趣味と健康(3)
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前回は、衰えてきた声帯を強化するためにボイス・トレーニングの講座に通っている話を した。 トレーニングと言っても苦痛をしいられるものではなく、好きな唱歌や歌謡曲を正しい発 声で繰り返し歌うという「声帯強化の練習」なので、実に楽しい。これは、歌うことが趣 味だから続けられている。 そうしたことを述べた。 今回はその続きです。 趣味とは仕事(職業)ではなく、楽しみとして愛好するもの。 趣味は人それぞれで、千差万別。 毎日の生活の中で、心身に安らぎと喜びを与えてくれるもの。 また、その人の性格に、その人らしい味わいと魅力を与えてくれる、生きる上での重要な 要素の一つ。 勿論、趣味を楽しむことは、健康づくりにも良い。 健康づくりの要諦は、適切な「食事・運動(スポーツ)・休養(睡眠)」 だろうが、これ らの3大要件に関係する趣味があれば、好都合だ。 趣味と言っても、多種多様。 昔の履歴書には「趣味」や「特技」の欄があったが、この二つの使い分けもちょっと迷う。 趣味は「自分が好きなこと(行為)」だったら何でも書けるが、特技は「他の人より上手 だと自信を持てる技能・技術などの能力」だから、客観的にもある程度以上の水準になく てはおかしい。だが、面接などで特に厳格な査定をされるわけでもないので、自分が「得 意」と思っていることを、素直に書けば良いだけなのだが。 趣味=特技ではないが、特技は往々にして趣味の延長線上にある。 まさか、趣味は「食べ歩き」、特技は「大食い競争」と書く人はいないだろうが。趣味は 「酒だ」「タバコだよ」と言っていた者は、長い間その趣味に溺れていたせいか、後年、 肝臓や心臓や肺や気管支ををわずらったり、依存症候群になっているようだ。 だから、たかが趣味といっても、その人の人生を心身ともに健やかなものにしてくれるも のにしたい。 昔から「趣味は、読書、スポーツ(観戦)、旅行」などと答える人が多かった。音楽や映 画鑑賞、写真撮影、ハイキングなども一般的だった。 公的な履歴書の趣味欄でなければ、競馬や競輪、麻雀、パチンコなどの賭け事が趣味とい う人も結構いた。 前述の「読書・スポーツ観戦・旅行」は、実際に私の友人がそう書いた。彼は大学のクラ スメイトで「週刊誌連載の恋愛(アダルト)小説を好み、春秋の2回、神宮球場で大学野 球を応援観戦し、春と秋に一人で鎌倉に日帰り旅行をしていた程度」の、酒だけが趣味の 男だった。その彼に就職試験の願書を見せられながら趣味欄の書き方を聞かれた。私が適 当に読書・スポーツ・旅行と言ったら、すぐにその通りに記入した。「ただし面接試験で、 好きな作家は?感銘を受けた作品は?などと聞かれるかも知れないので、例えば太宰治の 「斜陽」とか、石川達三の「青春の蹉跌」ぐらいは読んでおいた方がいいかも知れない。 三島由紀夫や大江健三郎だと、少しややっこしくなるな」と助言したものだが。 昭和時代のワンマン社長の会社面接だったら「趣味は酒。特技は毎回1升呑んでも、翌朝 元気なことです」と、悪びれずに毅然と答えたら、意外と御眼鏡(おめがね)に叶うかも しれないが。 話を戻して。 先月中旬には佐久市のセカンドハウスに行ってきた。 新幹線や小海線の車窓から眺める景色に、心が和んだ。 先週の初めは、半蔵門のマンションにある稽古場に行き、篠笛の個人レッスンを受けてき た。先週末は、甥の結婚式に出席するため、京都に日帰りで旅行してきた。式場が二条城 の真ん前なので、披露宴が始まる前に、お堀の周りや式場の裏の古い街並みを写真撮影し た。 今はスマホを常に携帯しているので、どこにいても気になる被写体があれば、パチリと写 真を撮っている。 写真も大好きな趣味だ。 今週の月曜日は、家の近くにあるゴルフレッスン場で、たっぷりと汗を流し、すぐ近くの 喫茶・ドトールで、レギュラーのブレンド(270円)ではなく「コロンビア」の珈琲 (420円)を注文。スマホのイヤホーンで音楽を聴きながら、コロンビアのコクと苦み のある風味を楽しみながら、ぼんやりと物思いにふけていた。 