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東井悠友林

  〜人類は存続できるか〜
         

 
  

   日本綜合医学会名誉会長
    (当法人相談役)
        渡邊 昌


1.玄米で未病を治す

 私は80歳を前にして残る人生何をやるか、と考え、病気予防「未病を治す」ということにチャレンジしようと考えました。国立健康栄養研究所の4年間は日本の医療の問題を考えるよい機会でした。日本の医療は西洋医学、佐伯矩(タダス)の始めた栄養学、石塚左玄の食養生、東洋医学を主体にした統合医療の4つに分かれていて相互の交流はあまりありません。本来ならすべてを癒合させた医療となるのが望ましいのですが、なかなかそうはいかず、その背後で少子高齢化や医療破壊が進んでいます。

 私は健栄研退任後、医師、栄養士、患者の間で対話のプラットフォームになるように「医と食」という雑誌を立ち上げ、12年間編集長を務めました。またアジア太平洋臨床栄養学会会長を4年務め、アジア人の栄養学が必要とおもい、マゴワヤサシイを土台に「栄養学の基本」を執筆、これは中国語、台湾語、韓国語に翻訳され、東洋人の栄養学に貢献しています。

2. 健康な人は病気にならない

 私は健康な人は病気にならない、という真理を実感し、病気になる手前で健康体に戻すという「治未病」こそ日本を救うということに思い至りました。近代医学は未病は病気の前段階で、早期診断早期治療が必要だと、すぐに薬をつかいますが、これは一時的に症状を軽くしても薬に頼りむしろ病気を固定化します。二木式健康法の玄米菜食こそが健康体に戻れます。私は食、こころ、体を土台とし、スピリチュアルな生き方を目指す正四面体モデルを提唱していましたが、期せずして二木の健康法と一致することを発見しました。

 日本の医療界は食事療法を重視していません。これは栄養学などは学問でないとし、栄養士教育が医学部でなく、家政学部で行われていることに象徴されています。なにより食品には病気予防や治療効果を表示できない、という規制もおかしい。これは米国で機能表示の会議がもたれたときに「リスク低減」としか書けないという米国案に安易に同調したせいです。リスク低減は集団を対象にした疫学用語で、今のように個別化医療、個別化栄養学が広がってきた時代にはあてはまりません。

東洋には医食同源という言葉があるように食事は病気予防、病気治療に役立つことは当たり前のことです。バイデン米大統領も2022年にFood is medicine movementを提唱し、医療費削減のためにメディケイドは医療効果のある食品に助成金を出す、ときめました。日本も高額医療の道ばかりを追求せずに、健康体という土台つくりに励むべきでしょう。

 玄米食を薦めると、エビデンスはあるか、という反論をしばしば受けます。10年ほど前に綜合医学会の先生方に玄米で治療効果をあげた症例を挙げていただき、「玄米のエビデンス」という本をまとめました。またおいしい玄米つくりには根圏の土壌、水、お百姓さんの努力が大事とおもい「玄米のエビデンスII」を発行しました。一月初頭に玄米と健康、治未病のメカニズムを明示した「玄米のエビダンスIII」を発行しました。この3部作に玄米のすべてをまとめたつもりです。

 日本には透析患者が34万人もいて医療費は1兆7千億円にもなります。1億2千万人の国民が食べるコメは1兆4千億円にしかなりません。慢性腎不全から透析に進行するのを抑えるのには腸内で発生する腎毒素を減らすのが一番効果的で、そのために腸内環境をただす低たん白質加工玄米を作成しました。これはJASの認証もとりましたが、医療界の食事療法軽視の影響をうけて一向にひろまりません。むしろ海外の評価の方が高いのは残念なことです。

3.人類は存続できるか
 
 今、日本は総選挙をへて少数与党の多党政治となり未曽有の大混乱になりそうです。トランプ大統領はアメリカファーストでWHOやパリ協定のような国際的機関からの撤退もいっています。世界ではアフガン、中東戦争はくすぶり続け、ロシアのウクライナへの戦争、アフリカやミャンマーなどでの民族虐殺や世界で発生している大量の移民問題など解決の難しい問題ばかりです。

 村山節(ススム)の「文明の研究」は8世紀ごとに東西文明の交代がおき、交代期には100年ほどの混乱期があるといっています。2000年以降は西洋文明は衰退する周期です。交代期にはいつも大量の民族大移動がありました。このような隠れたリズムは地球全体が一つの生命体であるとするガイア仮説と奇妙に一致します。私たちは五感に触れないものは存在しないものとしていますが、「気」などは感じる人と感じない人がいます。私は6年前に「科学の先、現代生気論」という本を書きましたが、その後の研究を「認識の先」と発展させて世に問うつもりです。

  日本はこれからどこに行くのでしょうか?人類滅亡の危機にある中で、人類の生き延びる指針を示せるでしょうか。世界的に少子高齢化が起きていますが、日本への移民は280万人を超えました。このような大変化はやはり文明の転換期にきているのでしょう。世界各地で女性が大統領や首相に選ばれています。これからの800年は東洋的文化で女性の時代と思います。そうしてみるとこれからの方向は@地球の全生命を担うガイアとの共生、A平和な1万年であった自然と共生する縄文思想の復活と普及、Bそれを支える気候変動にも耐えられるつつましい玄米菜食の3つが人類存続の指針となると思われます。この目標に世界中の国が向かえば地球は平和になるでしょう。二木謙三の修道会、古代史研究、玄米菜食はこの方向につながるものです。

4.これから

 厚労省は疾病予防対策としてメタボリックシンドローム対策に力を入れてきましたが、特定健診・保健指導の対象は74歳までで終わります。日本の百歳老人は10万人になるという状況下でも75歳から100歳までの健康づくりの指針のようなものはありません。日本老年医学会は「フレイル」の対策を打ち出しています。昔は老化といっていましたが、加齢とともに筋肉や認知機能など心身の活力が低下し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの危険性が高くなった状態のことをフレイルとして対策にのりだしました。いままで個別の症状に対応して多種類の薬剤をだしたりするのではなく、患者に全人的に対応して健康長寿を目指してもらうという発想が必要でしょう。私たちが提言してきたように「食・こころ・体」を一体化して「悟性の生活」をめざす、という全人的なアプローチが必要で、それには地域社会の共生と自立が必要です。当法人の活躍を期待しています。