東井朝仁 随想録
「良い週末を」

白い春(4)
今日は5月1日(水)。
労働者の祭典・メーデー。そして「夏も近づく」八十八夜。
天気は生憎の五月雨。

しかし、現在は昔と違って「メーデー」といっても各産業の労働組合員が代々木公園に集
結し、中央大会後に各方面に長蛇の列を作ってデモ行進を行うことなどは無いのだろうか。
と思いながら、今(午後12時5分)テレビをつけてNHKのニュースを見ていたら、
代々木会場で1万2千名ほどが集まって中央集会が開催されていた。主催は「全労連」と
のこと。
ネットで調べると、もう一つの労働組合の全国組織である「連合」も代々木公園で開催予
定だった。
全労連は日本共産党系、連合は立憲民主党・国民民主党系とのことだが、昔は殆ど「総評」
一本だった。それがだいぶ前に分裂しているのだ。
どの世界も分裂はつきものか。

ちなみに、今から48年前の1976年の私の手帳を開くと、5月1日(火)の欄に
「メーデー 原宿・陸橋」と記してあった。
私が28歳で、結婚後2年目のこと。
この陸橋とは何だろう。代々木公園のJR・原宿駅から出たすぐにある「五輪橋」のこと
で、その橋のたもとを厚生省の労働組合の集合場所としていたのだろうか。それともゴー
ルの新橋の土橋のことだっただろうか。今では定かではない。
いずれにしろ、当時のデモ行進のコースは「代々木公園→表参道→青山通り→赤坂見附→
外堀通り→虎ノ門→新橋(土橋)解散」だった。
結構長い距離だったが、交通規制がされた広い道路のほぼ半分を使い、それも薫風そよぐ
五月晴れの天気の下の行進は、私にとって「爽快な都会のハイキング」だった(一回も雨
に降られた経験はなかった)
私はしばしば(といっても数回だが)厚生省労組のデモ行進を先導する本部の街宣車の傍
らで、ワイアレス・マイクを片手に、シュプレヒコールを上げたり合唱のリードをして行
進していた。
それは、厚生省本省の狭い職場の中に日夜埋没している者には、絶対に味わえない、壮烈
な「爽快感」に満ちたものだった。

ただし私は、当時では他の多くの労組が行っていた「アメリカは日本から出ていけ!」と
か「安保粉砕!」とか「〇〇内閣打倒!」といった政治的な常套句は発しなかった。
それより賃上げ(人事院勧告でのアップ)・昇給間格差の是正・恒常的長時間残業の廃止
・定員削減反対など、国家公務員の職場環境と労働条件の改善要求をもっぱらとした。
あとは新橋に到着するまで、全く途切れることもなく合唱を繰り返し、声を張り上げてい
た。
皆で合唱する「労働歌」も、「インターナショナル」とか「がんばろう」とかより、青春
歌謡やフォークソングである「いつでも夢を」とか「若者たち」とか「今日の日はさよう
なら」などを臆面もなく織り交ぜて歌っていた。
他の労組も舗道の人達も驚いただろうし、旧弊の組合幹部などは「真面目にやれ」と苛立
った人もいたかもしれない。
しかし、そんなことは知ったものではない。
こちらは必死に全精力を傾注してリードしているのだ。
労働者の祭典なのだから他への連帯意識さえ阻害しなければいいのだ。厚生省労組の隊列
にはメーデーに初めて参加した人や、非組合員も参加していた。こうした若者も一緒に歌
える歌をみんなで歌うこと。皆で明るく和気あいあいと行進すること。それによって今後
の仲間意識が醸成されるし、ひいては組合活動も前進する。
私はそう確信していた。

私が唯一好きな労働歌で、メーデーで好んでリードして歌った歌がある。それは「世界を
つなげ花の輪に」という、第2次世界大戦後の1947年に発表された歌。この歌は昭和の
時代の歌声喫茶などでも良く歌われたメーデー歌だった。
「♩太陽は呼ぶ 地は叫ぶ
  起てたくましい 労働者
  働く者の 赤い血で 世界をつなげ花の輪に・・・」

五月晴れの下でのメーデーにピッタリの行進曲。私は意識的に代々木公園を出発する時と、
新橋への最終コースに入った時の2回、この歌をリードして歌った。
そして、テンションが最高潮に上がって到着。全員で締めの拍手をし、額の汗を拭いなが
ら、多くの仲間と連れ立って新橋や有楽町のビヤ・ガーデンに繰り出していた。
そうしたことが私のメーデーだったが、今はどうなのだろう。
そもそも厚生労働省の組合は、たしかだいぶ以前に「解散」してしまったそうだが・・・。

現在(午後2時半)も雨が降り続いている。
今頃、まだどこかにメーデーの行進を行っている団体がいるのだろうか。
先ほどテレビをつけたら、「アメリカのコロンビア大学で、イスラエルによるガザ地区へ
の侵攻・殺戮行為に反対して建物の一部を占拠している学生を、先ほど警察が突入し、数
十名の学生を拘束した」というニュースが流れていた。
こうした抗議行動が今、全米に広がっているとのこと。
日本では、そうした市民や学生や労働者等による「意思表示」の行動は、近年全く見かけ
ないしニュースもない。
労働者が団結し、非暴力で粘り強い交渉で自分たちの労働条件の改善を図る行為など、タ
ブーになっているのだろうか。「やりたい人がやれば良いが、私は興味ない」という者が
多いのか。
学生もしかり。市民もしかり。
現在の日本の労働組合の組織率は、16.3%(企業労働者数約6100万人中の組合員数
990万人)と、過去最低。
ちなみに前述したメーデーの頃、1975年の調査では34%だったが、それ以降、下降
の一途を辿っているようだ。
これでは、給料も上がらないし、サービス残業も無くならないし、男女格差など全ての格
差は改善されていかないのではなかろうか。
私がこんな心配をしても、屁のツッパリにもならないだろうが。
情けない・・。

悲しくてやりきれないのは、ロシアとウクライナ、イスラエルとハマスの長期化している
悲惨な戦争。
今、私がメーデーのリーダーだったら、労働者のみならず、広く国民・学生にも参加を訴
え、メーデーに「反戦・非核」の声を総結集して一大デモ行進をしたいと思う。そんなこ
とは絵空事だろうが。

今日から5月。
暦の上では、まだ晩春。
春は青春、夏は朱(赤)夏、秋は白秋、冬は玄(黒)冬。
しかし、今やその季節の色分けも曖昧になっている。
例えれば、今年は「白い春」と感じる。
何となく印象の残らない、無感動な春。
だから無色と表現したいところだが。
でも。
光の三原色は「赤・青・緑」
光は混ぜると明るくなる(加色混合)
全部混ぜると白になる。
すると、この5月は春の青い光に夏の赤い光が混じり、そこに新緑の光が射しこんで白く
輝いて見えるかもしれない。
そうだ。今年の5月は明度が高い「白い春」を楽しもう。
国民の心も明るくなるかも知れない。
期待したい明るい5月。
そんなことを考えながら、小雨になってきた灰白色の空を眺めてみるのです。

それでは良い週末を。