「トランプ大統領は、中国はもとより、全ての貿易国に高関税を課した。 これから世界の経済は混乱・悪化し、経済戦争が一段と激化する。 トランプ陣営の狙いは米国の貿易赤字の解消、要するに輸入品を少なくし、米国産の輸出 品を増やすことだろうが、同時に「大幅なドル安」を図るのだろうか・・・いずれにしろ、 日本は外交・防衛ともに米国に従属しているから、米国が経済戦争から軍事戦争の火種を 作って戦火が上がったら、日本はすぐに先兵となって敵に矛先を向けざるを得ないだろう。 今年は予断を許さない緊迫した世界状況が続くだろう。一日一日が勝負だ・・」などと考 えていた。 また、この欄の2025年2月5日の「新春に思う(4)」でも述べたが、「1985年 のプラザ合意(※主要各国が、米国経済の低迷回復を目的とし、外国為替市場に介入し、 円高ドル安誘導を図るという合意)のような〇〇会議が実現するのだろうか・・・」など と、あれこれ想像しながら、珈琲を飲んでいた(※今日の12時のニュースでは「トラン プ大統領が急遽、中国以外の国に対し、相互関税の発動を90日間停止すると発表した」 とのこと) この様に、喫茶店で好きな珈琲を飲みながら、新聞を読み、妄想に耽ることも私の趣味だ。 スマホやパソコンを見ているばかりでは、面白くない。 こうしてみると、ボイス・トレーニングで歌を歌い、篠笛で息を長く吐いて音を出すこと は、横隔膜を使った腹式呼吸となり、笛を吹くのは口すぼめ呼吸となり、肺の中に陽圧を かけるので、声帯や心肺機能の強化、ひいては誤嚥予防にもなる。 ゴルフの練習は適度の運動であり、クラブを振っている時は無心になっているので、心が 落ち着く。さして強度の運動にはならないが、1時間ほどクラブを全身で振っていると、 身体全体の筋肉が刺激を受ける。若い頃から常にバレーボールや野球やジョギングなどに 興じてきたが、今はそれらのプレイは荷重であり、第一、チームプレーなので「個人の運 動」としては無理。 その点、せめて好きなゴルフで、好きな時間にマイペースで汗を流すことは、日常ででき る適度な運動だ。当然、練習前に柔軟体操と腕立て伏せとスクワットを十分にやっておく。 旅行に行くことも、歌唱も、笛の演奏も、ゴルフも、あまつさえ喫茶店に毎日1回は入っ て、好みの珈琲を味わいながら瞑想にふけることも、どれも私の「現在の趣味」であり、 日常にかかせない心と身体の滋養となっているようだ。 健康づくりの3大S(食事・スポーツ・睡眠(休養))のそれぞれの分野で、幾つかでも 「趣味」として楽しめるものがある人は、幸せだと思う。 食べることや、動くことや、休養することや寝ることは、心身が欲する生きるための生理。 食欲・排泄欲・性欲・睡眠欲などは、本能として誰もが有している。だから食べもしなけ れば排泄もしないというわけにはいかない。 だが毎日、何も考えずに、ただ「食べて、仕事をして、寝る」ことの繰り返しだけで年を 重ねて生きていくことは、悪くはないが空しい。 趣味は「食べること、排便排尿をすること、性行為をすること、寝ること」などと言う人 はなかなかいないだろうが。中には「私の趣味は仕事です」という人もいるが、そういう 人に限って余り仕事はしていないようだ。 私が社長なら「何だ君は。仕事を遊びと考えているのか?!真剣にやれ!」と叱って、ニ ヤリとするが。 自分の趣味を生活の中に据えて日々を楽しんでいる人には、何となくその人なりの個性が 滲み出ていて好ましい。 その好ましい性格的な味わいは、趣味によって違ってくるようだ。 スポーツが趣味の人でも、プレーか観戦かで違う。種目によって違う。個人プレーかチー ムプレーかでも違う。記録の競技か勝敗の競技かでも違う。 芸術でもそれぞれの分野で違う。音楽か演劇か映画か演芸か?文芸か美術か映像か?等々。 いずれにしろ、自分が「楽しい」と感じられることは「特技」ではないかもしれないが、 堂々と「趣味」として宣言し、公言実行すればいいと私は思う。 それこそが、健幸な生き方ではないでしょうか。 それでは良い週末を。 |