投下して強引に開催を強行 してしまった。 都知事やオリンピック担当大臣などは「こうした状況でもしっかりと開催することが、世 界を勇気づけ、その精神とオリンピック会場の建物が後世へのレガシーとなる」などと、 政治家一流の空疎な理屈付で開催の意義を喧伝していたが、4年経った今こそ「レガシー」 とやらの内容を厳しく点検していかないといけないが、やはり総括などせずに「やりっぱ なし」となるのだろう。 10日(水)の同新聞では「小池氏に乗るか 思惑交錯」との見出しも。 東京都の衆議院第15区の補欠選挙で、候補者を立てずに「不戦敗」を選んだ自民党が、 小池東京都知事が推す候補を推薦して相乗りするかどうか、意見が交錯しているという内 容。 今夏の都知事選を控えた小池知事が、自民党との連携を図るために自民党都連会長・荻生 田氏に推薦を依頼したことから混乱が生じたのだが、結果、当の候補者も自民党も、「推 薦を辞退」。 こうした自民党の支持率が低下するなど、政局や世情が不安定な情況になると、小池百合 子氏の名前が出てくる。 私は、この日に発売された「文藝春秋5月号」を購読した。 目的は、「小池百合子都知事の元側近、爆弾告発」と題する特集記事。副題は「私は学歴 詐称工作に加担してしまった」。 著者は、小島敏郎氏。元環境省地球環境審議官で、都議会の党派「都民ファースト」の元 事務総長。弁護士でもある。 氏が環境省時代に、環境大臣だった小池氏と「クールビズ」の政策を共に推進した関係か ら続いてきた。だが、小池氏の「国立カイロ大学卒業」という経歴詐称問題が出た時に、 困り果てた彼女の相談に乗り「カイロ大学に依頼して、卒業証明して貰えばいいだけの話。 証明書が届くまでの間、カイロ大学から卒業したことを明言する声明文をメールで送信し て貰えばいい」と助言。 すると、たった2日後に駐日エジプト大使館のフェイスブックに「声明:カイロ大学」と 題した短い文章が掲載され、その中でコイケユリコ氏が卒業したことを証明する」と記さ れてあった。 小島氏は、6日夕方の助言から9日には大使館のフェイスブックに掲載されているという、 依頼文書の作成やカイロ大学内の決裁やエジプトとのメールの送受信などがありながら、 余りにも早い手回しの良さと、不自然なことが多々あり、小島氏はその後、もしかしたら 「学歴詐称」は本当の事で、自分は疑惑の「隠ぺい工作」に手を貸してしまったのではな いか、という自責の念に苛まれてきた。 だが、その謎が解けたのだ。 偽証のカイロ大学声明は、小島氏が発案したものを小島氏と旧知の間柄で小池氏のブレー ンのジャーナリスト・A氏が書いたものだったことを、小島氏はA氏より知らされたのだ。 また、「カイロで共に暮らした友への手紙」との主題と「百合子さん、あなたが落第して 大学を去ったことを私は知っている」との副題で、当時、小池氏と留学生活を共にした友 人の手記も掲載されている。 「貴方の書いた本『振り袖、ピラミッドを登る』には、カイロ大学首席卒業とありました。 本文では留年したと書いているのに、著者紹介では1972年入学で1976年卒業と、 なぜか4年間で終えたことになっていました。(略) なぜそんなに学歴にこだわったのでしょうか。中卒でも高卒でもいいじゃないですか。大 切なのは、政治家として何を成すかです。 でも、難関大学を卒業したといいたいのなら、きちんと勉強して卒業しなければいけませ ん。出てもいない大学を「卒業した」と言ってはいけない。 どうかこれ以上、罪(注・学歴詐称)を重ねないで欲しい。 政治家として働き続けるので あれば、そして、また選挙に出るのであれば、本当の経歴で勝負をして下さい。 これが百合子さんへの、私からの最後のお願いです」 今も「政治とカネ」「自民党の裏金問題」が国会の大きな議論になっており、自民党は 39名の議員の処分を発表した。 