東井朝仁 随想録
「良い週末を」

哀愁(2)

最近、特に世の中が暗くなってきたと痛感する。
国民の間には、不安と混沌と絶望感が漂っている気がする。
社会の情況を色で例えれば、「限りなく黒に近い灰色」

今年になってから、街を歩くと黒い服装の人を多く見かける。
今春に結婚したドジャースの大谷選手。その花嫁の、元実業団バスケットボールで活躍し
た身長180センチの真美子さん。
彼女が初めてマスコミで紹介された時の服装が、スマートな黒のスーツ姿。
多くの人が「可愛くて素敵」「スーパーモデルみたい」などと賞賛し、主として黒を主体
とした上着やスラックスやロングスカートなどのファッションで、193センチの大谷選
手に寄り添う姿に、「控えめで好感が持てる」という好印象を抱いたものだった。
それ以降、私の印象では、街でも電車の中でも、黒い服を着た人がやたらに多くなった。
男女共に、若者は黒いTシャツや黒いスラックス。あるいは上下のどちらかが黒。そうし
た普段の装いは、若者に限らずに普通の中高年のおじちゃんやおばちゃん達にも伝播して
いる。
それまでも黒色の服装を好むコアの人達が散見されたが、そうした人のタイプは、何とな
く個性的で個人的な雰囲気を持っていた。
ちなみに「カラー占い」の言葉では、黒が好きな人は「強い意志を持っている。周囲が近
寄りがたい雰囲気を持っている」とのこと。
また「黒色」は従来から「絶望・死・悪」というネガテイブなイメージもある。
そうした黒の服が流行するのは、真美子さんのファッションに感化され、大谷選手の日々
の活躍に感動する国民は、進んで黒い服装をチョイスし、その結果、「私も同じ」という
連帯感の波を広げて行ったのではなかろうか。

そもそも昔は、冠婚葬祭以外で黒い服装をする人は、あまりいなかった。
サラリーマンでもOLでも、黒い背広とか黒いワンピースを着て出勤する人などは見かけ
なかった。黒いスカートに白いブラウス姿の女性は、バスガイドとか学校の女先生でしか、
私は知らなかった。
だが、私服で黒のセーターを着ている人は少なくなかった。そうした人は「ちょっと芸術
家風」に装いたかったのだろうか。前述したカラー占いで言えば「強い意志を持っていそ
う。ちょっと他の人達とは違う」という個性的な人が多かった。私も20代の頃は、俳優
の山本圭のように長髪をし、黒のトックリのセーターにねずみ色のジャケットをひっかけ
て、新宿などに飲みに行ったりしていたが。

だが現在は違う。
極端な言い方だが、結構多くの人が「黒い服」を日常的なものにしている。
今年の猛暑の夏でも、炎天下にブラック姿の人が行き交っていた。現在もそう。
私は「暑さより、ファッション優先か?」といぶかしく思っていた。
数年前までの夏は、服装は「白」が基調だった。
私も子供の頃は白い木綿のトレーパン(体育用)に白い開襟シャツで登校し、下校したら
白いランニングシャツ(下着)に紺の半ズボンで遊んでいた。
長じても、白か薄青などの明るい色物を着ていた。
なぜ白なのか。
それは、白色の服は「太陽光を反射しやすく、熱がこもりにくい」からである。反対に吸
収しやすく熱がこもりやすいのが黒い服だ。
多くの国民は、夏は白か青などの明るい薄い色で、冬は濃い色の服が定番だった。それは
長い間に培われた「四季の気温に適した」生活上の知恵だった。

