首都大学東京・名誉教授
(放送大学・客員教授)
星 旦 二
はじめまして。一昨年より悠友林メンバーの一人となりました、星 旦二と申します。
私は、「健康長寿」についていろいろな調査や研究をしてきました。遅ればせの入会記念として、健やかに長生きするためのヒントについて、一言述べさせていただきます。
皆さまと共有できれば幸いです。
まず「いくつになっても、人は進化し、成長する」ということです。
人は年齢を重ねるにつれ、老いていくことへの焦燥感、悲しみが募ってくるようです。
たしかに、視力、聴力、それに体力は加齢とともに低下しがちです。しかし、すべてが低下していくわけではありません。総合判断力は、なかなか低下しないどころか、加齢とともにその能力が向上していくことが証明されています。
このように、人は年齢を経ることによって獲得できることはいくつもあります。「もう何も覚えられない」などと思わず、いつまでも好奇心を持って、喜怒哀楽も含めてさまざまな体験をし、総合判断力を磨いてい こうではありませんか。
次に「一病息災的健康の視点を持つ」ことです。
多くの高齢者は何らかの疾病を持っています。たとえば、男性高齢者の4割近くで前立腺に潜在がんが存在しているようです。若者でも、小学校4年生の9割に動脈硬化のきざしが見られ、歯槽膿漏も小学生から始まっています。
何らかの持病があっても、一病息災、つまり疾病と同居し、それなりにいきいきと生きていく考え方は、これからはどんな世代にも不可欠だと思います。「何で私だけが病気になるのか」と思わずに、いずれは皆が 体験することなのですから、病気と共存しながら、同時に病気を悪くしすぎないように目配りすること。
かかりつけの医師や歯科医師とも相談しながら、自ら予防していく姿勢、特にお腹を冷やさないで、腸内細菌フローラの免疫力を活性化し、ひいては健康長寿につなげて欲しいと思います。
自分に言い聞かせているようなものですが・・・・。
3つめは「笑顔のある生活を心がけよう」ということです。
笑顔のある生活、それはがん細胞を攻撃する免疫細胞の増加につながることが証明されています。
悲観的に考えすぎず、日々笑い飛ばせるようなおおらかさを持って生きていくのが理想です。
年をとれば、将来への心配ごとや家族との問題、身体的な不安など悩みはつきないと思います。
しかし、主観的な健康感や幸福感はとても大事です。心が風邪を引かないことが最も大事です。
多少の困難や資金不足、誰かとの確執があっても「なんとか幸せにやっています」と人に言える気持が大事なのではないでしょうか。そして、仲間を持ち続けることもまた、大切にしてほしいと思います。
4つめは、「薬より食の重要性」です。
日本人は薬大好きの国民です。高血圧薬だけでも世界の生産額の半分を日本だけで消費しています。
私の経験から言えば、薬は少なめが健康の秘訣です。
ヨーロッパ連合EU事務局は、病院での不耐性菌感染、誤診、手術ミスなどの事故で年間約15万人が死亡 していることを報告し、同時に市民の約53%は病院が危険な場所であることを認識しているものの、その割合を高める患者の力量形成向上策を提案しています。
毎日の食事こそ薬膳です。
自然の恵みの豊かな食を楽しみ、孤食よりも誰かと会話しながら、おいしく食べて笑顔でいられれば、 言うことはありません。
そのための口腔ケアは、とても大事な基盤となります。
最後に「とにかく外へ出よう!」と、私は提案します。
私達の研究チームの調査※では「おでかけ好き」の方が健康長寿であることが明確になっています。
だれしも年をとれば、腰が痛い、膝が痛いなど、外出を妨げるような体調に陥りがちです。
しかし、「あの映画が見たい」「デパートのイベントに出かけたい」「お友達とあのレストランの食事を楽しみたい」 といった楽しみや希望があれば、少しぐらいあちこちが痛くても、楽しさが打ち消してくれるでしょう。
そして、満足を得たあと「自分もまあ、健康じゃないか」と思えるのであれば、ますます長寿につながるというものです。
外出頻度を増やすために必要な要素は、自分で財布を管理すること。知的能動性です。
どうぞ、嫁や子供に財布を渡さないようにしてください。
腰が痛いのなら荷物を軽くし、手足が自由となるリュックを使って、気軽に出かけましょう。
買い物に行く人、旅行している人は長生きです。おでかけは、その人のポテンシャルを限りなく高めてくれるのです。
さらに付言すれば「口紅、化粧、身だしなみ」です。
高齢になると、新しい洋服やメイクなどにも興味を失い、地味に目立たなくなっていく方が多いように思います。
しかし、私たちの調査では、健康長寿と関連する要因は、「趣味があり、外出頻度が高く、主観的健康感が高いこと」でした。
そして、人の中に出て行くことで、背筋を伸ばし、身だしなみを整える。そのことがまた、健康長寿に大きく寄与するようです。
私がスウェーデンを訪問し、厚生技官に、「健康長寿のために、これから何をすべきか?」と聞いたら、出てきた言葉が「口紅、化粧、身だしなみ」でした。それを受けて、我々研究チームの中で「病院より美容院に行こう」というキャッチコピーができたのです。
相手の失礼にならない身だしなみ、自分は「きれい」という自負、歯も大切にして笑顔をさわやかにする。いずれもがいきいきと生きる人の基本的なケアなのかもしれません。
宝くじで1億円当たった人はなかなかいませんが、年金で1億円獲得の可能性はあります。夫婦で90歳まで生きれば1億円。
これは夢ではありません。
どうか皆さんには、「健康長寿」で過ごされ、「年金獲得1億円」となられることを期待しています。
(注・2016年8月21日の東京新聞、健康長寿特集もご覧ください)
※ 全国16市町村の2.2万人と都内A市の1.3万人の高齢者を対象とした生存維持の追跡調査:拙書「ピンピンコロリの法則」(ワニブックスプラス新書.2010)