問題は、黙って貰って「政治資金収支報告書」に記載しないで黙って処理してしまう 「裏金」が、脱税行為とみなされて国民の批判を浴びたから。「政治資金規正法」に抵触 しないから、「会計責任者が事務的ミスをしたので、すぐに訂正申請した」とか言って、 党内の自主処分で済ませているが。 「学歴詐称」は詐欺罪や私文書偽造罪に問われる。 あるいは軽犯罪法に抵触する「犯罪行為」なのだ。 私は、今回の文藝春秋の記事は、告発者の勇気を称えて余りある、真実の報道と思った。 権力やスポンサーに忖度して迎合しているだけの日本のマスコミの中で、久々の「文春砲」 だと感心した。 日々の新聞や雑誌を読んでいると、現在の日本の政治リーダーにも、議論をしないで歳費 だけもらってのうのうとしている大勢の「カネさえ自分さえ今さえ良ければ」の議員たち にも、ほとほと愛想が尽きてくる。 〇4月11日(木) →新聞の1面の見出しは「日米『指揮統制』を連携」「同盟強化 首脳会談合意へ」 訪米中の岸田首相とバイデン大統領の会談後の、共同声明の内容が載っている。その主な 内容は。 ① 日米関係をインド太平洋地域を越えた「グローバルなパートナーシップ」と位置づける。 ② 有事に備えて、自衛隊と米軍の指揮統制の枠組みを向上させる。 ③ 米英豪の安全保障協力の枠組み(AUKUS)と日本との協力を検討する。 ④ 日米防衛産業の連携 米国高官が、1960年の日米安保条約改定以来の『日米同盟の最大の変化の一つ』と指 摘したように、平時・有事を問わずに、日本の自衛隊と米軍の指揮統制を連携し、作戦と 軍事力の日米「統合」を図ることが最大の眼目。 自衛隊は来年度に巡航ミサイル「トマホーク」などを導入し、米陸軍もアジア太平洋地域 に中長距離ミサイルを新たに配備する予定。 これまで日米は「基地の共同使用」→「集団的自衛権の行使容認」→そして2020年の 国家安全保障戦略の改定で、米国が他国への打撃力の「矛」を担い、自衛隊が日本防衛の 「盾」に徹するという方針を転換。日本も敵基地攻撃能力を持ち、「矛」も担うことにな り、今回はまさに有事における両国の臨戦態勢の整備段階に来たようだ、 新聞の解説では「進む一体化、強める対中国」とある。 ここにきて岸田政権は、しゃにむにバイデン大統領(米国)に寄り添い、忠実な部下の振 る舞いに徹してきた印象が強い。 頭の中は「もしトラ」(注・この秋の選挙で、もしトランプ大統領が誕生したら、日本の 防衛から米国は引き揚げていくかもという)予測) 全方位平和外交より、米国との運命体に徹しているのだろう。中国・ロシア・イラン・北 朝鮮等々の国との対話は、遠のくばかりのようだ。 いずれにしろ、国会でもっと議論し、国民の賛否を問うべき重要な政治的課題が多い中、 政権内の議論もあまり聞こえてこず、一人岸田首相が飛び回って、これに官僚がおぜん立 てして決めてきてしまう手法がまかり通ているようだ。 私にはこうした現状は「無気力な政権内部と国会を良いことに、議会制民主主義などは看 板だけで、実態は既に岸田首相の独裁政治となっている」と思わざるを得ない。 岸田首相は、例え支持率が20%台を割ろうが、野党に吊るしあげられようが、「馬耳東 風」に徹して辞職しないのではなかろうか。彼は「支持率など、周囲を気にしていては駄 目だ。世論はすぐに変わる。政治家として大切なのは、たとえ支持率が10%になろうが 嫌われようが、自分が国のためにと確信した政策をやり遂げることだ」という考えの持ち 主だと思う。 この人に退陣してもらうとしたら「選挙」しかないだろう。 それまでに駆け込み的に、憲法の解釈改定であれこれやられたら、もはや日本は取り返し がつかない状況になってしまう。 そんなことを、夕方の灰白色の空を眺めながら考えている、4月18日の木曜日なのです。 この話の続きは、次回にでも。 それでは良い週末を。 |