東井朝仁 随想録
「良い週末を」

コロナ禍の日常での雑感(4)

前回は、「日本エッセイストクラブ賞」を受賞された、我が国の名女優のご三方(沢村貞
子・高峰秀子・岸恵子)のうち、沢村さんのエッセイについて、強く印象に残った文章の
一部を紹介し、感じるところを述べてみました。
今回は、高峰秀子さん(86歳没)と岸恵子さん(現在88歳)について。

まず、私がこのコロナ禍の日常の中で、気まぐれに多読している様々なジャンルの本の中
から、なぜ今回、このご三方のエッセイ集を取り上げたのか。
それは皆さんのエッセイには、明治や大正や昭和初期という一時代も二時代も前に生まれ
ながら、波乱万丈の90近くまでの長い人生を、毅然としてシャキッと背骨を伸ばして我
が道を進まれた、高潔な生きざまが随所随所に溢れていたから。
特に晩年に書かれた文章には、まさに後期高齢者に差しかかった我々団塊の世代にも、多
くの示唆を与えてくれる内容だったから。
それでご三方のエッセイを何冊も読んだのだ。改めて意識すると、皆さん、日本を代表す
る素晴らしい女優だったのだ。
それぞれが書かれたエッセイは、女優という「様々な時代の、様々な人の心になり切って、
役を演じてきた」経験から、社会や日常の些細なことや、人の心の機微を巧みに捉えてい
るので、文章が活き活きとしている。うまい。とりわけ、話し言葉などは「さすがに多く
の脚本を読みこなしてきた大女優」だけあって、自然な言い回しに感心してしまう。

ここまで述べてきて、ふと気がついた。
女性のエッセイトだったら、曽野綾子さんと兼高かおるさんもおられた。
曽野さん(現在89歳)は作家として著名で、このHPのエッセイでも2月18日付「フ
ァイト(4)」
で石原慎太郎氏との対談集を紹介したが、近年は「老いの才覚」(ベスト
新書)などの「人生本」のエッセイも多く出版され、それぞれ好評のようだ。
特筆すべきは、単に作家だけではなく、64歳からの10年間は、日本財団(旧・日本船
舶振興会)の会長として、世界の難民や開発途上国への救済活動で奔走されていた。
また、兼高さん(1928年~2019年・90歳没)は、ジャーナリスト兼プロデュー
サーとして、TBSテレビ「兼高かおる世界の旅」という番組を31年間担当。世界の約
150か国を取材し、その現地のリアルな映像をナレーターとして解説され、その美貌と
「・・・ですのよ」「・・・でしたわ。オホホホ」といった上品な話し方をされて、評判
だった。
晩年まで世界を飛び回り、生涯独身だった。
エッセイはズバリ「私の愛する憩いの地」「私の好きな世界の街」(新潮文庫)。20年
以上前に購入したものだが、これは今でも私の本棚にある(私が厚生省にいた50歳の頃、
飲食業者の全国大会に厚生大臣の祝辞代読で出席した際、特別講演で来席されていた兼高
さんにお会いしたが、当時でも年齢を感じさせない声のハリと、綺麗な表情が印象的だっ
た)

曽野さんも兼高さんも、アフリカや中近東などの多くの難民・貧民地域を訪問・慰問され
ていた。我が国の民間外交・国際支援に貢献をされていたのだ。
そして、同様の活動をされてきたのが、後述する岸恵子さん。
岸さんも女優やエッセイストとしての活躍と共に、NHK・BSのパリキャスターや国連
人口基金親善大使をつとめるなど、国際ジャーナリスト的な活動もされていた。

そして、これも偶然のことで、予め意図していたことでは全くないが。私が若い頃に、雑
誌グラビアや映像からのイメージで、何となく惹かれていた有名人は、歌手でもアイドル
タレントでも若い女優でもモデルでもなく、当時の兼高さん、曽野さん、岸さん、そして
NHKテレビの初代女性アナとなった野際陽子さんだった。
皆さん、私より15歳から20歳も年上だったが、異性というものを意識し始めた10代
後半から20代前半の頃の青臭い私には、彼女らが醸し出す凛とした雰囲気と容姿に、何
とも眩い「あこがれ」を抱いていたことがあった。(後年、好感を持った女優は、酒井和
歌子。
映画「めぐり逢い」で黒沢年男との共演だったが、これほど清廉な美しさと可愛さを有し
た俳優・タレントは、今までもいなかった。また、この作品は、私にとって今でも日本の
青春映画のベスト・ワンだと確信)

今回は、長い自粛生活の中で回想も増え、話が膨らんでしまいました。
高峰さん、岸さんのエッセイに関する話は、次回にでも。
それでは良い週末を。