「第10回 日米ユースフォーラム」
高円宮妃殿下 記念誌へのお言葉
早いもので、本年、日米ユースフォーラムが10周年を迎えました。おめでたいこととお喜び申し上げます。
発足されて以来、私は多くの優秀な学生がパネリストとしてこのフォーラムで自分の考えを述べる姿や、日本としては
いまだ珍しい、青年と社会人の世代を超えた交流と意見交換を興味深く拝見拝聴してまいりました。国交間での難しいテ
ーマであっても、青年同士は、相手に配慮しながらも自分の意見を堂々と述べ、フォーラムを通して一所懸命に互いを理
解し、垣根を超える努力をすること、さらには、互いの意見や解釈が違うことを尊重できます。現実の社会ではほかの要
素が入ってしまい、なかなか解決しないさまざまな課題に対して、その本質を見極めた意見が発信されことも多く、実に
頼もしいと感じます。
このフォーラムは、日米学生会議(JASC)の卒業生の発案により設立されました。日米学生会議とは1934年に当時悪化
する両国政府の関係を危惧した学生たちが日米間の理解と友情を深めようと理想に燃えて設立されたものです。80年の長
きに亘り二国間に不可欠な交流プログラムとして両国の相互理解と友好協力関係の増進に多大な貢献を続けており、特に、
日米の次世代のリーダーを育成する場としても重要な役割を担ってまいりました。日米学生フォーラムは日米学生の声を
世界に発信し、将来のリーダーを育む新たな場として、JASCジャパンと日米協会を中心に発足し、その後フルブライトジ
ャパンが加わりました。その後に外務省及び米国大使館の後援、多くの企業や団体の協賛とご支援を頂くようになりまし
た。
私たちを取り巻く社会情勢は変化いたします。その年に学生が討議するに相応しいテーマは世界の急速な拡大と変化に
伴いグローバル化しており、日米を超えた視野を持つ事が以前にも増して重要と思われます。そこで、本フォーラムは時
代の波を乗り越えてきた中立的な日米青年の友好のモデルを世界へとに広げる事に着目し、新たな展開として、日本やア
メリカ以外の国からのパネリストを招待して課題を討議する場を設けました。
この10年間、本フォーラムの開催に尽力されてこられた方々に心より敬意を表するとともに、広く発信をして、より多
くの方のご支持をいただければ幸いです。今後も、このフォーラムが世界をキラリと照らす存在として永く続く事を心よ
り願っております。
Congratulatory address
H.I.H Princess Takamado
This year marks the tenth anniversary of the Japan-America Youth Forum
and I take this opportunity to offer
my sincere congratulations.
Over the years, I have observed many able students give presentations
at the forum and exchange views with
those far surpassing them in age - something that is rarely done in Japan.
I have watched young people state
their views clearly, even when it is a topic that concerns difficult issues
between their respective countries, and
they have done it in ways that show consideration for others. It seems
that through the forum, they sense the
need to overcome barriers and to respect differing opinions and interpretations, and they try their utmost to
understand each other. It is really encouraging to see students voicing
clear opinions and getting to the heart
of issues that never get solved in the real world because of other complicated
factors that cloud and obstruct
the way.
The Forum was set up by people who had experience of the Japan-America Student Conference,
an organization that was initiated in 1934 by university students who were
anxious about the breakdown in
bi-lateral relations between the U.S. and Japan, and passionately believed
in the importance of friendship
and understanding between the two nations. For over 80 years, JASC has contributed greatly in the promotion
of mutual understanding and friendly cooperation between the U.S. and Japan
through its exchange program
and has played an important role in providing valuable learning experiences
for our future leaders.
The Japan-America Youth Forum was initiated by JASC Japan and the Japan-America Society, and later joined
by Fulbright Japan, with the aim of nurturing young leaders by providing
them with opportunities to voice their
opinions to the world. It now has the support of the Ministry of Foreign
Affairs and the American Embassy,
and is sponsored by several major companies and organizations.
In the present international environment, it has become more important
than ever to have an outlook that
encompasses a vision that is wider than just U.S.-Japan relations. So
the Youth Forum has chosen to focus on
the essential spirit of dialogue that was initiated by Japanese and American
students, and which saw us through
difficult times in our bi-lateral relationship, and has expanded this model
to include other nations. The Youth
Forum now reflects our rapid globalization and includes students from a wide selection of countries, discussing
themes and issues that cover a wider spectrum.
