東井朝仁 随想録
「良い週末を」

きたる年は・・・ 

これは今年(2022年)の年賀状の文面。
「―この1年―
新年おめでとうございます。
さて、世界も日本も未曽有の出来事に、次々と見舞われる予感を禁じ得ない、余りおめで
たくない状況にある中、私も75歳という人生の節目を迎えました。
でも『元気で生きていられる』からこそ迎えられた新年。
自然と『おめでとう』の言葉が出ます。
そして『これからは来年、再来年などのことは考えられない。
大切なのはこの一年。この一年に希望を託し、悔いなく過ごす!』の心境なのです。
どうか、本年もよろしくお願い致します。」

その元旦から始まった令和4年も、あとわずかの時間。
この一年を振り返ると、まさに年賀状で書いた「未曽有の、予期せぬ出来事」が次々と勃
発した、私の感覚では戦後最悪の年だった。
その巨大な第一弾が、早春に勃発したロシアのウクライナ侵攻だ。そのロシアによる侵略
戦争は現在も続き、予断を許さない状況が続いている。
(注・2022年2月24日・同28日付の「もしかしたら・・・
続・もしかしたら・・・」をご覧ください)
私の考えは、この2月当時と変わらない。
だが、日本の状況はさらに深刻化してきた。

今年は、第二次世界大戦で敗戦した1945年から、戦後77年目にあたる。
1956年(昭和31年)の「経済白書」で、『もはや戦後ではない』と書かれていたに
しても、これまでなにかと「これは戦後初めてのこと」というように、現在を語る時、し
ばしば「戦後」という言葉が、国会答弁でもマスコミ等でも使われてきた。

しかし、現在は「戦前」ではなかろうか。
私はそう感じる。
何の戦前か。それは「第三次世界大戦」か「対・侵攻国戦争」の前ということ。
単純な話、今月16日に閣議決定された新国家安全保障戦略など安保3文書では、「自衛
隊を『戦える組織』に変革するとともに、『非対称な日米同盟』(注・米国が矛(ほこ・
攻撃)、日本が盾(たて・護衛)という従来の役割分担を是正する方向とのこと(本日の
読売朝刊)。
これにより、日本も米国と共同で戦闘し、場合によっては日本単独の反撃も想定した新防
衛体制の時代に入った。
そのため、敵基地や艦艇等に対する攻撃能力を高めるための長射程ミサイルや多様な無人
機の導入、弾薬・誘導弾の大量備蓄、敵の宇宙・サイバー・電磁波攻撃への通信・偵察・
攻撃が可能な防御態勢の整備、部隊や装備等の輸送力の強化等々が図られていくことにな
るのだろう。
このため我が国の防衛費は、2023~2027年度の5か年計画で総額43兆円に上る
とのこと。

他方、一部の地方自治体でも、大災害やミサイル等による空襲を想定し、シエルター(避
難所)の新設や既存施設の併用指定などの施策が図られ始めた。
地震や豪雨などの大災害が起こってから「まさか。想定外だった」では、もはや済まない
のだ。

一方、今日の読売朝刊では「中国・南西諸島攻撃訓練 安保3文書受け開始」とか「ウク
ライナ大統領、訪米。バイデン大統領と会談。バイデン氏はパトリオット(高性能地対空
ミサイル)を含む20億ドル(約2700億円)の追加軍事支援を発表する」とか「ロシ
アのプーチン大統領、新型ICBM(大陸間弾道弾)を実戦配備へ」といった記事が並ん
でいる。

こうした軍拡競争の世界的潮流に、日本も完全に呑み込まれている。
首相から国会議員から一般国民の過半数に至るまで「軍事力の増強や反撃はやむを得ない」
とのムードに覆われている。
今まで継続してきた憲法第9条の解釈における「自衛権の行使」の内容は、現実的に大き
く変更された。
一国の総理から出る言葉は「疑問点は今後とも十分丁寧にご説明してまいりたい」「その
点は、今後しっかりと検討してまいりたい」ばかりだが、野党や労組や市民団体や有識者
からの声は、あまり聞こえない。見えない。
勿論、マスコミからの反政権的な論調も聞こえてこない(懸念の意見はあるが、弱い)

今日の朝日新聞では、会計検査院が東京五輪の大会経費が約1兆7千億円に上るとする検査
結果を公表した。
過日、大会組織委員会が報告した経費総額は約1兆4千億円。
国の負担した直接経費約3000億円が洩れていたのだ(注・大会への支出額を、国は公
表していない。また検査院は、スタッフ弁当30万食及び選手料理175トン分が廃棄さ
れていたと報告)
日本は超借金大国なのに、ここ数年だけみても滅茶苦茶な予算乱費を重ねているように見
える。

政府は来年度からの防衛力強化資金の財源確保のため、独立行政法人「国立病院機構」と
「地域医療機能推進機構」の2021年度の積立金計746億円を国に返納するよう、厚
労大臣に指示したとのこと(朝日)。
これは一例で、国は今後も新税・増税・基金取り崩し、国債発行などを図り、遮二無二防
衛力強化に集中していくのだろう。国家財政がひっ迫している中、これから少なくても5
年間、今までの倍の防衛予算を計上して防衛力の強化を図るとしても、他の軍事大国の軍
事力を凌駕することが、果たして現実的に可能なのだろうか。敵も日本以上に軍拡に走る
だろう。
このような状況が続いたら、日本は内部から崩壊していく懸念が、国会にも政府にも有識
者たちにも無いのだろうか?

朝日新聞の声欄には「戦争始まる前に、明日のご飯が・・・」という見出しの投稿が掲載
されていた。
投稿者は25歳の会社員・女性。
「防衛費のために本当に増税するんですか。私たちを守るために?給料は上がらないのに、
物価は上がる一方です。『生活が大変』と言えば、努力が足りないと言われます。楯突け
ば、『お前の代わりはいくらでもいる』と切り捨てられます。戦争が始まる前に、明日の
ご飯がなくなりそうです・・。もうこの国では上のいうことが絶対で、声を上げることは
許されないのでしょうか?『明日はいい日になる』というのはもう無理みたいです」

もはや、支持率が25%を切ろうが、誰が何といおうが「国民は、NHKの紅白歌合戦で
も観ながら年を越せば、ガラッと変わるだろう。いま辞任したら日本はさらに混乱する。
私は辞めるわけにはいかないのだ」と岸田総理は楽観的かつ悲壮に考えているのか。それ
より私は、与野党ともに、岸田総理に変わる人材が政界にはいないから、と感じているの
だが(菅氏、麻生氏の返り咲きなどの声も聞こえるが、そうなったら、それこそ日本の敗
戦処理内閣になるのでは?)

ともかく戦争は、国の要人の多数も、学識経験者も、そして殆どの国民が「まさか?!」
と驚愕するように、ある日突然に勃発することは、過去の歴史からも想像がつくこと。
「今の日本は、戦前」と言ったら、「おかしいんじゃない?今は戦後だよ」と窘(たし
な)められそうなので、冒頭の話に戻ります。

来年の元旦には、きっと今年の年賀状の文面と同様のことを考えながら「この一年、、、、」
と呟き、心静かに熱燗を酌み交わしていることでしょう。
これは亡母や作家の宇野千代さんが述べた言葉ですが「陽気は美徳、陰気は罪悪」と添え
書きし、努めて日々の幸せを探しながら生きて行きたいもの、と念じていることでしょう。

それでは良い週末を。良い新年を!