東井悠友林
~引き分けの文化~
愛媛県産業雇用局長
河 瀬 利 文

柔道・金メダリストの山下泰裕氏と
「こら!技かけるな!そこは行くな!」「我慢!」「じっとしとけ!」試合会場の周りを取り囲む監督、コーチ、保護者からの檄が飛ぶ。大きな選手が必死の形相で小さな選手を追い込んでいるが、小さい選手がしのいで試合終了、引き分けに終わった。引き分けに持ち込んだ選手は皆に祝福され照れくさそう・・・・。その結果、先鋒と次鋒で勝利し、中堅戦で落としたものの、副将と大将が引き分け、2対1で決着がついた。
私の趣味の一つは柔道。以前、東京事務所に勤務の折(この時、東井さんと出会う)に、一念発起し講道館に通い初段を取得。帰県後も松山市内にある道場に通い続け、怪我だらけの体で現在は4段。小中学生に柔道を教えながら、依然自分の柔道を高めようとしております。
柔道団体戦は先鋒から大将までの5人が、それぞれ3分の試合時間で戦い、勝ち数が多い方が勝ちとなっている。ということは、先に3勝すればいいのかというと、そうではなく、実はこの団体戦には、引き分けというのがある。つまり、5人のうち誰かが1勝すれば、後の4人は引き分けで勝になる。個人戦と違い判定もない、引き分けを織り込んだ試合なのです。
基本的に団体戦は体重無差別で行われるため、かなりの体重差で勝負しないといけない場合もあるが、負けなければ、後の人に繋ぐことができる。したがって、冒頭の声援となるわけです。当然全員勝てれば問題ないですが、勝てなくても、負けなければその団体戦を制することができるため、試合前は、5人のうち、「お前は必ず勝て」「お前は勝たなくてもいいぞ。無理するな!」「お前の役割はわかってるな」という風に、役割を決めて試合に臨みます。小さい選手でもうまく試合を運べば引き分けられる。大きな選手は勝って当然と攻めますが時間がどんどん迫ってくる。引き分けになれば、大きな選手はがっかり、小さい選手はしてやったり、これぞ柔道の醍醐味!
ところが、世界選手権や東京オリンピックで初採用される柔道団体戦は、この引き分けがなく、とにかく一試合ごと延長戦をやってでも勝負をつけ、3勝した方が勝ちのルールだそうです。
いかにも「JUDO」、単純でわかりやすいルールですね。でもそこには、とにかく相手に勝つことしかなく、日本特有の「相手と戦っても勝負をつけない。分ける。白黒つけない」ということを含めた、高度なスポーツ文化が失われているのではないでしょうか?
そういえば、野球の世界でも、アメリカ大リーグは引き分けがなく朝まででも勝負するそうです。日本のプロ野球はちゃんと引き分けがあります。この引き分けこそ、日本独特の文化なのかなと思っています。「勝者も敗者もいない試合」を認める寛容な文化、なくしてはならないと思います。