I commend the efforts of all those who have been involved in the U.S.-Japan
Youth Forum over the last 10
years and take this opportunity to hope that the voice of the Forum will be heard by many and that many will
share your vision. I do hope that this Forum will continue to be a light
in the sky, showing us the way in which
our path lies.
Many congratulations on your 10th anniversary.
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日米ユースフォーラム10周年記念誌 増補完成版によせて
柳井俊二 元駐米大使 国際海洋法裁判所判事
日米両国の関係が悪化しつつあった1930年代、何とか日米関係の悪化を
食い止めて好転させ、相互理解を深めようと両国の学生が日米学生会議を
立ち上げました。この精神は、第2次大戦後も日米の有志によって引き継
がれ、特に2005年からは、日米学生会議の同窓会、日米協会及びフルブラ
イト元研修生達の協力も得て、日米ユースフォーラムが活動を開始しまし
た。それ以来、日米ユースフォーラムは、高円宮妃殿下、山本東生代表理
事をはじめとする多くの方々のご支持とたゆまぬご努力により、所期の目的に沿った業績を積み重ね、
昨年10周年を祝いました。その間このフォーラムは、日米学生会議以来の実績を継承しつつも、地
球環境問題やエネルギー問題の深刻化、情報化社会の出現、中国の台頭を巡る東アジアの変貌、更に
は自然災害の激化等に照らし、日米二国間関係からグローバルな関係に視野を広げ、パネリストにも
日米のみならず、アジアや欧州の学生達も加えるようになって来ました。
私は、光栄なことに、故鈴木忠雄初代会長の後を受けて二代目の会長にならないかとのお話があり、
これを喜んでお引き受け致しました。然るに、この3年半の間は、国際海洋法裁判所の所長として、
また、所長の任期を超えて続いた裁判の裁判長として、ハンブルクに常住しなければならなかったた
め、東京におけるフォーラムの活動に十分な参加をすることができず、内心忸怩たるものがありまし
た。特に、昨2014年12月の第10回フォーラムに出席できず、皆様に直接ご挨拶することができなか
ったのは残念でした。本年からは再度東京在住となり、裁判所の仕事は出張の形で継続することにな
りましたので、フォーラムの活動に参加しやすくなりました。フォーラムの主な活動は、年末の学生
によるパネル・ディスカッションと年前半の学生激励講演会ですが、本年6月7日には講演する機会を
得て、学生諸君や志を同じくする社会人達と意見交換をすることができました。最近、日本の学生達
は内向きだとしばしばいわれますが、講演の後の意見交換の機会に接した学生達は、はっきり意見を
いい、手応えのある反応を示してくれたので、心強く感じました。
地球環境問題や今なお存続する多くの国家間紛争に加え、一層激化する無差別テロ活動等、世界は
益々困難な多くの課題に直面しています。このような課題の解決には、これからの世界を担う多くの
国々の学生達の英知を結集する必要があります。
更に、課題の解決に留まらず、新しい文化を生み出すためには異文化間の交流が不可欠だと思いま
す。このことは、世界の歴史が証明するところであり、身近な我が国の例を見ても明らかです。古代
や中世における中国や朝鮮半島、戦国時代以降のポルトガルやオランダとの交流、幕末の明治維新と
開国、そして第二次大戦での敗戦とそれに続く大改革等を通じて我々日本人は、変化する状況に順応
しつつ新しい文化を生み出して来ました。このような異文化交流は、時には平和裏に、また、時には
痛みを伴う激烈な形で行われました。然るに、戦後の復興と高度経済成長を遂げた後、わが国民はと
もすれば現状に満足し、内向きになりがちです。今こそ、日本の学生諸君には、奮起して同世代の多
くの国々の若者達と異文化交流を積極的に進めてもらいたいと切望します。さもなければ、我が国全
体が「ガラパゴス化」する危険に瀕しています。このような意味で、我々のフォーラムは、よりグロ
ーバルに視野を広げ、アニュアル・ユース・フォーラムとして、世界の課題の解決と新しい文化の創
出に少しでも貢献したいものだと思います。今後とも皆様のご理解、ご支援とご協力をお願いして、
次の10年間に向けてのご挨拶とさせて頂きます。