保護司(1)
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今週の7月1日(月)から「社会を明るくする運動」が日本全国で始まった。 この運動とは「すべての国民が、犯罪や非行の防止と、罪を犯した人たちの更生について 理解を深め、それぞれの立場において力を合わせ、犯罪や非行のない明るい社会を築いて いくこと」を目的に、更生保護に関する正しい知識の啓発普及活動を展開することである。 特に7月を強調月間と定め、各地で多彩な行事が行われる。 主唱は法務省。 第74回に当たる今年の「社会を明るくする運動」のキャッチフレーズは、 「想う、ときには足をとめ。」 政府の広報用ポスターでは、ポスターの右サイドに大きな字でアピールされ、人目を惹き つける。 その横に、キャッチフレーズにそった詞文が書いてある。 「誰だって、すぐには本音を話せない。 誰だって、すぐには希望が抱けない。 誰だって、すぐには変わることができない。 でも、たとえ時間がかかっても、 たとえ過去にあやまちがあっても、 誰かと一緒なら希望はある。 声をかけ、背中を押し、 あきらめずに寄り添い続ける。 信じて待つ人の存在は、 立ち直りへの大きな力となるだろう。 私達の「待つ時間は」、 きっと誰かの「変わっていく時間」。」とある。 ポスターの真ん中には、ジブリ映画の主人公のような、黄色いカーデイガンを羽織ったや さしい顔つきの若い女性が、右の手のひらで黄色い羽根をそっと空に浮かべる仕草をし、 期待のこもった視線を、未来に続く空に向けて立っている。そんなイラストが描かれてい る。 黄色い羽根は「幸福(しあわせ)の黄色い羽根」として、犯罪や非行のない幸福で明るい 社会づくり運動のシンボルマークとなっている。 この「社会を明るくする運動」は、法務省所管の更生保護行政の一環。 「更生保護」とは、国が民間の人々と連携して、犯罪や非行をした人を地域の中で適切に 処遇することにより、その再犯を防ぎ、非行をなくし、これらの人たちの立ち直りを助け ると共に、地域の犯罪・非行の予防を図る活動のこと。 法務省の地方機関である、地方更生保護委員会(高等裁判所の管轄区域ごとに全国8か所 ある。少年院や刑務所に収容されている人の仮釈放に関する決定を行う機関)や、保護観 察所(地方裁判所の所在地に置かれ、保護司を始めとする地域の人々の協力を得て、保護 観察や犯罪予防活動などを実施する機関)で更生保護の業務が行われている。 ここで私が引いた傍線の箇所に「保護司」とある。 初めて聞く人も多いだろうが、この保護司とは、犯罪や非行をした人の立ち直りを地域で 支える、民間のボランテイアの名称。 さらに説明すれば「保護司法に基づき、法務大臣から委嘱された非常勤の国家公務員であ り、無給職」。 保護観察官(更生保護に関する専門的な知識に基づいて、保護観察の実施などにあたる国 家公務員)と協力して、次の活動を行う。 ① 「保護観察」(犯罪や非行をした人に対し、月に2~3回程度、自宅に招くなどして 面接を行い、更生を図るための約束事(遵守事項)を守るように指導するとともに、 生活上の助言や就労の援助などを行い、毎月、保護観察所に報告書を提出する) ② 「生活環境の調整」(少年院や刑務所に収容されている人が、釈放後にスムーズに社 会復帰を果たせるよう、釈放後の帰住先の調査、引受人との話し合い、就職の確保な どを行う) ③ 「犯罪予防活動」(犯罪や非行を未然に防ぐために、7月の強化月間などを通じて、 講演会や住民集会、学校との連携事業などの犯罪予防活動を促進する) こうした活動を行う保護司の数は、日本中で約4万7000名。東京保護観察所管内では 約3,400名。年々その数は減少しており、年齢構成は、70歳代が増加している。要保 護観察者数は増えても、保護司の数が増えない。保護司の役割は前述したように、問題を 起こした生身の一人の人間を、精神的・物質的・社会的に立ち直させることにあり、それ には保護司としての人間性・信頼性にすべてがかかっていると言って過言ではないだろう。 相手を思いやる心、相手に信頼される言動、名誉やカネのためにする活動ではなく、相手 が更生する日を楽しみに頑張れる心・・。 一見、綺麗ごとのように聞こえるかもしれないが、こうした要素を持っていればこそ、多 くの保護司は自分の職業の傍ら、ボランテイアとして熱心に更生保護活動を行っているの だと、私は思う。 当然、「保護観察」の対象者は、刑務所から仮釈放となったり、保護観察付きの執行猶予 判決を受けたりした人たち。 それも全く縁もゆかりもない初対面の他人。しっかりした信念の持ち主でないと、毎回の 面接も指導も容易ではないはず。 また、保護観察が無事に穏やかに推移すれば良いが、更生に至る例はどれほどの割合なの だろうか。再犯者が多いと聞くが。 先日、滋賀県大津市で、保護司が保護観察中の30代の男に殺害された。 場所は面接が予定されていた、保護司の自宅内だった。 新聞では「無償奉仕の保護司 守るには」「殺害事件 国が安全対策」 という大きな見出しで、国が保護司の安全を守るために、対策に乗り出したと報じていた。 記事の中で50代の女性保護司は「国は保護司に甘え、必要な制度づくりを怠ってきたよ うに感じる」と述べ、60代の男性は「私共はしょせん『地域の人』 対応が難しい観察対象者を抱えきるのには、限界がある」と不安を語っていた。 私も全く同感であるし、現在の更生保護制度の抜本的改革が待たれる。 7月は「社会を明るくする運動」強調月間。 私が小学生の頃から、毎年夏になると家の門の横の塀に、運動月間のポスターが貼られた。 私は小学校低学年の頃は「町の街灯が増えるのかな」ぐらいにしか考えられなかったが、 のちに「お父ちゃんが、また色々なところへ出かけるのか」ぐらいに思うようになった。 父はその頃、すでに目黒区の中でも活動的な保護司になっていたのだ。 この続きは次回にでも。 それでは良い週末を。 |