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東井悠友林

  〜PLAY THE GLASS

        ガラス造形家
         増 田 洋 美
   

 
 

私はガラスを素材として造形をしているアーティストです。
 東京芸術大学工芸科を卒業後、結婚して主婦業に専念している時期に、「宙吹きガラス」という、熔けたガラスを鉄のパイプ棹に巻き取り息を吹き込み、形を作る技法を習いましたが、これはまさに運命の出会いでした。すっかりガラスの面白さにとりつかれてしまったのです。でも技術を習得する勤勉さは無く、手先の器用さもない私は、ただひたすら面白がって遊ぶことに専念してきました。
 ヴェネツィアにガラスを作りに通い始めて16年経ちます。ヴェネツィアビエンナーレは、2年毎に開催される世界のアーティスト、評論家、ジャーナリストが集まるアートの祭典です。その現場にいて感じたのは、欧米人はガラスが好きだということ、誰も作ったことの無いアートを見ることに情熱を燃やすということです。私のガラスを見て、フーン日本人はこういうガラス作品を作るのかと言われ、NO,だれもこんなことやってませんよと言ったところ、じゃ、あなたは世界で誰も作らないものを作ってる作家なんだねと、面白がってくれました。
 世界一の技術者と自負するヴェネツィアの職人さんに、大きな丸いガラスを吹いてもらい、そこからが職人としての技術の見せどころなのに、それを私がつぶしてしまうのです。勿論、私の意匠で自由自在に変形させてしまうということです。このように、なんとも職人さんをバカにしたことをやり続けています。
 「PLAY THE GLASS ガラスで遊ぶ」という表現で発信してきましたが、遊び続けてきた結果、丸いガラスをつぶすことばかりやっているのはなんなんだろう、と自問するようになりました。遊んでいる時、人はリラックスして自分に素直になっているのではないでしょうか。遊び相手であるガラスに素直になって向き合い続け、私はガラスの本当の姿を知ることができたのです。遊んでいる時ガラスはとても熱く、とても柔らかいのです。私が作ってきたガラスたちは、見る人がどうしても触りたくなるもののようです。触ると気持ちがいいという人も大勢います。ガラスの本当の姿を知ってもらいたいために、できるだけ大きいガラスを何百個も作って観てもらうことを続けてきたのだと、ガラスの造形を始めてから35年も経って、最近やっとわかってきました。
 ヴェネツィアビエンナーレでは、世界中のアーティスト達が押し寄せるので、展示場所としてギャラリーのような空間を確保できません。どんな場所でもガラスたちがその場所を生かして居心地よいようにすることをこころがけて展示してきました。
 ヨーロッパでは、乳母車を押しながらのママでも展覧会を気軽に見に来ていますが、日本では、ギャラリーに入ることに気後れを感じると言う人が多いようです。この10年近く、日本でも公私の場所へのお呼びがかかるようになりました。展示場所が決められていることが多いのですが、それ以外の場所にはみ出して展示することでアートを観るという緊張感を解きほぐし、気軽にアートに接してもらうように心がけています。
 遊ぶ時だけでなく、恋をする時も、人は素直になって自分をさらけ出さねば相手に自分の心を伝えることはできないでしょう。
 私は多分ガラスと恋をしているのだと思います。そして、ガラスと一緒にいろんな所に旅をしているような気がしています。
 今年は大分県立美術館、広島市の小さなギャラリーとビーズの会社の親子連れが遊びに来るという小さなテーマパークのような施設で展示させていただきました。
 大分と広島は、私にとってもガラスたちにとっても初めての地でしたが、とても楽しい旅でした。