国立環境研究所の実験では、「気温30度の屋外で、白と黒のポロシャツを同時間太陽光
に当てた結果、黒服は表面温度が50度に対し、白服は外気と同じ30度のままだった」
とのこと。
また「物体は色によって、太陽から放射されたエネルギーを反射する率が異なる。反射さ
れなかった放射エネルギーは、吸収されて熱にかわる。
そのため、白や黄色などの反射率が大きい色の服ほど、熱を持ちにくい。
熱中症対策には、こまめな水分補給と同様、外出の時の服の選び方も重要。
猛暑日には、温度の上がりにくい白い服装がベスト」と述べている。
だが、テレビでは「こまめな水分補給と適切な冷房の使用」ばかり喧伝し、国民は毎日の
ように黒い服を着て出かける人が絶えないのだから、熱中症対策は来年以降も大変だ。
余談だが、この夏は炎天下の工事現場では、上下ともに黒い作業衣を着た作業員が、とて
も多かった。
配送業やコンビニや飲食店などで働くエッセンシャルワーカーの現場でも、黒いユニホー
ムが普及している。
これは汚れが目立たないからか?コストが抑えられるからか?オール・ブラックスで協働
意識が高まるからか?わからない。

冒頭の話に戻るが、黒色は「紫外線を通しにくい」から、紫外線防止のために黒い服を着
ている人もいるだろうが、社会状況も国民の多くに影響している気がしてならない。
国の経済が停滞し、インフレで家計がひっ迫し、国民の所得格差が拡大し、将来に対する
不安が増し、国民の政治に対する不満が高まっている時は、社会は荒廃し、国民の心は塞
ぎ、泥棒や詐欺や殺人・暴行などの犯罪が増える。
そして生活スタイルはつましくなり、ファッションも控えめで地味になる。
日本の不安定で劣化した政治(裏金問題に端を発した政治改革も進んでいない。解散総選
挙の結果も、新たな力強い政権が誕生する気配はない)
そして、きな臭い国際情勢。
アメリカを始めとした自由主義国内の分断。中国の台湾侵攻の予兆。北朝鮮の絶え間ない
弾道ミサイル発射・軍事的挑発。泥沼化しているロシアとウクライナの戦争。同様にイス
ラエルによるパレスチナ自治区ガザの惨禍。中東情勢の悪化等、世界の多くの地域で拡大
する戦争・内戦。
従来ならこうした戦争の危機に対して国連が止めに入ったものだが、今はその国連は「言
うだけ番長」で機能停止中。国連軍も世界の警察を自負していたアメリカも、今や音無し。
それに地球温暖化による地球環境の危機などなど。
少なくとも第二次世界大戦以降、今や世界は最も危険な時代に入っていると言って、過言
ではない。

昨日、アメリカ大統領選でトランプ氏が勝利した。
トランプ氏は勝利宣言で「強く、安全で、繫栄している米国を実現するまで休まない。全
ては米国第一!」と叫んだ。
今後、「同盟国は、敵対国よりもひどい形で、我々につけこみ利用してきた」と指摘する
トランプ氏は、日本に対し、貿易面(日本製品に高い関税をかける)や軍事面(日本がま
ず戦争の矛(ほこ)になって戦うこと。在日米軍駐留経費負担の増額など)などで、厳し
い対応を迫ってくるだろう。
まさに今こそ、石破内閣が、いや全政党・全議員が「日本沈没」を防ぐために命を賭して
奮闘するときだ。

日本を取り巻く国内外の情勢は、かってない厳しさにある。
軍国主義が台頭し、不況で失業者があふれ、社会の閉塞状況から「エロ(キャバレー・売
春等の風俗)・グロ(猟奇的事件等)・ナンセンス(大衆が政党政治に投げかけた言葉)」
の世相を呈していた第二次世界大戦前。
現在の日本社会も同様。
エロ(ネットで飛び交う売春情報やエロ動画、未成年者の売春等)・グロ(衝動的な殺人
・暴行事件、闇バイトによる連続強盗事件、道交法無視の危険運転の横行、詐欺・窃盗の
横行等)・ナンセンス(不甲斐ない政治)関連のニュースが、連日のように流れている。

時代は繰り返すのでしょうか。
「黒い服装ブーム」は、自分の心にある不安や不満や怒りを無意識的に鎮める、国民の一
種の自己防衛の行為が作り出したのかな、と私は考えるのですが。

この続きは次回にでも。
それでは良い週末を。